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勇者猫  作者: バゲット
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77.かつての現実

俺達が墓地にたどり着くと、ハジメは既にそこにいた。



墓地は森の近くにあり、辺り一面に心なしか薄暗い霧のようなものが漂っている。

さっきまで晴れていたのに、急に太陽は雲に隠れ、肌寒い風が吹いて来た。


魔物の姿はまだ見えないようで、ハジメは周囲を見回っていた。



アルクが意を決して、ハジメに声をかける。


「あ、あの、ハジメさん……!僕達も、ここの依頼を受けて……」


ハジメは俺達に目を止めたが、特に興味はないようだ。


「そうかい。」


それだけを言って、また周囲の警戒にあたる。



「あの、よかったら、協力して、魔物を倒しませんか……」


アルクがおずおずと尋ねる。

見た目がハルトなので、普段より人見知りせず話せるようだ。


しかしハジメは、無表情にアルクを眺める。


「……僕には必要ない。助けが必要になったら呼んでくれ。」


取り付く島もない言い方に、アルクはそれ以上何も言えなかった。



俺達もしばらく無言で周囲を見張った。

墓と墓の間を歩き回り、木々の間や茂みの奥まで確認するが、魔物らしき物は見当たらない。



「しょこら、魔物ってさ、どんな魔物なんだろう……」


アルクに問われて、俺は改めて依頼書を見る。内容を気にしていなかったので、ろくに読んでいなかったのだ。


「西側の墓地に出没するゾンビの討伐だとよ」


俺が読み上げると、アルクは仰天する。


「ゾゾゾゾンビ!!?そ、そんなのいるの!?僕、元の時代でゾンビなんて見たことないよ!!」



そのうち、雲がだんだん分厚くなる。

太陽の光が完全に遮られ、昼間だというのに辺りは薄闇に包まれた。おそらく、ゾンビが出てくる前兆だ。


「おい、来たみたいだぞ。」



どこからか地鳴りのような、低いうねりが聞こえる。

やがて墓という墓の前にある地面が陥没し、そこから怪しい呻き声が聞こえる。

やがて陥没してできた穴から灰色の手が伸びてきて、同じく皮膚全体が灰色の醜いゾンビが姿を現す。


「う、うわああぁぁぁ!ほ、本当にゾンビだよ!!!」


アルクは幽霊もゾンビも大の苦手だ。

初めて見るその姿に恐怖して固まっている。



しかしハジメは既に動き出していた。

風魔法しか使えなかったハルトと違って、勇者なので全属性の魔法が使えるのだ。炎でゾンビを次々と焼き払っている。


「おい、俺達もやるぞ。」

「う、うん……!」


俺とアルクも同じく広範囲に火炎魔法を発射し、ゾンビを焼き払った。

しかし一体墓の下にどれだけ眠っているのか、ゾンビは次々と湧き出てきて、その勢いは止まらない。


「ねえ、これって死んだ人たちなの!?」

アルクが必死で炎を発射しながら、大声で俺に問いかける。


「知らん。後でハジメに聞け。」

俺もゾンビのことは良く知らない。しかし、このまま攻撃していても埒が明かなさそうだ。



そのうちついにゾンビは大群となり、とても俺達3人だけでは討伐が追い付かなくなる。


「しょこらしょこらしょこら!!これって何か元凶みたいなのがいるんじゃないの!!?」


アルクがほとんど泣きそうになって叫ぶ。

俺もそう思っているのだが、それを探している余裕がない。


ふとハジメの方を見ると、何と複数のゾンビに腕を掴まれている。

互いの背を守れる俺達と違って、単独のハジメは大量の群れに押されてしまっている。



俺は猫の跳躍力で、ハジメの方に向かって高く大きくジャンプした。

そして落下の勢いで、ハジメの背後にいたゾンビ達に蹴りをかます。


グオオオオォォとうなり声を上げるそいつらを、俺は火炎魔法で一掃した。


ゾンビの手を振り切ったハジメは、後ろを振り返り、意表を突かれた顔で俺を見る。



「おいお前、ゾンビについて詳しいか。こいつらを止めるにはどうすればいいんだ。」


俺が尋ねると、ハジメは少し驚きながら答えた。


「どこかに親玉がいるはずだ。全てのゾンビを操っている。人一倍図体がでかいやつだ」

「俺達が群れを抑え込むから、お前はそいつを探しに行けよ」

「……ああ、分かった」


そう言うとハジメは攻撃を止め、自分の周囲にバリアを展開した。

そして群れの中を俊足で駆け抜け始める。


「しょこらしょこらしょこら!!どこいったの!!」


遠くでアルクが呼ぶ声が聞こえた。


俺はまたジャンプしてアルクの元へと戻り、その腕や足を掴んでいたゾンビ達を一蹴する。



「ハジメの奴が元凶を探してるから、それまでとにかく攻撃を続けろ」

「わ、わかった!」


俺達は周囲の木々が燃えるのも構わず、火炎魔法を放出し続ける。

辺りはとほんど火の海となり、熱気で胸が苦しくなるほどだ。俺達の周りには、倒れて炭のようになったゾンビの体が積み上げられていく。



するとその時、遠くからひときわ大きい唸り声が聞こえた。

おそらくハジメが元凶を見つけたのだ。



グオオオオオオォォォォォォォ!!!!



