表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者猫  作者: バゲット
45/98

45.出発

俺とアルクは出発の準備ができ次第、女神に召喚されることになっていた。



今回、神王と呼ばれる者が俺達に特別に神託を下したのには、いくつかの事情が絡んでいるらしい。



まず転移先の世界には、勇者がいない。

魔王討伐を達成する前に、命を落としてしまったというのだ。


勇者不在となった世界で、新たな勇者の誕生を待つ余裕はない。

適当な人間を選び、勇者称号を授与することも検討されたが、レベルアップには時間がかかる。それに、成長した人間に勇者スキルを付与するには、莫大な神力を必要とするらしい。



そこで、異世界から勇者を転移させてはという議論が神界で持ち上がった。

転移にも神力は必要だが、成長した人間への称号付与よりは、負担が少ない。

また異世界の勇者であれば、既にレベルも十分高い。


つまり、ちょうど俺達の世界で魔王を討伐し終えた俺達は、適任だったという訳だ。



正直、また神に良いように利用されているとは思う。

しかし少なくとも今回、神王と俺達との利害は一致していた。



神王は俺達に、異世界の魔王を討伐することを求めている。

俺達は、ハルトの魂が救われることを望んでいる。



ハルトの魂から禁忌の呪いを浄化し、輪廻転生の輪へと戻すことは可能だという。

しかしそれには莫大な神力が必要で、俺達がこの世界の魔王を討伐した見返りとしては、過分な願いだという。(本当にそうなのか、俺達に確かめる術はない)



しかし神王は、俺達が条件を呑むならば、その願いは聞き入れるに値すると考えたらしい。

異世界の魔王討伐に成功すれば、ハルトの魂を救い、次の輪廻で生まれ変わらせることを、神王自らが約束したのだ。


そして女神曰く、ハルトが二つの時代に渡り魔王討伐に尽力したことも、神王が慈悲を施す一因となったらしい。



目的のためには、背に腹は代えられない。



アルクの見合いも無事終わり、俺達は出発する日取りを決めた。



出発前夜、アルクはベッドに潜り込みながら、不安な表情を見せていた。


「ねえ、しょこら。異世界の魔王って、強いのかな……」


「さあな。行ってみなけりゃ分からないだろ。」


「そうだね。……次は、誰も犠牲になりませんように……」



アルクは手に何かをぎゅっと握りしめている。

よく見るとそれは、ハルトの遺言が込められていた魔石だった。


今は遺言の力を失い、ただの石になっている。

しかしアルクはそれを、お守りのように持ち歩いていた。


「…僕、もう絶対、大切な人を失いたくない…」


アルクは独り言のようにつぶやく。



ハルトとの別れがあってからというもの、アルクは夜にうなされる事が多くなった。

以前は一度寝たら朝まで起きなかったが、今では夜中に急に目覚める事も多い。


そんなときは俺を抱き枕にして、手にはハルトの魔石を握りしめ、なんとかまた眠りに落ちるのだった。



今日もうまく寝付けない様子のアルクだったが、しばらくすると、静かな寝息を立てだした。




翌朝、アルクは母アリゼーに、しばしの別れを告げた。

ゼノスは仕事で不在だった。



アルクの様子を見て何かを感じ取ったアリゼーは、不安そうな表情を見せる。


「……アル、また何か、危険なことをしようとしていないわよね?」


アルクは少し戸惑うが、すぐに笑顔を見せた。


「ううん、大丈夫だよ。……またすぐ戻ってくるよ。」


「……ええ、分かったわ。…ちゃんとご飯を食べるのよ。」


アリゼーはそれ以上何も言わず、アルクをぎゅっと抱きしめた。




フレデール家を出て、俺達は人目につかない森へと向かう。

「惑わずの森」だ。



「ほんの数か月前は、ここを抜けて北へ抜けようとしてたんだよね。……あの時は、数か月後にこんな事になっているなんて、想像もつかなかったよ……」


「ここで鼻水垂らして泣き喚いていた頃を思えば、成長したもんだな。」


「は、鼻水なんて垂らしてないよ!!」



話しているうちに、俺達は森に足を踏み入れた。

そして立ち止まり、その時を待つ。



するとしばらくして、周囲の景色が薄れ出した。

俺達を取り囲んでいた木々の色は薄れ、森は姿を消す。



そして俺達は、女神の前へと召喚されていた。



「勇者しょこら、そしてその従魔アルク。よくぞ参られました。此度の神王様からの神託、心して受けなさい。其方達が神の御心に従い、その責務を果たした暁には…」


「おい、そういうのもういいから、早くしろよ。」


女神は初めて召喚されるアルクの前で、やたら畏まっている。


「ちょ、ちょっとはかっこつけさせなさいよ!!」


完全に面目を潰された様子だ。



『し、しょこら、女神様って結構、フランクなんだね……』

『こいつに様なんて付けなくていいぞ』

「ちょっとあなた達!心の声も聞こえてるんだからね!!」


女神は畏まるのを完全に諦め、咳払いをした。



「オホン!!さあ、これからあなた達を、()()()の世界に送るわよ!…残念ながら私もその世界について、詳しいことは知らない。


だけどあなた達のスキルは持ち運べるし、レベル的にも十分やっていけるはずよ。


だけどあちらの世界は、私の管轄ではない。私は何があっても、あなた達をこうやって呼び出すことはできない。あなた達をこの世界へと呼び戻す、その時まではね。」



「別にお前に会えなくて困ることはないぞ」


「ちょっと、失礼ね!!……まあいいわ、とにかく心して臨んでね。


あちらの世界の命運は、あなた達にかかってる。そしてあなた達には、ハルトの魂がかかってる。これはいわば取引よ。……いいわね?」



俺がジロリと女神を睨め付けたので、最後の言葉は少し尻すぼみになった。

女神も神王から言わされてるんだろうが、それでも腹は立つ。

ハルトの魂を引き合いに出され、神に良いように使われている、という感覚は拭えないのだ。


女神は弁解するように言った。


「…私だって、あなた達には悪いと思うわよ。この世界の魔王を倒したばかりなのに、また責任を負わされるなんて。だけどこれはあなた達が選んだことでもある。


私も、うまくいくことを祈っているわ。神力云々だけではなく、私個人としてもね!」



そう言って女神は、俺達に両手をかざした。

アルクは俺を抱え上げ、ぎゅっと抱きしめる。



「さあ、しっかりやりなさい!」



女神の両手から放出された光が、俺達を包み込む。


目を開けていられないほどの、眩しい光だ。

思わず目を閉じるが、それでも目が眩むほどの、強烈な光の海だった。



そして俺達は、体がものすごい速さで移動している感覚に襲われる。

前に進んでいるのか、後ろに進んでいるのか、上に飛んでいるのか、もしくは下に落ちているのか分からない。

ただ風のように光が吹き荒れ、俺達はどこかへと飛ばされている。




どのくらいの時間が経ったか分からない。

気づけば俺達は、森の中にいた。



さっきまでの、明るい木漏れ日のさす惑わずの森ではない。



そこは真夜中だった。辺りは真っ暗で、月明かりすら通らない。

俺達はどこか知らない場所の、知らない森の中にいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