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勇者猫  作者: バゲット
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60.揺らぎ

その日俺達は、王宮の一室で夜を明かすよう命じられた。



王は俺達を牢に戻すことはしなかった。一晩気持ちを整理するようにと命じ、そして明日、改めてその意思を問おうと言った。


アルクとエレーナには別々の部屋が当てがわれた。



部屋に戻るなりアルクはベッドに座り込み、足を抱えて顔を腕の中に埋めた。

そしてその腕には、黒曜石をはめ込んだ腕輪が付けられている。


この世界でも黒曜石は、魔力を抑制する効果があるらしい。

王は俺達に慈悲を与えたものの、逃亡や反乱を防ぐため、アルクとエレーナにそれぞれ取り付けたのだ。


俺は猫なので、何も取り付けられなかった。



俺はピョンとベッドに乗り、アルクに話しかける。


「おい。ここでじっとしていても仕方ない。夜中になったら抜け出すぞ。」


俺がそう言うと、アルクは顔を上げて俺を見た。

その目には動揺の色が浮かんでいる。


「で、でもしょこら、抜け出してどうするの?獣人の町に戻っても、戦いは避けられないって言うし、それにそんなこと続けてたら、しょこらがいずれ死んじゃうって……」



そこまで言うとアルクは俺を抱え、体に顔を埋めて泣き出した。



「じゃあお前、王に従って獣人領への侵攻に協力するのかよ。」


「そ、それも嫌だ……絶対嫌だ……」


「ならここを抜け出すしかない。とにかくガエルダに戻って、レオ達に侵攻の件を伝えるんだ。ちなみに俺のことを勝手に殺すな、そろそろ離せ。」


俺はそう言って身をよじり、アルクの腕からピョンと抜け出した。


「う、うん、ごめん……。でもしょこら、僕達今までずっと、目の前の問題に必死になってたけど……。結局、魔王を討伐しないと元の世界に戻れないし、ハルトさんの魂も、救えない……」


アルクはポケットから、ハルトの遺言が刻まれていた魔石を取り出した。


「でも、それも僕達の勝手なわがままなのかな……」


「今考えても仕方ない。とにかく夜中に行動を起こすぞ、それまで仮眠でも取っておけ。」



今は夕暮れで、日は段々陰ってきている。

王宮内の灯りが消え、皆が寝静まってから、俺達は部屋を抜け出し、転移装置を探すのだ。





日が落ちた頃、アルクの部屋を誰かがノックした。

扉を開けると、エレーナが立っていた。


「…すまない、ここで過ごさせてもらっていいだろうか。一人だとどうも落ち着かないんだ。」

「え、は、はい……」


アルクはエレーナを部屋に通す。

エレーナは早速、ベッドに座っている俺を抱え上げ、体を撫で出した。しかし何かを考えているようで、心ここにあらずといった感じだ。


「……お前達は、どうするつもりだ。」


エレーナが問いかけた。どうやらエレーナも動揺し、決心が揺らいでいるらしい。


「俺達は夜中になったらここを抜け出す。転移装置がどこかにあるはずだから、それを探してガエルダに戻るつもりだ。…で、お前はどうなんだ。」


俺が問いかけると、エレーナは俺を見下ろした。


「……ああ。お前達がそう決めたのなら、私も一緒に戻ろう……」




結局俺達は夜中まで、仮眠を取ることにした。

エレーナがここで仮眠を取りたいと言い出すと、アルクはたちまち動揺した。


「え、いや、でも、えっと……、あ、じゃあ僕、しょこらと一緒に床で寝るので……」


おい、何で俺も床なんだ。


しかしエレーナは首を振った。


「問題ない。ベッドは広い、お前さえ良ければ隣で眠らせてほしい。…それに夜中に行動を起こすなら、それまで共に待機していた方が動きやすいだろう。」


「そ、そうだけど……」


結局エレーナに押され、俺達は同じベッドで仮眠を取る事になった。




ベッドに入ってすぐ、エレーナは小さな寝息を立てだした。

アルクはガチガチに緊張し、なるべくベッドの端に寄り、エレーナから距離を取っている。


「き、気を使って、眠れない……」


女性と同じベッドで寝たことがないので、アルクは変に過敏になっていた。しかもエレーナは鎧を脱ぎ、肌着だけで寝ているのだ。

俺はアルクの抱き枕にされ、押しつぶされそうになっている。


「おい、暑苦しいから離せよ。」

「だ、だって……」


しかしその後、疲れたアルクもすやすやと寝息を立てだした。




数時間は経っただろうか、俺は眠りながらぼんやりと、誰かがすすり泣く声を聴いた。

エレーナだった。


おそらくまだ眠っているのだろうが、眠りながら涙を流している。

そしてたまにうわ言のように、言葉を発した。


「リューキ………」


よくリューキの夢を見るのだろうか、もしくは国王の話に感情を刺激されたのだろうか。

俺は半分眠りながら、そんな事を考えていた。



エレーナはうなされながら、何度もその名を呼び続ける。


するとアルクが、その声で目を覚ましたようだ。

上体を起こし、うなされながら涙を流すエレーナを見て、うろたえる。


「お、起こした方が、いいのかな……」


ぶつぶつと呟き、アルクはエレーナの肩をそっと揺さぶる。



するとエレーナが目を開けた。エレーナから見て、アルクの顔は逆光になっている。

その黒い髪を目にしたエレーナが、突然アルクにガバっと抱き付いた。



「ち、ちょっと………!」


仰天するアルクを余所に、エレーナは泣きながら叫び続ける。


「リューキ!リューキ!!生きていたのか!!なぜ私を置いて行ったんだ、一人で行ってしまうなんて、ひどいじゃないか……」


エレーナは泣きながらアルクの首にしがみついている。

アルクは動揺のあまり気絶しそうだ。


「えっと、エレーナさん、人違い……」


「リューキ、私は、ずっとお前に言いたくて、言えなかったんだ。私は、お前のことが……」


「うわっ!!?」



エレーナはアルクを押し倒し、姿勢をかがめて顔を近づける。

アルクはその体を何とか押し留めながら、焦って俺に呼びかける。


「しょこらしょこらしょこらしょこらしょこら!何とかして!!!」



まったく、自分で何とかしろよ。



俺はバシっとエレーナの顔を軽くパンチする。

衝撃でハッと我に返ったエレーナは、しばらくポカンとして、自分が押し倒しているアルクを見つめた。



「うわあああ!!!す、すまない、ね、寝ぼけていたんだ!!!!」



ガバっと起き上がったエレーナは、赤面してシーツで顔を隠しながら謝罪した。


「か、勘違いしないでくれ、本当に寝ぼけていただけで……」


「は、はい、分かってます……」


アルクは心底ほっとして、胸をなで下ろした。




俺達はまた眠りに就こうとしたが、しかしそれからは、誰も眠れなかった。

やがて真夜中になり、俺達はベッドを抜け出し準備を整えた。


「転移装置はおそらく地下だ。地下牢からさらに階段を下りた場所にあるはずだ。方向は何となく覚えている。……行くぞ、兵士に見つかったらとりあえず気絶させるんだ」


「うん!」「おう!」


アルクとエレーナがそれぞれ返事をした。


エレーナは俺を見つめながら、関心してつぶやく。


「それにしてもお前の従魔は、本当に頼りになるな…。ただの猫だとは思えない……」




そうして俺達は部屋を出て行った。


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