遠吠えのような雄叫びが上がったかと思うと、それまで動いていた全てのゾンビがバタバタと地面に倒れだす。

やがて墓地を埋め尽くしていたゾンビの唸りは消え、聞こえるのは死骸が燃えるパチパチという音だけになった。



俺とアルクは水魔法を発射し、周囲の火を鎮火させる。



落ち着いて見回すと、数メートル離れたところにハジメが立っていた。

大きなゾンビの死骸の前に立ち、それが炎で燃え上がる姿をじっと見つめている。



俺とアルクは、ハジメの方へと歩いた。


「おう。助かったぜ。」

「ハジメさん、ありがとう…!」


俺達が声をかけると、ハジメは振り向いた。

相変わらずの無表情だが、その目だけは僅かに光を帯びている。


「…ああ。こちらこそ。」



それだけを言って、ハジメは町の方へと歩き出した。




俺達はギルドに報告に行くので、自然とハジメの後を追うことになる。


町へと戻り、ハジメの姿を見ていると、改めて町人の態度が目についた。

俺は何人かがヒソヒソと囁き合っている声を聴く。


「おい、あれ、例の勇者だろ?」

「ああ、スラム街出身っていう……。全く、何だってそんなとこから勇者が生まれるんだろうね……」

「あまり見るなよ、反感を買うぞ。あいつにはとにかく、魔王を討伐してもらえりゃそれでいいんだ」



アルクはそんな囁き声に耳を傾けながら、悲しそうな顔をする。


「ハルトさん、スラム街出身ってだけで、軽蔑の的になるって言ってたもんね……」



その話をしたハルトの顔を、俺達はありありと思い出すことができる。

生まれてすぐ母親に捨てられ、スラム街出身として軽蔑され、それでも都合よく勇者として使われていたという、ハジメの人生についての話だ。



するとその時、二人連れで歩いている町人がハジメとすれ違う。

すれ違いざまにそのうちの一人が、ハジメに勢いよくぶつかった。まだ明るいうちから酔っぱらっているらしい。


「おいてめぇ、気ぃつけろ!!……って、なんだ勇者じゃねえか。こんなとこほっつき歩いてねえで、もっと働けってんだ!!」


全く典型的な酔っ払いだ。

もう一人も酔っぱらっていて、続けて口を開く。


「ったく勇者のくせにスラム街出身なんてよ、この国の面汚しだな!とっとと魔王を倒しに行きやがれ!!」


ハジメは慣れている様子で、無表情に男達を見返している。

しかしふいと顔を背け、無視してその場を離れようとした。


「てめぇ、ちょっと強いからって、調子に乗ってんじゃ……」


「やめてください!!!!!」



叫んだのはアルクだった。


普段の引っ込み思案からすると、考えられない勢いだ。

おそらくハジメが理不尽に責められる光景に、とても我慢できなかったのだろう。


男達は一瞬ポカンとして、アルクを見つめる。

そしてハジメもその後ろで振り返り、驚いた表情を見せる。



「……あぁ?何だてめぇ、ガキが!お前勇者の女か?」

「え?……ああ、女……」


アルクもポカンとした顔をする。

自分が女の子に見えると、すっかり忘れていたようだ。


「ち、違います!でも、そんな言い方はひどいです!……そもそも出身地で人を差別するなんて、間違ってるし、それに勇者は、神様のおもちゃじゃない!この世界を救うかどうかなんて、ハジメさんが決めることだ、あなた達が決めることじゃない!!」


アルクはそれだけを一気に言った。

相当怒りが込み上げているようで、その肩はわずかに震え、荒い息をしている。



一瞬言葉を失った男達は、次の瞬間、アルクに向けて手を振り上げた。


「てめぇ、黙って聞いてたら調子に乗りやがっ………て…………」


男達の勢いが止まる。



俺がアルクの背後から、ゴゴゴゴゴと物凄い威圧感を放ちながら、男達を睨みつけていたからだ。

俺は振り上げられた腕のうち一本をつかみ、一瞬でぐにゃりとひねり上げる。


「イテテテテ!は、離せ、なんだこの猫耳野郎……」


男は手を振り払うと、慌ててその場を去った。

もう一人の男もそれに続いて走り去って行く。



男達を見送りながら、アルクが俺に向かって言う。


「あ、ありがとう…。ごめんね、つい耐えられなくなって……。あ………」


アルクが視線に気づいて前を見ると、ハジメが俺達を見つめていた。

しばらくすると、ふと視線を下に落とし、ハジメは振り返って再び歩き出す。




やれやれ。ここはハジメに取って、本当に生きにくい世界だったようだ。


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