表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者猫  作者: バゲット
61/98

61.決断

「ねえ、この腕輪、全然取れないよ……」



部屋を出て廊下を歩きながら、アルクがヒソヒソと囁いた。

腕にはめられた黒曜石の腕輪を引っ張って外そうとしているが、ビクともしない。


「エレーナさんのもだ。取り付けた人じゃないと、外せないのかなあ…」


「私は元々、魔術は得意ではない。剣はあるんだ、今は魔法が使えなくとも何とかなるだろう。幸いしょこら君が、私の剣もアイテムボックスに隠しておいてくれたからな。

腕輪については、とにかく脱出してから、外す方法を考えよう……」



俺達は廊下を曲がり、その先にある階段を目指す。

見回りの兵士達に遭遇すると、一旦身を隠すか、隠れる場所がなければ気絶させた。


ドスッ!!


俺は二回目の猫キックを繰り出し、二人目の兵士を気絶させた。


「ほ、本当にすごいな君は……」


エレーナがまた関心して呟く。


俺達は階段を降り、地下牢のある階へと向かう。

階段はそこで一旦途切れていた。おそらく地下牢を進んだ先に、別の階段があるはずだ。



地下牢にはもちろん見張りの兵がいる。

等間隔に数人配置されており、全員手には例の高そうな槍を持っていた。

俺達は地下牢を突っ切り、突き当りにある地下への階段へと向かわなければならない。


『ちっ、簡単に眠らせる魔法でもあれば良かったんだが。仕方ない、追われないよう全員気絶させるしかない。』


アルクとエレーナが、こくりと頷く。

二人とも剣を構えている。



そして俺達は走り出した。


一番手前の兵士が最初に気付くが、俺が瞬時に猫キックする。

兵士はドサリと倒れるが、音に気付いた他の兵士達が一斉に俺達の方へと向かってきた。


「や、奴ら逃亡するぞ!ひっ捕らえろ!!」


数人の兵士が槍を突き出し、攻撃を仕掛ける。

アルクとエレーナはぞれぞれ迎え撃ち、剣で受け止め槍を弾き飛ばす。


俺は武器を落とした兵士達の後頭部に順にキックを食らわせる。


しかし奥からはまだ何人かの兵士が走って来る。

そのうちの一人がおそらく魔術師で、こちらに向けて手をかざし、何かを呟いている。


俺は面倒なので、風魔法で竜巻を起こし、残りの兵士達を地面から天井へと巻き上げた。



「うわああああっ!!」



天井に激突した兵士達は床に落下し、地面に伸びた。


「す、すごい、本当に何者なんだ君は……」

エレーナは感心しながらも軽く引いている。



とにかく兵士達が片付いたので、俺達は走って地下牢を突っ切った。

するとアルクが急に俺達に向かって声を張り上げる。


「ま、待って、誰か呼んでる……!」

「囚人だろ、構うなよ!」

「で、でも、子供の声が……」


やれやれ。

足を止めて声の方へ耳を澄ますと、子供が俺達を呼ぶ声が聞こえた。


「こ、ここから、だして……」



俺達が声のする牢へと向かうと、そこには獣人の子供が一人、鉄格子を握りしめて立っていた。


「ぼ、ぼくも、つれていって……」


「じ、獣人族……。なぜここに囚われているんだ?王族も獣人を奴隷として扱うのか……?」


エレーナが驚いて言う。


それは5歳ぐらいの狐族の男の子だった。黄金色の長い耳と尻尾を生やし、俺達に訴えかけている。


「おねがい、だして……」


「……ねえ、どうしよう……」


アルクが俺に問いかける。


この子供は何か罪を犯したのだろうか。

こいつを解放すればそれこそ、反逆罪で捕まるかも知れない。しかしいずれにせよ俺達は既に罪人だ。こいつを解放しようとしなかろうと、今後捕まれば処刑は免れない。


考えている暇はない。上階の兵士達が異変に気付いて追いかけてくる前に、俺達は転移装置を見つけなければならない。


「お前、妙な真似したらすぐ始末するからな。」


俺は子供にそう言い放つ。

アルクはほっとしたように、近くで倒れている兵士の腰から鍵を抜き取る。


アルクが解錠し、鉄格子の扉を開ける。

男の子は大人しく出てきて、アルクの服の裾をつかんだ。


「よし、行くぞ。」


俺達は一斉に走り出した。



階段を降り、袋に入っていた時の感覚を頼りに廊下を曲がる。

そして俺達は廊下の奥の小部屋に、紫色に輝く転移魔法陣を見つけたのだ。



それは床の上で怪しい光を放っていた。

その上に立てば魔法陣が起動し、俺達はウエストリアの近くへ戻れるはずだ。……おそらく。



