51.闇取引
俺達が森に戻ると、そこは獣人と人間の衝突で混沌としていた。
人間達のほうはおそらく冒険者と見える。
複数のパーティーが徒党を組み、森へと侵攻したのだ。そして戦いのどさくさに紛れ、獣人の子供二人を攫ったという。
子供たちは怖い物見たさで、森に近づいていたらしい。
「レオ様、レナ様、すみません!我々としたことが…」
二人が現場に到着すると、猫耳の兵士が飛んできて謝罪した。
「あの人間達、随分手練れです!兵士達は戦闘に手一杯で、子供の後を追える者がいなくて……」
「おい、俺達で行くぞ。人間の領地に連れ去られても、俺達なら探し回れる。」
「うん!」
俺とアルクがそう言うと、レナがまた二カッ笑った。
「おっ、そうこなくっちゃ!じゃあ戦闘はあたしに任せな!!」
そう言ってレナは槍を構え、高々とジャンプした。
着地と同時に冒険者一人の頭を蹴飛ばしている。
「申し訳ない、レナは喧嘩っ早いんだ。」
レオがまるで日常茶飯事とばかりに淡々と謝罪する。
「早速面倒事に巻き込んでしまうことも、申し訳ない。頼んでもいいかな。」
「も、もちろんです!」
アルクが言うと、レオはまた口角を上げた。
「ありがとう。ではよろしく頼む。」
俺達は東へと向けて走り出した。
途中、数名の冒険者が叫びかけてきたが、俺達は徹底的に無視した。
「どうせ俺達が逃げ帰ってるとでも思ってるんだろうよ。」
「う、うん…」
すると一人の冒険者が、剣を振りかざして目の前に立ちはだかる。
「おいお前ら、逃げてんじゃねえ!さっさと獣人達をやっちまえよ!!」
俺は高々とジャンプし、レナに倣って冒険者の顔面にドカッと着地して蹴飛ばした。
冒険者が地面に倒れるドサッという音を後にして、俺達はそのまま走り続けた。
すると今後は魔術師と思われる女が、俺達に向けて風魔法を発射する。
「あなた達、依頼はまだ完了してないわ!獣人達の陣地を一掃して……」
「わあああ、ごめんなさいごめんなさい!!」
アルクは謝罪しながら風魔法を放出する。女の風魔法が強風なら、アルクのそれは竜巻となって女の体を宙に巻きあげた。
女が地面にドサリと伸びる音を聞きながらも、アルクは速度を落とさなかった。
「け、ケガしてないかな……火炎魔法よりましだと思ったんだけど……」
「気にすんな、死にゃあしねえよ。」
俺達は森を突っ切り、ついに人間領へと抜け出した。
しかしそれでも、獣人の子供を攫ったという冒険者達の姿は見当たらなかった。
すでにウエストリアの町中に入ったのだろうか。
俺の指示で、アルクは何食わぬ顔を装い門衛に尋ねた。
「あ、あの……。獣人の子供を捕らえるって依頼だけど、もう、誰かがやり遂げたって、聞いたんですけど……」
「ああ、さっき町に入ってったぞ。先を越されて残念だったな。」
門衛はすんなりと答える。
「そ、その子供たちって、どこに届けるんですか……?」
「奴隷として売るからな、商業ギルドだろう。最近は闇ルートに売り飛ばされることもあるようだが。」
「あ、ありがとう、ございます!」
俺とアルクは急いで町へと入った。
商業ギルドを訪れてみたが、そこにはそれらしき冒険者達は見当たらない。
ギルドの受付に尋ねても、奴隷は納品されていないという。
『納品って、まるで物みたいに……。ねえ、しょこら、ここじゃなかったら、闇ルートって方かな……』
『ああ。闇ルートとやらにどこから近づくか調べる必要があるな。』
ギルドに違法な経路について尋ねる訳にはいかないので、俺達は周囲に聞き込みすることにした。
ギルド周辺の者達に尋ねてみても、獣人を捕らえた冒険者を見た者はいない。
しかし一人、闇ルートについて知っている者がいた。
「あんたもそっちに興味あんのか?ったく最近は皆金に目が眩んでるな。しかしまあ獣人の奴隷ってのは重宝されるからな。
闇ルートってぐらいだ、明るいうちには見つけらんねえ。取引はいつだって夜だ、南門からこっそり連れ出されるって話だぜ。俺は見たことねえけどよ。」
「あ、ありがとう、ございます!」
今は夕刻だ。大きな町なので、南門へとたどり着くには時間がかかる。
俺達はすぐ南門に向かうことにした。
そして夜。街灯を除く灯りは消え、町の大部分は暗闇に包まれた。
南に行くほど家の数は減り、辺りはさらに暗くなり閑散としている。
