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勇者猫  作者: バゲット
51/98

51.闇取引

俺達が森に戻ると、そこは獣人と人間の衝突で混沌としていた。



人間達のほうはおそらく冒険者と見える。

複数のパーティーが徒党を組み、森へと侵攻したのだ。そして戦いのどさくさに紛れ、獣人の子供二人を攫ったという。

子供たちは怖い物見たさで、森に近づいていたらしい。



「レオ様、レナ様、すみません!我々としたことが…」


二人が現場に到着すると、猫耳の兵士が飛んできて謝罪した。


「あの人間達、随分手練れです!兵士達は戦闘に手一杯で、子供の後を追える者がいなくて……」


「おい、俺達で行くぞ。人間の領地に連れ去られても、俺達なら探し回れる。」

「うん!」


俺とアルクがそう言うと、レナがまた二カッ笑った。


「おっ、そうこなくっちゃ!じゃあ戦闘はあたしに任せな!!」


そう言ってレナは槍を構え、高々とジャンプした。

着地と同時に冒険者一人の頭を蹴飛ばしている。


「申し訳ない、レナは喧嘩っ早いんだ。」

レオがまるで日常茶飯事とばかりに淡々と謝罪する。


「早速面倒事に巻き込んでしまうことも、申し訳ない。頼んでもいいかな。」

「も、もちろんです!」


アルクが言うと、レオはまた口角を上げた。

「ありがとう。ではよろしく頼む。」



俺達は東へと向けて走り出した。

途中、数名の冒険者が叫びかけてきたが、俺達は徹底的に無視した。


「どうせ俺達が逃げ帰ってるとでも思ってるんだろうよ。」

「う、うん…」



すると一人の冒険者が、剣を振りかざして目の前に立ちはだかる。

「おいお前ら、逃げてんじゃねえ!さっさと獣人達をやっちまえよ!!」


俺は高々とジャンプし、レナに倣って冒険者の顔面にドカッと着地して蹴飛ばした。

冒険者が地面に倒れるドサッという音を後にして、俺達はそのまま走り続けた。


すると今後は魔術師と思われる女が、俺達に向けて風魔法を発射する。


「あなた達、依頼はまだ完了してないわ!獣人達の陣地を一掃して……」

「わあああ、ごめんなさいごめんなさい!!」


アルクは謝罪しながら風魔法を放出する。女の風魔法が強風なら、アルクのそれは竜巻となって女の体を宙に巻きあげた。

女が地面にドサリと伸びる音を聞きながらも、アルクは速度を落とさなかった。


「け、ケガしてないかな……火炎魔法よりましだと思ったんだけど……」

「気にすんな、死にゃあしねえよ。」



俺達は森を突っ切り、ついに人間領へと抜け出した。



しかしそれでも、獣人の子供を攫ったという冒険者達の姿は見当たらなかった。

すでにウエストリアの町中に入ったのだろうか。



俺の指示で、アルクは何食わぬ顔を装い門衛に尋ねた。


「あ、あの……。獣人の子供を捕らえるって依頼だけど、もう、誰かがやり遂げたって、聞いたんですけど……」

「ああ、さっき町に入ってったぞ。先を越されて残念だったな。」


門衛はすんなりと答える。


「そ、その子供たちって、どこに届けるんですか……?」

「奴隷として売るからな、商業ギルドだろう。最近は闇ルートに売り飛ばされることもあるようだが。」

「あ、ありがとう、ございます!」


俺とアルクは急いで町へと入った。



商業ギルドを訪れてみたが、そこにはそれらしき冒険者達は見当たらない。

ギルドの受付に尋ねても、奴隷は納品されていないという。



『納品って、まるで物みたいに……。ねえ、しょこら、ここじゃなかったら、闇ルートって方かな……』

『ああ。闇ルートとやらにどこから近づくか調べる必要があるな。』



ギルドに違法な経路について尋ねる訳にはいかないので、俺達は周囲に聞き込みすることにした。


ギルド周辺の者達に尋ねてみても、獣人を捕らえた冒険者を見た者はいない。

しかし一人、闇ルートについて知っている者がいた。


「あんたもそっちに興味あんのか?ったく最近は皆金に目が眩んでるな。しかしまあ獣人の奴隷ってのは重宝されるからな。

闇ルートってぐらいだ、明るいうちには見つけらんねえ。取引はいつだって夜だ、南門からこっそり連れ出されるって話だぜ。俺は見たことねえけどよ。」


「あ、ありがとう、ございます!」


今は夕刻だ。大きな町なので、南門へとたどり着くには時間がかかる。

俺達はすぐ南門に向かうことにした。



そして夜。街灯を除く灯りは消え、町の大部分は暗闇に包まれた。

南に行くほど家の数は減り、辺りはさらに暗くなり閑散としている。


