44.見合い
「しょこらああぁぁぁどうしようどうしよう!!ぼぼぼ僕お見合いなんて絶対嫌だよおおお!!」
夕食での出来事から二日目、アルクはまだ俺に向かって喚き散らしていた。
「信じられない……僕が家に戻ったとたんに、母さんが勝手に話を進めちゃって………
おおおお見合い明日だよしょこら!!しかも三人も候補いるんだって!!!どうしよう!!!今から何かすごい病気にでもなれないかな!!?」
俺は面倒なので無視していたが、さすがにうるさくなってきた。
「仕方ないだろ、とりあえず見合いして全員断っとけよ。べつにその中から決めなけりゃならない訳じゃないだろ。」
「そそそうだけど、そもそも僕お見合いなんて嫌だよ!!ただでさえ何話せばいいか分かんないのに……」
「うるせえな。なら何も話すな、そしたら向こうから断ってくるだろうよ」
こんな調子で、アルクは当日まで散々泣き言を言い続けた。
そして翌日。
アルクは朝からあからさまに元気がなく、死人のような顔をしていた。
そして腕には俺をしっかり抱えている。
「おいお前……。俺まで連れていくつもりじゃねえだろうな」
「あ、当たり前じゃないか!しょこらがいないと僕、話す前に失神しちゃうよ……」
やれやれ。こいつ、人見知りだけはどうやっても治らないみたいだ。
アルクは応接室のソファに腰かけており、その横に俺も座り込んでいた。
低いテーブルを挟んで向かいのソファに、これから見合い相手が座ることになっている。
アルクは今や顔面蒼白で、何やらブツブツ呟いている。
「お前……魔王討伐の前より緊張してないか……」
しかしアルクは聞こえないようだった。
やがて一人目が、部屋のドアをノックした。
しかしアルクは微動だにしない。
「………………………………」
「おい、返事してやれよ。……おい……」
だめだ、完全に固まっている。
そのうち一人目の女性が、ためらいがちにドアを開けてアルクの前に現れた。
アルクと同じぐらいの年齢の女の子だった。
金髪のくるくるした髪に、丸くておおきいリスのような目をしている。
「初めまして、メアリ・ブラントといいます。アルク様、この度の魔王討伐、誠にご立派でございました。」
メアリはスカートを持ち上げペコリを頭を下げる。
照れているのか、頬を赤らめていた。
「お、お噂はかねがね伺っておりました。お噂に違わず、とても素敵なお方ですね。この度お目にかかれたこと、誠に光栄に………………………………………………………あの、アルク様?」
俺がアルクを見ると、完全に真顔で停止していた。
メアリ「……………………えっと、す、座らせて頂いても……………………?」
アルク「…………………………………………」
メアリ「……………………あの……………」
アルク「…………………………………………」
アルクの完全なる無反応に、メアリは拒否されていると思ったらしい。
「も、申し訳ございません。失礼いたしました……」
そう言い残し、部屋を去ってしまった。
「おいお前………座るぐらいさせてやったらどうだ……」
俺がそう言うと、アルクは急にハッとしたようにドアの方を見る。
「あれ、もう帰っちゃった!?な、なんで……………。ま、まあいいか、きっと僕のことが気に入らなかったんだ……」
やれやれ。これでは後の二人もまともに話はできまい。
しばらくすると、二人目がやって来た。
アルクよりも年下、リーンと同じぐらいに見える。
真っ直ぐな灰色の髪の、大人しそうな少女だ。
「……エレナ・バートンと申します……」
正式な場に慣れていないのか、ペコリとお辞儀すると、エレナはそのままソファに腰かけた。
エレナ「…………………………………………」
アルク「…………………………………………」
エレナ「…………………………………………」
アルク「…………………………………………」
どうやらエレナもコミュ障のようだ。
このままでは日が暮れる。俺は尻尾でバシッとアルクの足を叩いた。
アルクはまたハッとして、初めてエレナに気付いたように口を開いた。
アルク「………えっと…………」
アルクが話し出すと、エレナの顔が急に真っ赤になった。一瞬、火を噴くかと思ったぐらいだ。
エレナ「すすすみません、え、エレナといいます。あ、あの私、絶対に良いお嫁さんになります!!」
幼い少女はそれだけを怒涛の勢いで言った。
アルク「………えっと…………すみません………」
何を話すべきか分からないアルクは、意味もなく謝った。
するとエレナは、それが正式なお断りだと思ったようだ。
「も、申し訳ございませんでした!!」
ペコリと頭を下げ、また怒涛の勢いで部屋を出て行った。
アルクはエレナの後ろ姿を見送った後、膝の上で頭を抱えた。
「もうダメだ………僕やっぱりこういうの向いてない………」
そして数分後、最後の候補者が部屋を訪れた。
アルクより三つほど年上、落ち着いた様子のその女の子は、名をアリシアと言った。
背が高く、茶色い髪を肩までのばしている。
『アリシアって、どっかで聞いたような……』
念話を繋げたまま、アルクが頭の中で呟いた。
するとアリシアはにっこりと笑って言った。
「アリシア・スラシアと申します。アルク様には父が大変お世話になりました。」
そう言って頭をペコリを下げる。
そうだ、アリシアというのは、スラシア領主であるスラシア公爵家の娘だ。
ノルテーラ事件の後、スラシア公爵がアルクに、ぜひ嫁にと勧めた娘だった。
あのジジイ、まだ諦めてなかったのか。
「私達の婚姻は、我がスラシア公爵家と、アルク様のフレデール伯爵家、両家にとってとても意義のある事かと存じます。
アルク様、将来は領地をお継ぎになることを憚られているのではないですか?私は父の教えの下、領地経営について幼き頃より勉強して参りました。
もしアルク様が冒険者を生業とされるなら、私はアルク様に代わってこの地を治めます。私には兄がおりますので、スラシア家の跡継ぎの心配はございません。いかがでしょう、悪いお話ではないのではありませんか?」
アリシアは目を輝かせ、ぐいぐいとアルクの眼前に迫る。
野心があるのか、アルクに興味があるのかは知らないが、あまりの勢いにアルクは少しのけ反った。
「え、えっと……ですね………」
「私は妻としては不足でしょうか?アルク様もいつか必ず妻を迎える必要がありましょう、もし意中のお方がいらっしゃらないのであれば、私以上の適任は……」
アルクは勢いに押されて、ほとんど気絶しそうになっている。
そして、緊張のあまり混乱したアルクは、ついにとんでもない事を言い出した。
「えっと………僕は…………」
「はい!」
「僕は…………。ぼ、僕には…………、しょこらがいるので!!」
一瞬、部屋が静まり返った。
「……え、えっと、アルク様、しょこらというのは………」
「えっと、だから…………」
するとアリシアはハッとした。
「まあ、既に意中の方がいらっしゃったのですね!わ、私としたことが、差し出がましい事を……。
そういう事でしたら、今回は身を引きますわ。ですが将来また機会があれば、改めて候補者としてお目にかからせて頂きます……」
そう言うとアリシアは丁寧にお辞儀し、颯爽と部屋を出て行った。
俺はさすがに引いて、アルクを見上げる。
しかしアルクは心底ほっとしたようにため息をつき、俺を抱え上げた。
「ああああ良かったよ~~~~!!助けてくれてありがとう、しょこらあああああ~~~」
別に助けた覚えはないのだが。
後から聞いた話によると、「寡黙でクールな勇者」というアルクの評判に、「一途な」が新たに加わったらしい。
本当に人間というものは愚かだ。




