41.最期の言葉
ハルトが、薄く目を開けた。
俺達は目の前の奇跡に、言葉を失う。
ただハルトを見つめるだけの俺達に、ハルトは優しく声をかけた。
「………やあ、無事に魔王は、倒せたみたいだね…………」
その声は弱々しく震えている。
アルクはハルトの上体を支えながら、必死にハルトに問いかける。
「ハルトさん!ハルトさん!!………い、生き返ったの……………?」
しかしハルトは、僅かに首を振る。
「いや、残念ながら、これは魔石による一時的な蘇生術だよ。おそらく5分ともたない。
でも良かった、うまくいったみたいで………」
「そ、そんな………」
ハルトはアルクを、そして俺を見た。
「………最後にどうしても、君達と直接話がしたかったんだ。」
ハルトはいつものように、にっこりと笑っていた。
「………ありがとう。僕の話を信じてくれて。
僕の訓練に付き合ってくれて。
リーンの相手をしてくれて。
僕の遺言を受け入れてくれて、魔王を倒してくれて。
僕の友達になってくれて、いつも一緒にいてくれて。
僕に心から、楽しい時間をくれて。本当に、ありがとう。」
ハルトはそれだけを一気に言った。
アルクはまた嗚咽しながら言う。
「そっ、そんな…………!!お、お礼を言わなきゃいけないのは、僕達のほうなのに!!!
ハルトさんがいなかったら、僕たち、魔王を倒せなかった………!!っっそれに、それに………」
アルクは涙で言葉を詰まらせる。
「それに、………っ、色々教えてくれて、それに……………、もし魔王を倒せなくても、ぼく、ハルトさんと一緒にいるだけで、楽しかった………………
ず、ずっと、一緒にいたかった………………………!!!!」
アルクはぼろぼろと涙を流す。
それは止めどなく流れ続け、ハルトの顔にぽたぽたと落ちる。
ハルトは僅かに震える左手を上げ、自分の上に置かれたアルクの右手をつかむ。
「アルク君………、君はこれから、自由に生きるんだ。勇者の運命に縛られない、自由な人生を……………。アルク君なら、大丈夫だ………」
そしてハルトは、俺の方に目を向ける。
「しょこら君は…………、僕が言わなくても、自由に生きるよね。……………ありがとう、魔石のこと、分かってくれて。」
そう言ってまたにっこり笑う。
「………………たまに、リーンの顔を見に行ってやってくれ。」
ハルトの体に流れていた白い光が、だんだん弱まってくる。
「ありがとう。僕の、勇者たち………………」
ハルトの目から、一筋の涙が流れる。
アルクの右手を握っていた手が、パタリと床に落ちる。
ハルトは再び目を閉じた。その顔は、小さく微笑んでいた。
その後しばらく、世界から音が消えた。
アルクが大声で泣き叫び、ハルトの名を呼び続けるが、まるで水の中にいるかのように何も聞こえない。
俺はじっとハルトの顔を見つめた。涙が出ないというのは、不便だった。




