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勇者猫  作者: バゲット
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74.予期せぬ事態

俺達はその日の午後、ハルトの墓を訪れた。



午前中に訓練所から逃げ出したリーンだったが、午後になるとまた、俺達が兵士達と話しているところへ現れた。

アルクがこのあと墓参りに行くと言うと、リーンも一緒に行くと言った。


俺はリーンとは会話ができないので、リーンの相手をするのはアルクしかいなかった。



リーンは歩きながら、ちらちらとアルクの様子を伺っている。

アルクは逃げられた理由が分からず、少し戸惑っていた。そしてコミュ障がましになったとはいえ、未だに女の子と二人の会話は苦手なようだ。


『しょこら、話すことがないんだけど……』

『知るか。毎回念話で聞くな。話すことがなければ話すな』

『そ、そんなこと言ったって……』



そうこうしているうちに、俺達は墓地へと辿り着いた。

この世界は年中温暖な気候なので、前に訪れた時と何も変わっていない。墓地にはたくさんの花があり、木々の間を風が吹き抜けている。



アルクとリーンは墓の前に座り、手を合わせた。

俺はただ座って墓石を見つめるだけだった。



アルクの祈りが、念話を通して俺に聞こえてくる。


『ハルトさん。僕達、女神様に頼んで、ハルトさんの魂を救ってもったよ。もう会えないのは凄く寂しいけど、またいつか僕が生まれ変わったら、ハルトさんの生まれ変わりに、会えるといいな……』



