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勇者猫  作者: バゲット
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64.ラファエルのお話

「ふっざけんな、あの野郎!!くそ、今からでももっかいあいつのところへ……」



俺達はミッド・フォレストの中に転移させられ、地面に横たわっていた。

レナは起き上がりながら、今にも走り出しそうな勢いだ。


「おい、落ち着け。今から行っても無駄だ。少なくともレオは無事だし、危害も加えないと言ってただろう。弟にもそう約束していたし、あいつはおそらく弟に嘘はつかないだろ。」


俺がそう言うと、レナは歯をギリギリと噛みしめながら地面に座り込んだ。


「くっそ、もう、どうすりゃいいんだよ!あたしは兄貴がいねえと……」


そこまで言ってレナはピタっと口をつぐんだ。

またブラコン呼ばわりされると思ったのだろう。


「ちっ、とにかく隊の皆に相談するしか……。てかそうだ、テントにまだ人間達の遺体が残されてんだ!くそおぉぉやる事多すぎるぜ……」



レナは自分が言っていた通り、一度にあれこれ考えるのが苦手らしい。

いつもはレオが指示をして、レナが率先して動くのだ。


「なあ、悪いが、手伝ってくれ……。てかそうだ、エレちゃんはどうしたんだ?」


レナが問いかけると、アルクはちらりと俺を見た。

そして、テント内の惨状を見てエレーナが人間の町へと戻ってしまったことについて説明する。



「まじかよ……ったく、誤解だってのに……」

レナは頭をわしゃわしゃと掻きむしった。



俺達はとにかく猫族の部隊と一緒にテント内の遺体を運び出し、身元を確認し、遺体を燃やした。

この世界では獣人も人間も、遺体はすぐ火葬するのだという。


燃え盛る炎を見ながら、アルクが疲れた声で言った。


「ねえ、あのラファエルって人、本当に世界の人を皆殺しにする気かな。そんなこと、どう考えたってできるわけ……」


レナも炎を見つめながら答える。


「ああ。しかし狐族ってのは厄介でさ。この世界では獣人も人間も、魔力を持つ者は少ないんだ。実際魔法攻撃してくる奴らなんて、数えるほどしかいなかったろ?


それはこの世界の魔力が一部の種族に極端に偏ってるからで、その種族ってのが狐族なんだ。奴らの魔力は比べ物にならないほど強力だ、お前も奴の攻撃を見ただろう。


魔力だけで言えば、勇者に匹敵するとも言われてるよ。だからあいつが本気になれば、世界の半分ぐらいは吹き飛ばせるんじゃねえかな……」


「そ、そんな…。」


「しかしあいつら、兄貴を一体どうするつもりなんだか……。てかそうだ、あのロベルトって子供はどこで見つけたんだよ?」



アルクはレナに、王宮へと転移させられたことと、そこでロベルトを見つけるまでの経緯について、レナに説明した。



「勇者が神に背けば、死ぬ運命にある、か……」


レナが宙を見つめながら呟く。


「ったく……神ってのはとことんタチ悪いよな。で、お前らはそれでも戻ってきてくれたんだよな?」


「う、うん。どうなるか分からないけど、僕達は獣人族と戦いたくない。とにかく、人間軍の侵攻は本当に近いうちに起きるらしいから、備えないと……」


「分かった。でもこれが終わったらお前ら一旦休め、ひどい顔してるから。あんま寝てないんだろ?」



レナの言う通りだった。

すでに日は昇り切っていたが、俺達は営舎へと戻り、睡眠を取る事にした。




数時間後、俺達は営舎の部屋で目を覚ます。

アルクは相変わらず俺を抱き枕にしていて、目が覚めるとむくりと起き上がった。



「ああ、よく寝た……しょこら、おはよ………ってええええええ!?な、なんでここにいるの!!?」



アルクが仰天して叫び声を上げるので、俺は鼓膜が破れそうだった。

何事が起きたのかと部屋を見回す。



部屋にはベッドの他に、一組の机と椅子が置いてある。

その椅子になんと、ラファエル本人が座って俺達を眺めていたのだ。



足を組んで机に頬杖をつきながら、ラファエルがにっこりと言った。


「おはよう、諸君。よく眠れたかい?」


「いやいや、な、なんでここにいるんですか!!」


「いやだな、遊びに来たんじゃないか。勇者には少し興味があったしね。僕の可愛いベルのおかげで、今や僕達はどこへでも転移できる。ああ、愛しい我が弟、早く会いたいよ……」


