表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者猫  作者: バゲット
42/98

42.弔いと決意

魔王討伐の後、俺達はエド町へと戻った。



戦いに勝利した勇者として華々しい帰還を遂げた訳ではない。

ハルトの死は護衛隊員や冒険者、民衆たちを悲しませ、諸手を上げて魔王討伐を祝福できる者はいなかった。



戦闘力こそ高くないものの、その人柄や博識さ、指導力により、ハルトは町の人々から敬意を集めていた。護衛隊長ですら一目置く存在だったのだ。



しかし人々はアルクを暖かく迎え入れた。

誰も、ハルトの死についてアルクを責め立てるようなことはしなかった。


人々はアルクの手を取り、心から感謝の言葉を述べ、励まし、その功労をねぎらってくれた。



そしてそれは、リーンも同じだった。



あれだけ兄好きだったリーンは、涙すら見せず毅然として、ハルトの体が横たえられた棺の前に立ち尽くしていた。


リーンは俺達の姿を見つけると、ゆっくりと歩いてきて、ペコリと頭を下げた。



「ありがとうございました。」



それだけ言うと、リーンはくるりと向きを変えて去って行った。




町全体を、弔いの空気が包んでいた。

今回の犠牲者はハルトただ一人だったが、その不在は、人々の心に大きな穴を開けた。




ハルトの墓は町中の墓地に建てられた。


町全体がアルクの言う「時代劇みたい」なエド町だが、墓だけはこの世界の様式で、その小さな墓石は四角ではなく丸い形をして地面に立っている。




その日、俺達はずいぶん長い間、墓の前に佇んでいた。

墓地には多くの木や花が植えられており、吹き抜ける風が心地よい草と土の匂いを運んだ。




どのくらいの時間が経っただろうか。

太陽は既に俺達の真上を通り過ぎ、西へと傾きかけている。




アルクが口を開く。


「しょこら。これから………」


これから先どうするか。しかしアルクが尋ねるまでもなく、俺達の心は既に決まっていた。





あの日、魔王を倒し、ハルトと最後の言葉を交わした後、俺は女神の元へと召喚された。


女神はまず俺を見て、魔王を討伐したことへの祝福と賛辞を述べた。もちそんそんな堅苦しいものではない。



「偉大なる勇者よ、本当にありがとう。見事に魔王を討伐してくれて。これで私の首の皮もつながっ………オホン。


それはそうと、倒された魔王が発散する膨大な魔力は浄化され、私たち神の力となる。つまり神力に少し余裕ができたから、神からの恩恵として、私はあなたの願いを一つ聞き入れることができる。


………もちろん何でもかんでもできる訳じゃないわよ、神力は節約が必要だし、できる範囲でだけどね!何か欲しいスキルとかはない?」



俺はその時、ハルトの命が尽きるのを見届けたばかりだったので、女神に元気よく反抗する気力すらなかった。


俺は投げやりに言う。


「なら、ハルトを生き返らせてくれ。」


案の定女神は、とんでもないとばかり両手をブンブン振る。



「とんでもない!あなたも分かってるでしょうけど、死んだ人間をそのまま生き返らせることはできない。たとえ無限の神力があったとしても、そもそも不可能よ。


……それにあの人は前世で禁忌を犯した。今回のことは全て、神の領域に手を出した罰とも言え……」



「罰だと?」



激しい怒りが、再度俺の中で首をもたげた。



「馬鹿かお前は!!よくそんなことが言えるな!!!


勝手に過酷な運命を背負わせて、節約だ何だと言ってロクな力も与えず、魔王に関する何の知識も授けず、はい討伐してくださいってこの世界に放り出しておいて、お前らのほうが余程罪深いだろ!!!


俺達はハルトがいなけりゃ、絶対に魔王を倒すことなんてできなかった!!!あいつは自らの命を犠牲にして、二つの時代でこの世界を魔王から救ったんだ、これ以上の功労者がいるかよ!!!!」




俺の怒りには、ほぼ八つ当たりも含まれていた。

俺は純粋に女神だけに怒っているのではない。自分の不甲斐なさ、理不尽な死、この世界の仕組みそのもの、全てに腹を立てていたのだ。


今は誰かに怒りをぶつけなければ、頭がおかしくなりそうだった。



女神はさすがに俺の心中を察したようだ。


「そ、そうね、ごめんなさい。言葉を間違えたわ。……あの人は確かに、すごく良く尽力してくれたわよ。


だけどやはり、死者を生き返らせることはできない。だから、何か別の願いを言って。できる限り叶えてあげるから……。で、できる限りでね!」



俺はフンと鼻を鳴らした。



「……お前、さっき、死んだ人間をそのまま生き返らせることはできない、と言ったな。そのままじゃなければ、生き返らせることはできるのか?」



言葉の端々を覚えている俺に、女神は驚いたようだ。


「えっと、そういう意味では……。そ、そう、あのハルトという人を、生きていた状態そのままに、蘇らせることはできないわ。


だけど……、その魂を救う術はある。


死んだ人の魂はすぐに消える訳じゃない。しばらくの間神界に留まり、やがて消滅して、次の輪廻へと向かう。最も彼は禁忌を犯したから、本来であれば、もはや輪廻転生はできない。


だけど彼の魂はまだ完全に消滅していないし、魔王のように粉々に破壊された訳じゃない。

修復して、禁忌による呪いを浄化してあげて、まっさらな状態で、また輪廻の輪に戻してあげることは、できるわ。


……ちなみにできると言っても、理論的に可能というだけで、私にそこまでの力がある訳ではないわよ!それは私の一存ではできないし、膨大な神力を必要とする。それに………」



女神は少し言い淀んだ。



「それに………、この世界において、人の魂が転生するには四百年以上を要する。例え彼の魂を救ってあげたとしても、すぐに生まれ変わる訳じゃない。


あなた達が生きている間に、彼の魂と再会することはできないわ。」




するとそこで突然女神が言葉を止め、誰かと話し出した。


俺にはその誰かの声は聞こえない。だがおそらく、俺が勇者の称号を与えられ、初めて女神の前に召喚された時と同じだ。



女神は、神王と呼ばれる者と話をしている。



やがて話を終えた女神が、くるりと俺に向き直った。


「……勇者しょこら、そしてその従魔アルク。………あなた達に今、新たな神託が下ったわ。」




俺が女神に召喚されていることに、アルクは気づかなかったらしい。

気づけば俺はまた、目の前で横たわるハルトの体を見つめ、隣ではアルクが静かに泣き続けていた。


俺はアルクに、たった今起きたことを説明した。



アルクは話を聞いて、茫然としていた。

しかしすぐに、意を決したようにこくりと首を縦に振ったのだ。





そして今、ハルトの墓の前に立つ俺達の心は、既に決まっていた。



俺達はまた、行かなければならない。勇者として、ここではない別の世界へ。ハルトの魂を、その呪いから救うために。



次から、第二章に入ります。

ここまでお読みいただいた方、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