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勇者猫  作者: バゲット
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73.帰還と再会

俺達が元の世界の女神に召喚された瞬間、女神はガバっと俺達に抱き着いた。



「お、おかえりなさああぁぁぁい!!よ、よく頑張ったわね、うわあぁぁぁぁん!!」


女神は俺とアルクを抱きしめて号泣している。

どうやらあちらの世界で起きたことを全て見ていたようだ。


「もう、あなたが刺された時は、本当にどうしようかと……ズズッ……」

女神は大きく鼻をすする。


「おい、鼻水が付くだろ。離れろよ。」

俺はそう言って身をよじり、女神の腕から逃れた。


アルクはそこまで邪険にできないようで、ただ困惑しながら女神に抱き着かれていた。


「なによぉ、久々の再会だってのに、つれないわねぇ…」

「久々と言ってもほんの20日間だろ」



しかし、この女神の顔を見て多少なりとも嬉しかったのは今回が初めてだ。

こいつに情が湧いた訳ではなく、ただ元の世界に戻れるという嬉しさからだが。



「でも本当に良かったわ、無事魔王を討伐できて……。わ、私も何も聞かされていなかったから、まさか向こうの魔王があんないいい奴だったなんて……」


女神は相変わらず鼻をすすりながら言った。


「神王とやらは知ってたんだろう。一度そいつを殴り飛ばしてやってもいいんだぞ。」


「仕方ないじゃない、人間の国王の話を聞いたでしょ、神王様だって、人間の世界を守るために必死なのよ!自国の民を守るためなら他国に攻撃を仕掛けるし、手段は選ばない。それは神だって同じよ!」