「こ、これで本当に、戻れるのかな……」

アルクがごくりと唾を飲み込む。


「分からん。だが行くしかない。」


俺がそう言い、俺達は魔法陣へと足を踏み入れようとした。



「待て!!」



俺達を呼び止めたのは、エレーナだった。

ぐっと拳を握りしめて下を向いている。


「エレーナさん、どうし……」


アルクがおずおずと尋ねるとエレーナは顔を上げた。


「お前達は、本当にこれで良いのか?……王の話を聞いただろう、お前は獣人に協力する限り、いずれ命を落とすんだ。今抗ったところで何の意味がある?……ここで大人しく、人間の側に付いた方が、身のためなのではないか?


……お前までリューキの二の舞になる姿は、私は見たくない………」



エレーナは声を震わせた。


「それが運命だと言うのなら、自らが生き延びる道を、選んでほしい……」



アルクは動揺して俺を見た。

俺は念話でアルクに問いかける。


『俺のことはいい。お前はどうしたいんだ。』

『ぼ、僕は………僕はしょこらに死んでほしくない。でも、ここに残って、獣人達と戦いたくもない。僕は……僕はしょこらと一緒に行くよ。』

『なら行くぞ。』


俺はエレーナに向かって言う。


「俺達は行くが、お前が残りたいなら、ここに残っても良い。それはお前が決めろ。」



エレーナはぐっと言葉に詰まった。


俺を見つめ、アルクを見つめ、また下を向く。

しかしやがて決心したように顔を上げた。


「……私も行こう。」



そして俺達は一緒に、魔法陣の上に足を踏み入れた。

全員がその上に乗ると、魔法陣から放たれる光が強くなる。



そしてその光は俺達を包み込み、またあの宙を浮いている感覚が襲った。



しばらくするとその感覚は収まり、やがて光がだんだん薄れる。

俺達は別の建物の中の、緑色の魔法陣の上に立っていた。



急いで全員、魔法陣から離れた。

それは鈍い緑の光を発し、真っ暗な建物の中で怪しく光っている。



「こ、ここ、どこだろう……ウエストリアかな……」


アルクは腕輪のせいで、魔法が使えない。

俺が光魔法で辺りを照らすと、そこは教会のようだった。


「とにかく、外に出よう…」


エレーナが中を見回しながらそう言った。


俺達が教会の扉を開けて外に出ると、辺りは真っ暗だった。

建物を出て見上げるとそこは森の中で、周囲には教会以外に何もない。


その教会はまるで隠されるかのように、ひっそりと立っていた。


「わ、私は、聞いたことがある。王族のみが所有する転移装置が、全ての町のどこかに仕掛けられていると。これがおそらく、そのうちの一つだろう……」


エレーナが教会を見上げながら言った。


「おそらくここは、ウエストリアの東側にある小さな森だ。この森を東に抜けると別の町があり、西へ行くとウエストリアだ。さあ、行こう……」



そして俺達は歩き出す。

その森からウエストリアへと出るのに、時間はかからなかった。


しかし俺達はウエストリアの東門から中には入らず、門の外側をぐるっと南に回り、そこから西へ向けて歩いた。

既に王宮がウエストリアへ、俺達が逃亡したことを知らせているかも知れないからだ。転移魔法があるぐらいだ、情報伝達もおそらく早いだろう。



俺達が助けた狐族の子供は、ずっと大人しくしていた。

あまりに静かなので、一瞬そこにいることを忘れてしまうほどだった。


「き、君も一緒にガエルダに行くってことで、いいんだよね……?」


アルクが男の子に尋ねると、男の子はアルクの服の裾をつかんだまま、こくりと頷いた。


「で、お前は何なんだ。」


一瞬、猫族以外には俺の言葉が通じないかと思ったが、どうやら通じたようだ。


俺は一応魔族出身らしいので、元の世界でも魔族と話ができた。だからおそらくこの世界でもできるのだろう。



「ぼくは……ロベルト。お、お兄ちゃんに、あいに……」


お兄ちゃんと言うのは、同じ狐族だろう。

いずれ狐族の町に届けることができるだろうか。


「えっと、よろしくね、ロベルト君……」

「ベル、でいい……」


アルクが挨拶すると、ロベルトはそう言った。



俺達は西に向かって歩き続けた。

そして何とか夜明け前には、ミッド・フォレストへと到着することができた。



しかし俺達はそこで、信じ難い惨状を目にすることになる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