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勇者猫  作者: バゲット
80/98

80.アルクの怒り

俺達が連れて行かれたのは、森を抜けた西側にある鉱山の地下だった。



そこは茶色い岩山で、商人たちは普段ここから採れる鉱石や魔石で商売をしているらしい。

しかしその地下に隠された空間があり、密かに人身売買も行われているようなのだ。



俺達を捕らえた男達は不憫なことに、ハジメをただの冒険者だと思っていたらしい。

自分達が捕らえたのが勇者であるとも知らず、ハジメを含む俺達全員を地下にある牢に放り込んだ。


なお、さらに不憫なことには俺も勇者なのだ。



なぜか男達は俺だけ別の牢に入れ、アルクとハジメを一つの牢に突っ込んだ。


「ちょ、ちょっとなんでしょこ……じゃなかった、レナだけ別なんだよ!」


アルクが男の一人に向かって声を上げると、男はまたニタリと笑う。


「あいつが一番高く売れるんだ。残念ながらお前らとは売り先が違うんだよ。傷でも付いたら大変だ」



そう言って去って行った男の後ろ姿を、アルクはギリギリと歯を食いしばり眺める。


『しょこらに何かしたら、許さない……』


そんなアルクを見て、ハジメは表情を変えずに言う。


「君は姉さんが本当に好きなんだな。……悪い、君の方が妹で合ってるのかな」

「えっ?あ、えっと、うん、そうだよ……」


アルクは一瞬怒りを忘れて、慌てて姉妹という設定を思い出していた。



地下を見回してみると、俺達の目が届く範囲だけでも、十人以上の人間が捕らえられている。

その多くは子供や若い女達だった。


どのくらいここに入れられているのだろう、体や服は薄汚れて、少しやつれている。皆体を縛られ、諦めたように地面を見つめていた。



『おい。ここ以外に何人囚われているか分からない。俺はとりあえず偵察に行くぞ』

『え、分かった。しょこら、気を付けてね……』


俺はアルクに念話で伝え、自分を縛り付けていた触手のようなものを、腕を広げて思い切り引きちぎる。


パアァンと鋭い音を立てて触手が弾け、牢に入れられた者達が全員俺を見る。


「後で脱出させてやるから、ここで待ってろ。」


俺は皆にそう言い、足を縛っている触手も千切り取ってから、自分の牢の格子を思い切り蹴り破る。

異世界で入れられた王宮の牢屋とは違って、みすぼらしい格子は脆いものだった。



「君の姉さんはすごいな。強い上に度胸がある。」


ハジメは無表情ながらも関心したように呟く。

そして自らも俺に倣って、触手をいとも簡単に引きちぎった。


ハジメはアルクに向き直り、その触手を引き裂いてアルクを解放した。


「ありがとう。ねえ、僕達はこれからどうしよう……」

「そうだな。とりあえず君の姉さんが偵察している間に、奴らが戻ったら足止めするんだ。……と言っていたら、もう来たみたいだな。」



そこへ例の商人のうち一人が戻ってきた。

俺の牢がもぬけの殻なのを発見し、怒りで叫び声を上げる。


「なんだ、誰の仕業だ!!くそっ、あいつは一番の目玉商品………」



ドガアアアァァァァン!!!