「なら早く帰れよ」


「つれないなあ、少しはおしゃべりしようよ。…そう、君にも興味があったんだよねえ、黒猫君。だって猫なのに話せるし、よく考えたらあの時、勇者にバリアを付与したのは君だろう。とても興味深いよ、それに君からは膨大な魔力を感じるし……」


「おう。しかし悪いがお前に話すことはない。レオを返すというなら考えてもいいぞ。」


「やだなあ、それはできないって言ったじゃないか。ところで君達、名前は?」


「えっと、アルク……と、こっちはしょこら……」


「素敵だねえ、君達は。君達の間にはまるで僕とベルのような絆を感じるよ……」


「ええ……」


さすがのアルクも、こいつと一緒にはされたくないようだ。


「おいお前、そんなに弟が好きなのに、弟のことも殺すつもりかよ?獣人も人間も皆殺しにするんだろう。最後は弟と心中するつもりか?」


「ああ、それね。実はさっきの説明は、事実の一部でしかないんだよね。聞きたいかい?君達には少し親近感があるから、教えてあげるよ。」


相変わらず開いてるのか分からない細い目で、ラファエルはにっこりと笑った。

にしてもこんな奴に親近感を抱かれるのは不本意だ。



「獣神協会ってのは建前上は、この世界を破壊することを目的としている。僕はそのリーダーさ。でもね、協会の連中の目的は実際はバラバラさ。単に金欲しさに悪さしてる奴もいれば、人間への復讐心で活動してる奴もいる。だけど皆結局、本当に世界を壊せるなんて信じてないんだよ。


僕はね、都合が良いからリーダーになって、連中を利用していただけだ。僕の第一目標はベルの奪還だった。


ベルが連れ去られてからというもの、僕に取っては毎日生き地獄だったよ。僕の可愛いベルが、どこかで誰かに弄ばれているかと思うと……」



こいつの話はいちいち不快だな。

アルクも若干顔を青くしている。



「だから獣人の奴隷が売り飛ばされるルートを探るために、わざと人間と手を組んで、闇取引に関わっていたんだ。情報と資金を集めるためにつまんない依頼なんかも引き受けたりしてさ。


だけどベルが見つかった今、僕に取って闇取引なんてもうどうでも良い。金を稼ぐ必要ももうない。僕以外の連中はまだ金欲しさに動いているけどね。


ベルを取り戻した今、僕とベルの目的は、この世界の新しい神となることだ」



ちょっと何を言っているのか分からない。

それは頭がおかしい奴の戯言にしか聞こえなかった。



「さっき、魔族を皆殺しにすれば魔王は復活しないと言ったでしょ。だけど厳密に言うと、魔王を崇拝する者がいなくなれば、魔王は復活しないんだよ。


だけどこの世界の魔族は皆、馬鹿みたいに魔王一筋だからね。殺してしまった方が早い。で、最後に僕とベルが二人で残る。魔王も人間の神も力を失った世界で、僕達は新しい神となり、一から世界を作り上げるんだ。」


馬鹿馬鹿しい話に聞こえたが、どうやらラファエルは本気らしかった。


「狐族ってさ、実は最も神に近い存在なんだよ。別の世界では、狐を神として崇める者達もいるぐらいだ。まさに僕達こそこの世界の新しい神にふさわしい……」



「おう。分かったからもう帰ってくれ。」


「いいのかい?ここで僕を始末しておかなくても?」


「お前に手を出せばレオに危害が及ぶんだろう」


「ああ、そうだよ。なんだ、ちゃんと分かってるんじゃないか。じゃあねしょこら君、アルク君。君達の健闘を祈っているよ。また遊びに来るからね。」



そう言うとラファエルは、床に人差し指を向けた。

するとそこに転移魔法陣が現れる。


「僕の可愛いベルが作ったんだ。僕が魔力を注ぐまで発動しない。すごいだろ、僕の可愛いベルは……」


そう言い残し、ラファエルは姿を消した。



「あいつ、本気で何しに来たんだ。ただ雑談しに来たのか。」


「さ、さあ……」




俺達は茫然として、ラファエルがいなくなった椅子を眺めていた。

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