58.連行
俺達のウエストリア行きには、エレーナも同行する事となった。
過激派が十数年前の大量虐殺に関わっていると聞いたエレーナは、どうしても自分でその組織の尻尾を掴みたいと主張したのだ。
それにアルクは今や、親獣人派で知れ渡っている。
ウエストリアに俺達だけで行くと、誰かしらに襲われる可能性もあるという。
「私はウエストリアに仲間も多い。それにこれでも一応強さには定評がある。私がいれば、簡単に手出ししてこないだろう。……最も、君のほうが私より強いけれどね。」
エレーナはアルクを見て微笑んだ。
アルクと町を歩いて以来、少し心を開いたエレーナは、たまにいつもの男勝りの話し方を忘れるようだった。
「さあ、行こう。とにかくそのハゲとやらを見つけようではないか。」
急にまた威勢の良い話し方となり、エレーナは俺達の先頭に立ち歩き出した。
森を抜け、ウエストリアに到着したのは昼過ぎだった。
この世界に来てから、移動手段といえば徒歩ばかりだ。コクヨウがいない不便さが思い知らされる。
町に入ると、アルクを見てこそこそ話す者が多く目についた。
やはり獣人とつるんでいるとの噂は、町中に知れ渡っているのだ。
エレーナは何食わぬ顔で俺達と共に歩く。
俺達は冒険者ギルドや飲食店、酒場など、ハゲが行きそうな場所を探し回ってみたが、奴は見当たらない。
「何かの依頼を引き受けて、今は町の外に出ているのかも知れない。森の周辺では見かけなかったが…。とにかくもうしばらく探してみよう。」
エレーナが周囲の者達に尋ねるも、ハゲの目撃情報はなかった。
するとその時、アルクがふと目を止める。
「ね、ねえ、今、フードを被った人が、裏道に入って行ったような……」
「何!?すぐ追いかけるぞ!」
エレーナが答え、俺達はその人物が消えた方向へと走り出した。
路地裏は人通りが少なく、大通りを離れるにつれて、陰気な雰囲気が増してくる。
フードの人物はなかなか見つからず、俺達は何本もの裏道を通り抜けた。
いくつかの通りを抜けると俺達は、異様な臭いの漂う、浮浪者が地面で寝そべっている薄汚れた通りへと出た。
「こ、こんなところに、いるのかな……。ごめん、やっぱり見間違いだったのかも……」
「いや、見間違いじゃあねえぜ。」
俺が驚いて振り向くと、そこにはフードを被った人物が複数人立っていた。
そしてアルクとエレーナが振り向く前に、その人物達は布のようなもので二人の鼻と口を塞ぐ。
「「………!!?」」
アルクとエレーナは一瞬驚いた表情を見せるも、途端に眠り込んでしまった。
おそらくアルクが以前、遊女達からかがされた薬と似たようなものだろう。
俺は猫なので、どうやら無視してくれたようだ。
男の一人がフードを取ると、それは例のハゲだった。
二人を見下ろしてニタリと不吉な笑みを浮かべている。
「へっ、俺のことを嗅ぎまわりやがって。裏で自分達にデカい懸賞金が懸けられてるとも知らずによぉ。獲物の方から来てくれるなんざ、ありがたい話だぜ……」
俺は今すぐこいつらを一掃することを考えた。
しかし、この二人に懸賞金を懸けたという人物だか組織だかの元へ行き、そいつらを始末した方が良いだろう。
フードの奴らはアルクとエレーナを抱え上げ、ついでに俺も抱え上げる。
どうやら猫だからと言って、そのまま逃がしてはおかないようだ。
そして、あの誘拐された獣人の子供たちと同じように、二人は手足を縛られ、それぞれ大きな袋の中に入れられた。
男は迷っている様子だったが、結局俺をアルクと同じ袋の中にポイっと放り込み、袋の口を紐で縛る。
俺は試しに袋を引っかいてみたが、簡単に穴は開かない。
どうやら魔術でも付与されているようだ。
そこからは、どこへ向かって移動しているか分からなかった。
男たちは歩き続け、周囲の音からすると、おそらくどこかの門から町の外へ出たようだ。
