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勇者猫  作者: バゲット
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70.融和

俺達のほうには全く気付かず、魔王とラファエルはまだ激しい攻防を続けていた。



しかしラファエルがその野性的な嗅覚で弟の存在をかぎつけ、急にこちらに目を向ける。


「あっ!ベル!!こらぁ、危ないから皆の前に姿を見せちゃダメって言ったじゃないかあ!!」



ラファエルは魔王との戦いを放り出し、ロベルトにサッと駆け寄る。


「ああ、しかも勇者を治しちゃったの?仕方ないなあ、僕のベルは本当に優しいんだから……」


ラファエルは弟を抱きしめて頬ずりする。




そろそろ潮時だった。この馬鹿馬鹿しい戦いに、終止符を打つ時だ。

俺はアルクから離れ、ラファエルと弟に向き直った。



俺はロベルトに向かって問いかける。



「おいお前。お前も兄貴みたいに、世界を壊して新たな神になりたいのか。」


するとロベルトは首を振る。


「そんなあ、ベル、お兄ちゃんと二人で新しい世界を作ろうよ。誰も僕らの邪魔をしない平和な世界を……」


「ぼくは、かみにならなくて、いい。お兄ちゃんといっしょにいられれば、それでいい」


そう言ったロベルトを、ラファエルはぶるぶると震えながら見つめる。

そしてまたガバっと弟に抱き着いた。


「ああ~~~~ベル~~~~~僕の可愛いベル~~~~~~~」



やれやれ。


このラファエルは、強いのか弱いのか分からない。

こいつの圧倒的な弱点は弟で、それは誰が見ても明らかだ。そこを突くとこいつは一気に扱いやすくなる。

まあしかし、誤った突き方をすると、手に負えなくなるということだ。



俺は立ち上がり、わざと周囲の者から見えやすいように忍者の姿のままで、魔王に向き直った。

魔王は俺達の様子を、数メートル離れたところから見守っている。



「おい。さっきの言葉、信じていいんだな?」


俺が問いかけると、魔王は首を縦に振った。


「「ああ。もちろんだよ。」」



そして俺はまだ地面に座り込み弟に頬ずりしているラファエルを見下ろす。


「おいお前。」


ラファエルは弟を抱きしめながら、俺に目を向ける。

最も、相変わらず細い目なので、見えているのかいないのか分からない。


「お前、新しい世界を作るなんて阿保な考えは捨てろ。今後魔王不在となれば獣人の立場が弱くなる。しかしお前がいれば人間達を牽制できるだろう。魔王がいない間はお前と弟がその代理を務めて獣人達を守れ。あれだけなりたかった神の代理だぞ、本望だろ。」



それだけを言い放つと、ラファエルはポカンとして、しばらくその細い目を俺に向けていた。

しかし兄より先に、ロベルトがこくりと頷く。


「ええっ、ベルはそれでいいのかい?だってさ、この世界は危険で、またベルの力を狙った奴らに襲われるかも知れないよ?国王の奴だってベルを利用したし、獣人だって狐族を恐れて嫌厭するしさ……」