俺はフンと鼻を鳴らした。



「で、約束通りハルトの魂は救われるんだな?」


俺が尋ねると女神はやっとアルクを放し、俺達に向き直った。


「ええ。今回の討伐で、神王様は膨大な神力を得られたわ。魔王は復活して時間が経つほど倒すのは難しくなるけど、逆にそれを倒せたら得られる神力も大きくなるの。


……ハルトの魂は禁呪の呪いから解放されるわ。そして修復され、また輪廻の輪へと戻される。彼の魂はまた遠い未来に、この世界に生を受けることになるわ。


本来、個人の願いだけで神が魂や輪廻に手を加えることはない。これはあなた達への、最大限の報酬よ。」



アルクはこくりと頷く。


「さあ、そろそろ戻りなさい。あ、そうだあなた、こっちへ来て。」


女神が俺を手招きする。

そして俺の耳元で、何事かを囁いた。



「…以上よ!さあ、それじゃ元の世界に戻りなさい。もう会わないとは思うけれど、あなた達には本当に感謝しているわ。ありがとう、しょこら、アルク!」



そう言うと女神は、両手を俺達にかざした。

アルクは気持ち手を上げて、女神に別れを告げた。




目を開けると俺達は、惑わずの森に立っていた。


正確な時間は不明だが、辺りは真っ暗だ。

あちらの世界に転移した時は、こっちが朝で、あっちが真夜中だった。

今回は逆なので、こちらは真夜中のようだ。



俺達は森を出て、フレデール家へと歩いて戻った。


案の定、家の扉には鍵がかかっていたので、アルクはドアをノックする。


「た、ただいま……」



すると驚くべきことに、アリゼーが扉へと現れた。

アルクが出発してからというもの、毎日その帰りを待ち続けていたのだろう。


「アル!!お帰りなさい!!!」

「ただいま、母さん……」


アリゼーはアルクをぎゅっと抱きしめた。

無事に戻って来たことに、心から安堵しているようだ。




俺とアルクはその夜、今後について話し合った。



異世界での旅は、想定していたより短いものだった。俺達は思っていたより早く、この世界へと戻る事ができたのだ。


アルクが領地を継がず冒険者になることは、異世界へ転移する前に、既にアルクの両親には伝えている。

アリゼーもそれを承知しているので、今回はアルクの見合いを計画することもなかった。


俺達は準備が整い次第、いつでも再び旅へと出られる状態だった。



「でもしょこら、元々魔王を討伐したら、家に帰るって言ってたよね。このまま僕と一緒に、また旅に出てもいいの……?」


おずおずと尋ねるアルクに、俺はフンと鼻を鳴らして答える。


「ああ。俺だけここに残っても仕方ないだろう。どうせ暇だしな」


アルクはぱあっと顔を輝かせた。


「うん、ありがとう……!」




俺とアルクはまず、エド町へ行ってリーンと会うことにした。


帰還した翌日の朝、俺が念話で呼びかけると、コクヨウはすぐに応じて、フレデール家の前へと舞い降りた。


「お前さんたち、元気しとったか。」


コクヨウが俺達に尋ねる。

ジジイのような話し方だが、子供のドラゴンだ。



朝にフレデール家を出発し、シロヤマ領に着くころには、既に辺りは暗くなっていた。

途中休みながらの飛行だったが、やはり移動手段があるというのはいいものだ。



シロヤマ領の人々は俺達のことを覚えていて、町に入ると多くの者が声をかけてきた。


「勇者様!お帰りなさい!」

「またお会いできて光栄です!アルク様!」

「相変わらずとってもクール…」


そういえば、この世界でのこいつのクール呼ばわりを忘れていた。



その日はもう遅いので宿屋に泊まり、翌日俺達はリーンに会うため、ハルトのいた兵舎を訪れることにした。

俺達はリーンが祖母と住む家の場所を知らなったので、兵舎へ行ってみるしかなかったのだ。




兵舎に着くと、ハルトとの思い出が蘇って来たアルクは、しばらく感慨深げにその建物を見上げていた。

「なんか、すごく久しぶりな気がする……。」


そしてその時うまい具合に、リーンが兵舎の門から姿を現す。



リーンは最初俺達を見て、目の前の現実を理解できなかったようだ。

しばらくそこに突っ立って、ボーっとアルクの顔を見つめていた。


「えっと、久しぶり……」


アルクがためらいがちに声をかけると、しばらく微動だにしなかったリーンは、次の瞬間はっとして、俺を即座に抱きかかえた。


「嬉しい、また会いたかった……」


俺に向かってそう言ったと思ったら、今度はアルクに顔を向けて、


「お久しぶりです。」


と言い放ち、プイッとそっぽを向いた。


「お、お久しぶりです……」


変わらないリーンの態度に押されながらも、アルクは嬉しそうだった。

リーンはというと、俺が見上げると、そっぽを向きながら少し微笑んでいる。



以前アルクから訓練を受けていたリーンだが、俺達が去った後も、兵士達に頼み込んで訓練に勤しんでいるらしい。

ハルトが亡くなってしまい、もしかしたら俺達以上に辛いはずなのに、大したものだ。


「ちょっと見てください。前よりだいぶましになりました。」


リーンはそう言って、アルクを訓練所へと導く。



リーンは以前と同じダミー人形の前に立ち、いつも抱えていたあの剣をかまえた。

スーッと深呼吸して剣を振り上げ、そして、一気に振り下ろす。



ザクッ!


以前は鈍い音を立てて人形の上に落ちるだけだった剣は、人形を見事に真っ二つにした。


「わあ、すごい……!」


アルクが思わず歓声を上げる。



リーンはツンとしながらも、少し嬉しそうな顔をした。


「すごいね、体幹が良く鍛えられてるし、フォームもずっと良くなってる…。やっぱり前は僕の教え方がだめだったのかな……」


ぶつぶつと呟くアルクを、リーンは少し意表を突かれた顔で見つめている。


「でもこの短期間で、すごく頑張ったんだね。……ど、どうしたの?」


リーンはアルクを見つめながら、気持ち僅かに震えている。


「なんか違う……」

「え……?な、なんかって……」

「なんか違う…………!!!」


リーンはそう言ってワーッと駈け出し、その場から風のように去って行った。


「え、僕、何か悪いこと言っちゃったのかな……?」



やれやれ。



自分では気づいていないようだが、アルクは以前のように臆病な話し方をしていないのだ。

ただのコミュ障だったアルクの変化に驚いて、リーンは逃げ出したのだった。


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