俺達は南門近くの茂にみ隠れ、怪しい者がいないか目を凝らしていた。
『ほ、本当にここに現れるかな……。子供たち、何もされてないといいけど……』
『ああ。とにかく今は待つしかない。』
しばらくすると、二人の人影が門前に現れた。
顔を隠すようにフードを被っており、明らかに怪しい。
そして二人とも、その肩から巨大な袋を下げている。心なしかその袋は、中で何かが動いているように見えた。
全く、闇ルートが効いて呆れるぞ。ここまで分かりやすいとは。
すると門の向こうに、巨大な荷車のようなものが停止する音が聞こえた。
車夫を含めてこちらも二人の人影が、門から中に入ってくる。
門前には門衛が立っているが、おそらく買収されているようで、すんなりとその者達を通した。
袋を下げる二人が、外から来た二人に向かい、小声で何やら話している。
合計四人、全員フードを被っていた。
『門を出られたら厄介だ。今片付けるぞ。』
『う、うん……!』
俺とアルクは、なるべく音を立てず茂みから飛び出した。
そして背後から、四人の男たちに忍び寄る。面が割れると厄介なので、なるべく一瞬で片を付けたい。
袋を抱えた二人が、それをドサリと地面に下ろした。
外から来た二人は屈み込み、袋の口を僅かに開けて、中を確かめている。
全員の注意が袋に注がれたその瞬間、俺とアルクは動いた。
俺は袋を抱えていた二人の後頭部めがけて、強烈な猫キックをお見舞いする。
アルクは残り二人の後頭部を、剣の柄で続けざまに強打する。
そのまま四人の人影は気絶し、全員ドサリと地面に伸びた。
静かに事が行われたので、門衛はこちらに気付いていない。
アルクが二つの袋を覗くと、そこには手足を縛られ口を塞がれた猫族の子供が一人ずつ、震えながら収められていた。
「だ、大丈夫だよ、ガエルダに戻ろう……」
アルクが小声で囁いた。
俺は全員のフードを覗き込み、その顔を確認した。
袋を抱えていたのは二人の冒険者。一人は初日にアルクに突っかかってきたハゲだった。
そして外から来た二人を見て、俺は一瞬言葉を失う。
その二人には、うさぎの耳が生えていた。
顔にはマスクを被っており、少し引っ張っただけではビクともしない。
アルクもこちらに来てフードをめくり、念話で驚愕の声を上げた。
『じ、獣人族が、どうして同じ獣人族を……。』
『考えても仕方ない、今はとにかく子供たちを運ぶぞ。……町中を運んで見つかったら厄介だ。このまま南門から出て、西の森まで歩くぞ。』
『う、うん、そうだね……』
俺は門衛にも猫キックをお見舞いして気絶させた。
その間にアルクが縄をほどき、子供たちを解放する。
「し、静かにして、騒ぐと見つかっちゃうから…」
子供たちは涙を流しながらも、黙ってこくりと頷いた。
俺達は門を出て、西へと向かった。
このままミッド・フォレストまで歩くにはかなりの距離があるが、コクヨウもいないので歩くしかない。
幸いこの時間には、町の外を出歩く者はいなかった。
それからどのくらい歩いただろうか、俺達はやっと町の西側へとたどり着いた。
西門の門衛に見つからないよう、俺達はなるべく町を遠巻きにして、南寄りを歩く。
アルクでさえ疲れているのに、子供たちは相当だろう。
しかし二人とも泣き言を言わず、ただ黙々と歩き続けた。
「あ!見ろよ、あそこ!!」
最初に俺達を発見したのはレナだった。
俺達がなかなか戻らないのを心配して、ずっと森の中で見張っていたのだろう。
「よかった、戻ってきたぞ!!」
レナの声を聴くと、子供たちは一斉に駈け出した。
両手を広げたレナの胸に飛び込むと、今まで抑え込んでいたものを解放するように、やっと大声で泣き出した。
「よしよし、ったく、もう危ないとこうろちょろすんじゃねえぞ!
あんたら、さすがだな!ほんと助かったよ!攫われた子供たちが戻って来たのなんて、初めてだぜ……」
「ああ、本当にありがとう。感謝する。」
遅れてやって来たレオが、無表情ながらも安堵の様子を見せ、ほっと息をついた。
しかし、安心している場合ではない。
俺達はレオとレナに、現場で見たものについて報告した。
レナは怒り狂い、レオはしばらく無言で考えた後、口を開く。
「…獣人族に、人間に通じている者がいると聞いたことはある。……兎人族か……」
俺達が考えるべき問題は、また一つ増えてしまったようだ。