「ぼくは、お兄ちゃんといっしょなら、だいじょうぶ」


「ああ~~~~ベル~~~~~~~~~~」



もう後は勝手にやってくれ。



俺は魔王の方へと歩み寄った。

魔王も俺の方へと歩み寄る。



魔王は俺を見て微笑んだ。

レオが少し口角を上げるのと、レナが二カッと笑うのが合わさったように、魔王は落ち着いた表情で、にっこりと笑っている。


俺も気持ち口角を上げてみた。笑ったことがないので、うまく笑い方が分からない。



「「ありがとう、勇者しょこら。そしてアルク。我は君達に誓おう、今後復活する度に勇者にこの命を捧げ、この世界に永遠の平和と安寧をもたらすと。」」


「おう。でもたまにはこの世界に留まって、獣人の命を増やしてやれよ」


「「ああ、そうだね。その時は人間達に、少しばかり待ってもらうことになる。でも大丈夫、人間の神を侵食しない程度に留めるよ。そしてまた勇者に命を捧げるさ」」



俺と魔王は、互いの右手を握りしめて握手を交わす。



「「申し訳なかった。勇者リューキの時も、同じように命を捧げようとしたんだ。だが間に合わなかった。本当に申し訳ない。」」


その言葉を聞いて、少し離れたところに立つエレーナが、口に手を当てて涙を流す。



「「さあ、勇者しょこらよ、この命を持っていけ。」」



俺は既に回復したので、魔王がその命を犠牲にして、俺を助けるという構図はもはや成り立たない。

俺は魔王をこの手で仕留めるしかなかった。



「「構わない。さあ、この心臓を狙うんだ。」」



魔王は両手を僅かに広げ、歓迎の姿勢を取る。



俺は右手を上げ、心臓に狙いを定める。

そしてその手から鋭く尖ったライトアローを作り出し、魔王に向けて発射する。



鋭利な矢は魔王の心臓を一突きにして、胸を貫通した。

その矢は瞬時に魔王の魂を破壊し、一抹の苦痛も与えず、その命を奪い去った。



その魂が壊れる刹那、魔王は穏やかな笑みを浮かべていた。



バタリとその体が地面に倒れ、魔王はついに、勇者によって討ち取られた。



しばらくは、周囲の誰も動かなかった。

皆目の前で起きたことに驚き、困惑し、度肝を抜かれている。


しかし、もはや誰も戦おうとする者はいなかった。



最初に動いたのはエレーナだった。



エレーナはゆっくりとラファエルの元へと歩いた。

そしてその右手を、ラファエルに向けて差し出した。


「お前が魔王代理ということは、獣人代表ということで良いんだな?」


エレーナが問いかけると、ラファエルはやれやれとため息をつく。


「まったくもう、仕方ないなあ。僕のベルがそれでいいって言うんだ、僕にも異論はないよ。」


未だに弟を抱えて座り込んでいたラファエルは立ち上がり、エレーナの右手をぎゅっと握った。


「だけど、君の仲間達を殺めたことは謝らないよ。君達人間だって過去に、狐族に対してひどいことをしたんだ。狐族だけじゃない、全ての獣人族に対してだけどね。」


「分かっている。一方的に謝罪を要求するつもりはない。だからといって、完全に水に流す訳でもない。互いに自らの罪は償うんだ。今後の行動でそれを示すんだ。」



ラファエルは右手をパッと離し、またやれやれと首を振った。


「僕はどうも堅苦しいのは苦手だなあ。ま、好きにしてくれよ。ちなみにベルに手出ししたら、それは世界の終わりを意味するからね。獣人諸君も、分かったね。たとえ獣人でも僕は容赦しないよ。」


そう言うとラファエルは、ロベルトを抱き上げた。


「さあさあ、僕の可愛いベル、おうちに帰ろうか?」


ロベルトはこくりと頷く。



そしてラファエルとロベルトは、転移魔法陣を展開してその場を去った。



周囲がざわざわと騒がしくなった。

傷ついた兵士や冒険者、探検家達は、人間と獣人の区別なく、負傷者を介抱し出した。


国王軍の魔術師は獣人達を回復魔法で癒し、獣人達は人間に回復薬を飲ませる。



俺は魔王を倒してすぐ、元の姿に戻っていた。

結局、忍者になれる時間はあと15分程となった。


猫に戻った俺を、アルクが後方から抱き上げた。

そして、まるでラファエルがロベルトに頬ずりするように、アルクは俺の体に頬を押し付けた。



「おい、そんなんだから、ラファエルから親近感を抱かれるんだぞ。」


「うん、いいんだ。」


いいのかよ。



そして俺達も、負傷者の介抱に加わった。


国王軍の魔術師がアルクの元へとやって来て、黒曜石の腕輪を取り外した。

取り付けた人間にしか取り外せない魔術が、込められていたらしい。




太陽は俺達の頭上に昇り、森全体を明るく照らし出していた。


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