男が全てを言い終える前に、その姿は突風に吹き飛ばされ、頭が岩壁に激突してめり込んだ。


風魔法を発射したのはアルクだった。

その風は牢の格子もろとも男を吹き飛ばし、男は完全に失神している。



「商品だって……許さない………」


アルクはこれまでにない冷酷な目で男を見つめ、呪うようにぶつぶつと呟いている。


するとその時、アルクの後ろで小さく吹き出す音が聞こえた。


アルクがくるりと振り向くと、しかし、ハジメは無表情のままそこに立っている。



「すごいね君は。僕が守ってあげるまでもなさそうだ。」



ハジメはそう言い、よいしょと粉々になった格子の残骸をまたぐ。


「せっかくだから、上にいる奴らを一掃しよう。」


ハジメはそう言って、さっさと地上へと歩き始める。

アルクは慌ててその後を追った。



俺はその時、地下空間を偵察していた。



俺達が囚われていたのは地下だが、どうやらその下にもさらに空間がある。いわば地下1階と2階に、それぞれ多数の人質が囚われていた。



地下には見張りの者はいなかった。人質は皆縛られて牢に入れられているので、逃げ出す者などいないと思っているのだろう。

俺はとにかく片っ端から牢を足で蹴破り、捕らえられた者達の縄を解き、大声で呼びかけた。


「このあと全員で脱出するぞ。地上の奴らを一掃するまでの間、地下1階で待機してろ。」



人質達は皆ポカンとしていた。いきなり猫耳を付けた奴が来たので驚いたのだろう。



俺は続けて地下1階に戻り、そこにある牢も次々と破壊した。

アルクとハジメの姿がないので、おそらく地上へ行ったのだろうと考える。



囚われた者達が全員そこに集まったことを確認し、俺も続けて地上へ出ようかと思ったその時……



「動くな!貴様何者だ!!」



地上への出口とは真逆の方向、地下2階へと続く階段から、屈強な男達がぞろぞろと姿を現した。全員手にツルハシやハンマー等の、鉱夫が利用する道具を武器のように持っている。


下の階は無人だったはずだ。一体どこから現れたんだ。

俺はとにかく、人質全体を覆うようにバリアを展開した。



するとその隙を付いて、複数の男達が俺に向けて手にした道具を振り上げて飛び掛かってきた。

俺はツルハシの刃先をひょいとかわし、ハンマーを手で受け止め、男達の股間に下から蹴りを入れる。



「「「ぐををををををををを!!!!」」」



急所を攻撃された男達は呆気なく崩れ落ちた。

男というのは急所が分かり易くて助かる。


俺はさらに風魔法で、目の前の男達を一気に空中に巻き上げる。

本当は火炎魔法で燃やし尽くしたいが、地下の空間はあまり広くないので炎は避けたのだ。



しかしどこから現れるのか、次から次へと屈強な男達が階段を上り加勢してくる。

やれやれ、こいつらゾンビかよ。



すると、魔法を使える男達が数人、直接攻撃してくる奴らの背後から俺を狙っているのが見えた。

次の瞬間、俺の体に植物の蔓が巻き付いてくる。


さっきの触手ほどは簡単に引きちぎれないようだ。



まったく、ゾンビのように数が多いと厄介だ。俺はとりあえず手のひらから火炎魔法を発動し、巻き付いた蔓を焼き切る。



すると男の一人が大声で言う。


「おい、こいつ商品じゃねえか?かなりの上玉だぞ!このまま捕らえて、裏口から運び出せ!」



どうやらこいつらは皆、裏口から入ってきたようだ。

しかし鉱山で働く者達が全員人身売買に加担しているとは、大事件だぞ。




「お前達、何やってるんだよ……」




その時、俺は背後に凄まじい殺気を感じる。思わず背筋が凍り付くほどだ。

振り返るとそこには、地上の男達を一掃したと思われるアルクとハジメが立っていた。


アルクは俺が男達に囲まれているのを見て、わなわなと震えている。

ハジメはなぜかその背後で、無表情だがどこか面白がっている様子で立っている。



「しょ……じゃない、レナに手を出したら、僕が許さない………!!」



アルクはこちらに向けて手をかざす。

やれやれ。俺は念のため人質にバリアを再度付与し、自分にもバリアを施した。



次の瞬間、空間が狭いも何も関係ない、全てを焼き払おうとしたアルクの手から、まるで爆発のような音を立てて猛烈な炎が噴射される。



男達は恐怖と苦痛に絶叫し、喘ぎ、バタバタとその場に崩れ落ちた。



「おい、大量虐殺でもするつもりか。もうその辺でやめとけ」


俺はアルクに向かって声をかける。


しかしアルクは聞いていないので、俺はアルクの元へと大きくジャンプした。

そして横からその顔に猫パンチ(人間の手だが)を食らわせる。



衝撃ではっと我に返ったアルクは、炎の噴射を止めて俺の方を見る。


「しょ……レ、レナああああぁぁ!!」


アルクは俺にガバっと抱き付いた。


「大丈夫!?何かあいつらに変な事されたり……」

「俺があんな奴らにやられる訳ないだろ。というか離せ。」

「だってあいつら、しょ、じゃない、レナを売り飛ばそうと……」



俺達が話しているうちに、ハジメは奥へと歩いて行き、水魔法を発射して鎮火した。

幸い男達は火傷を負っただけで、アルクによる大量虐殺は免れていた。



「お前な、そんなんだからラファエルから親近感を抱かれるんだぞ!ちょっと落ち着けよ!」

「だ、だってあいつらが……」


アルクがまだ俺を放さないので、俺は手でアルクの頬をぐぐぐぐと押し返した。



「……ははっ」




その時、奥の方から、声が聞こえた。



俺とアルクが目を向けると、そこにはハジメが立っていて、俺達を見ながら可笑しそうに笑っていた。

俺達がこの時代に来て初めて見る、ハジメの笑顔だった。


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