アルクは長い間、目を閉じて手を合わせ続けた。


するとしばらくして、リーンが話し始める。



「……お兄さま、いつも言ってました。勇者がこの町に来たら、自分は勇者を助けなければならないって。それで、勇者と一緒に戦うって。

でも自分は弱いから、命を落とす可能性が高い。だから覚悟しておいてくれって、いつも私に言ってました。」


リーンは手を合わせ、墓石を見つめながら呟いた。


「だから、お兄さまが死んだって聞いた時も、悲しかったですけど、驚きませんでした。あなた達のことを、恨んだりもしてません。」



リーンは淡々と話した。

今になってこの話を俺達に向かってするのは、おそらくやっと気持ちの整理がついたからだろう。



「私はお兄さまの意思を継いで、護衛隊員になってこの町を守る。……もっと強くなりたい。だから、また時間があれば、私の訓練をしてほしい……」


リーンは墓石を見つめたまま、気持ち顔を赤らめてそう言った。


アルクはそんなリーンの姿に心を打たれたようだ。


「もちろんだよ。前にも、約束したじゃない。これからも、できる限りこの町に来て、リーンの訓練に付き合うよ……って、え……?」


アルクの言葉に、リーンはプイッとそっぽを向いた。さらに赤くなった顔を見られたくないのだ。


『しょこら、僕また何か悪いこと言った……?』

『気にすんな。』


アルクは以前リーンから「嫌い」と言われたことがあるので、無意識にリーンの気分を害していやしないかと不安で仕方ないようだ。



その夜も、俺達はエド町に滞在した。

しばらくここでリーンの訓練に付き合うことにしたからだ。



俺達は以前のように毎日兵舎へと通い、リーンがダミー人形と戦うところを眺めた。

アルクが見本として数体のダミー人形を切り裂き、リーンがそれを見て目を輝かせる。


たまに町中を一緒に歩き回ったし、町のすぐ外でスライム等の弱い魔物をアルクが討伐するところを、リーンが観察したりした。



エド町での日々は、アルクにハルトの影を常に思い出させていた。

兵舎にいると、今にもハルトが笑いながら現れて、アルクの肩をポンと叩きそうな気がした。



夜になるとアルクは少し落ち込み、ハルトの魔石を手にしては、膝を抱えて座り込んでいた。


「……僕、ハルトさんに、すごく会いたい。もちろんレオさんやレナさんにも会いたいし、エレーナさんやラファエルさん、ロベルト君にだって会いたい。

だけど何というか、ハルトさんは本当のお兄さんみたいで、家族やしょこら以外で、初めて心を開けられた人だったんだ……」


両腕に顔を埋めたアルクが、ズズっと鼻をすすり上げた。



俺達がエド町に滞在して、その日で一週間だった。

リーンとも十分時間を過ごしたし、そろそろ別の町に移動してもいいかも知れない。行く当てはないが、まだ訪れたことのない場所はいくらでもある。




しかしその夜、俺達に思いもよらないことが起こる。




俺とアルクが寝支度を整えようとしていると、急に目の前の景色が薄れ出したのだ。


「しょ、しょこら、これって……」


アルクにも同じことが起こっているようで、動揺している。

これは女神に呼び出される時の、あの感覚だった。



そして案の定、次の瞬間俺達の前には、またあのへっぽこ女神が立っていた。

気まずそうに両手を揉みしだきながら、俺達を見つめている。



「おい。もう会うことはないって、つい先週言ってなかったか。」


俺が鋭い目つきでジトっと女神を見つめると、女神が取り繕うように言った。


「し、仕方ないじゃない、本当にそう思ってたんだから……。でも、あの、すごく言いにくいんだけど、神王様からのお達しがあって……」


「おい。俺達はこれ以上望むものはないぞ。神王とやらの頼みを聞いてやる義理だってない。」


「そ、それが、そういう訳にもいかなくて……。私は今回も、詳しいことは知らされていない。正直私にも、何が何だかよく分からないの。ただ……」


「もしかして、ハルトさんの魂に、何かあったの……?」


アルクが問いかけると、女神は急いで手を振った。


「いいえ、それはないわ!大丈夫、彼の魂はちゃんと修復され、禁忌の呪いからも解放された。輪廻転生の輪へと、無事戻されたわ。だから今回は、ハルトに関するお話ではないの。」


「じゃあ何なんだよ」


「え、えっと……。何度も言うけど、私も詳しくは知らない。だけどこれはあなた達の命にも関わることなの。」


「え、それって、どういう……」


「とにかく、神王様はあなた達に、()()()()へ転移してほしい。そこには既に勇者がいるから、その勇者が魔王を討伐するのを、手助けしてあげてほしい。だけど……」


女神は一息ついて、また話し出す。


「だけど、あなた達が別の場所から来た勇者だってことは、言わないで。正体を知られてはならない。それが神王様のお告げよ。」


俺とアルクは、しばらく何も言わなかった。


「……おい。何だって俺達がまた、神王に振り回されなけりゃならないんだよ?」


俺がギロリと女神を睨みつけると、女神が慌てて言った。


「だから、言ってるじゃない、私だって何も知らないの!だけど、失敗すればあなた達の身にも危険が及ぶって、神王様が言うもんだから……」


「お前……。もしかしてこうなる事が分かってて、前に俺にあんなこと言ったんじゃないだろうな?」


アルクはちらりと俺を見た。

俺が何の話をしているのか、分からないのだ。


「そ、そんな訳ないじゃない!あれは本当にただ、私がしてあげたかっただけで……。」



俺はため息をついた。

呼び出された時から分かってはいたが、どうせ俺達に拒否権はないのだ。

アルクもそう感じたようで、小さくため息をつく。



「ほ、本当にごめんなさい!だけどほら、成功したらまた、何かお願いを聞いてあげられるかも知れないし……。」


「で、今すぐ行かなけりゃならないのか?」


「え、ええ……。ごめんね、眠いわよね?め、女神特製の疲労回復魔法を今施してあげるわよ!!」



そう言うと女神は俺達に向かって手をかざした。そして、思い出したように付け加える。


「そうだ、転移先ではあなた達の姿形を、魔法で多少変える事になる。今ここで、回復魔法と一緒に付与するわね!」


「おい待て、それはどういう意味だ……」



しかし女神は聞いていなかった。

余程急いでいるのか、その手から強い光を放ち、俺達に魔法を付与したかと思うと、慌てて言い放つ。


「またちゃんと帰ってくるのよ!幸運を祈っているわ!……神王様、お願いします!」



すると女神の手からではなく、今度は俺達の頭上から、強い光が降り注いだ。

神王と呼ばれる者が、直接俺達に向けて力を注いでいるのだろうか。




考える暇もなく俺達は、光の渦に飲み込まれる。

そしてそのまま底なしの空間を、どこまでも下に向けて落ちてゆく感覚に襲われたのだった。


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