俺達は南門近くの茂にみ隠れ、怪しい者がいないか目を凝らしていた。


『ほ、本当にここに現れるかな……。子供たち、何もされてないといいけど……』

『ああ。とにかく今は待つしかない。』



しばらくすると、二人の人影が門前に現れた。

顔を隠すようにフードを被っており、明らかに怪しい。

そして二人とも、その肩から巨大な袋を下げている。心なしかその袋は、中で何かが動いているように見えた。


全く、闇ルートが効いて呆れるぞ。ここまで分かりやすいとは。



すると門の向こうに、巨大な荷車のようなものが停止する音が聞こえた。

車夫を含めてこちらも二人の人影が、門から中に入ってくる。


門前には門衛が立っているが、おそらく買収されているようで、すんなりとその者達を通した。


袋を下げる二人が、外から来た二人に向かい、小声で何やら話している。

合計四人、全員フードを被っていた。



『門を出られたら厄介だ。今片付けるぞ。』

『う、うん……!』



俺とアルクは、なるべく音を立てず茂みから飛び出した。

そして背後から、四人の男たちに忍び寄る。面が割れると厄介なので、なるべく一瞬で片を付けたい。


袋を抱えた二人が、それをドサリと地面に下ろした。

外から来た二人は屈み込み、袋の口を僅かに開けて、中を確かめている。



全員の注意が袋に注がれたその瞬間、俺とアルクは動いた。


俺は袋を抱えていた二人の後頭部めがけて、強烈な猫キックをお見舞いする。

アルクは残り二人の後頭部を、剣の柄で続けざまに強打する。


そのまま四人の人影は気絶し、全員ドサリと地面に伸びた。

静かに事が行われたので、門衛はこちらに気付いていない。


アルクが二つの袋を覗くと、そこには手足を縛られ口を塞がれた猫族の子供が一人ずつ、震えながら収められていた。


「だ、大丈夫だよ、ガエルダに戻ろう……」

アルクが小声で囁いた。


俺は全員のフードを覗き込み、その顔を確認した。

袋を抱えていたのは二人の冒険者。一人は初日にアルクに突っかかってきたハゲだった。

そして外から来た二人を見て、俺は一瞬言葉を失う。


その二人には、うさぎの耳が生えていた。

顔にはマスクを被っており、少し引っ張っただけではビクともしない。


アルクもこちらに来てフードをめくり、念話で驚愕の声を上げた。


『じ、獣人族が、どうして同じ獣人族を……。』

『考えても仕方ない、今はとにかく子供たちを運ぶぞ。……町中を運んで見つかったら厄介だ。このまま南門から出て、西の森まで歩くぞ。』

『う、うん、そうだね……』



俺は門衛にも猫キックをお見舞いして気絶させた。

その間にアルクが縄をほどき、子供たちを解放する。


「し、静かにして、騒ぐと見つかっちゃうから…」


子供たちは涙を流しながらも、黙ってこくりと頷いた。



俺達は門を出て、西へと向かった。

このままミッド・フォレストまで歩くにはかなりの距離があるが、コクヨウもいないので歩くしかない。

幸いこの時間には、町の外を出歩く者はいなかった。




それからどのくらい歩いただろうか、俺達はやっと町の西側へとたどり着いた。

西門の門衛に見つからないよう、俺達はなるべく町を遠巻きにして、南寄りを歩く。


アルクでさえ疲れているのに、子供たちは相当だろう。

しかし二人とも泣き言を言わず、ただ黙々と歩き続けた。



「あ!見ろよ、あそこ!!」


最初に俺達を発見したのはレナだった。

俺達がなかなか戻らないのを心配して、ずっと森の中で見張っていたのだろう。


「よかった、戻ってきたぞ!!」



レナの声を聴くと、子供たちは一斉に駈け出した。

両手を広げたレナの胸に飛び込むと、今まで抑え込んでいたものを解放するように、やっと大声で泣き出した。


「よしよし、ったく、もう危ないとこうろちょろすんじゃねえぞ!

あんたら、さすがだな!ほんと助かったよ!攫われた子供たちが戻って来たのなんて、初めてだぜ……」


「ああ、本当にありがとう。感謝する。」


遅れてやって来たレオが、無表情ながらも安堵の様子を見せ、ほっと息をついた。



しかし、安心している場合ではない。

俺達はレオとレナに、現場で見たものについて報告した。


レナは怒り狂い、レオはしばらく無言で考えた後、口を開く。


「…獣人族に、人間に通じている者がいると聞いたことはある。……兎人(とじん)族か……」



俺達が考えるべき問題は、また一つ増えてしまったようだ。

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