そして俺達を入れた袋は、男たちから別の誰かへと引き渡される。
こいつらは、例の獣神協会の奴らだろうか。
もしくは単なる反獣人派だろうか。
またしばらく移動を続けると、どこかの建物へ入った雰囲気があった。
そして俺達を入れた袋はドサリと床に下ろされる。
そこからは、何か奇妙な感覚だった。
俺達の周囲で、かなり大きな光が発生したようだ。
袋の中からでもわずかに、周囲の色が明るくなるのが分かる。
すると体が宙に浮くような、異様な感覚に襲われる。
しばらくその不思議な感覚が続いたかと思うと、次の瞬間にはそれは消え去り、俺達を入れた袋は単に床の上に横たえられていた。
そして誰かが、その袋を拾い上げる。
俺達は誰かに抱えられ、またその場所から移動する。
しかしどうも妙だった。
さっきは建物に入って、数歩歩いただけで、床の上に下ろされた。
だが今、その人物は袋を抱え上げた後、いつまでも建物の中を歩き続けている。
入って来た方向に向かって歩いているはずが、外に出る気配は一向にない。
するとそのうち、その人物は階段を上り始めた。
おそらくエレーナを入れた袋は別の人物が抱えているのだろう、コツコツと階段を上る足音がふたつ響き渡った。
やがて階段を上り切り、どこかの扉が開かれ、俺達はその部屋か何かに入れられる。
そしてやっと、俺達を運んでいた人物達が、袋の紐を解き俺達を解放した。
「うわっ!!な、なんだ、猫……!?」
俺は一番に袋からピョンと飛び出し、周囲を見回した。
俺達を運んだ人物達はフードを被っていない、ただの兵士のようだ。
そこは牢屋のようで、扉は鉄格子でできている。
やれやれ。なんだってこんなところに連れてこられたのだ。
兵士達はアルクとエレーナを袋から出し、牢の外に出て鉄格子をガチャリと閉めた。
アルクとエレーナはまだ眠っていた。
男たちが去った後、俺はくるりとアルクに向き直る。
パーーーーーン!!!
「イタッッ!!!え、な、え、ここどこ………!!??」
アルクはガバっと上体を起こし、キョロキョロと周囲を見回した。
俺が右頬に、思いっきり猫パンチをお見舞いしたのだ。
どうやら今回の薬は、体の動きを封じることはなかったようだ。しかし手足は縛られているので、身動きは取れない。
「あ、あれ、エレーナさん、寝てる……。というか、ここ、牢の中……?」
「おう。この場所がどこだかは分からん。しかしお前達を生きたままここに閉じ込めたんだ、何か目的があるんだろう。いずれ奴らは戻ってくるだろうから、その時まで待つしかない。」
「え、ええ、大丈夫かな、僕達、殺されちゃうんじゃ……」
アルクはビクビクして周りを見るが、脱出する手段はなさそうだ。
しばらくすると、エレーナも目を覚ます。
俺達はそのまま、何かしらの動きを待つ事にした。
それから数時間は経っただろうか、やっと兵士のような男達が、俺達のいる牢へと戻って来た。
「……出るんだ。」
兵士達はアルクとエレーナの足を解放し、槍を二人に突き付けながら、自分達で歩かせた。
槍は獣人や冒険者が使用するようなものではない、銀色に鋭く輝く上等品のように見える。
そこからさらに階段を上り、地下から地上階へと出た俺達は、その建物のあまりの大きさに呆気に取られた。
まるで王宮のように天井が高い。
廊下は数メートルはあろうかという広さで、壁や床は完璧に磨き上げられている。
もしかしたら本当に王宮かも知れない。
俺達は廊下を進み、曲がった先にあるひときわ大きな扉の前まで歩かされる。
兵士達は、その扉の前で立ち止まった。
「……失礼、連れてまいりました。」
兵士の一人が扉に向かって声を上げる。
「通せ。」
その言葉により扉は開かれる。
そして扉の奥にいたのは、やはり紛れもない、おそらく人間の国王と思われる人物だった。




