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勇者猫  作者: バゲット
40/98

40.決着

俺達を包んだ白い光が消え、周囲はまた暗闇に包まれた。




それはほんの一瞬の出来事だったようだ。魔王は不思議な顔で、片方の眉を上げる。


「なんだい、今の光は。……まあいい、君達、覚悟はできているかな?」



もちろん俺達の覚悟は決まっていた。



もはや躊躇う必要はなかった。

だから俺は光が消えた瞬間、魔王が動き出す前に、すでに魔法を発動していた。



俺はかつてノルテーラを椅子に縛り付けたように、植物の蔓を作り出して魔王の体を縛り付けた。

ちょうど魔王がその素早さで、アルクの目の前に現れた時だった。


床から伸びるその蔓は、魔王の手足を絡め取り、動きを封じた。



先手を越されていたことに、魔王は少し面食らったようだった。

しかし手足を固定するその蔓は、少し力を込めるだけで簡単に引きちぎることができる。



だが、すでにアルクも動いていた。



アルクは光が消えた瞬間に刀を引き抜いていた。

蔓が魔王の手足に巻き付くのとほぼ同時に、アルクは手にした刀を、ズブリとその心臓に突き立てた。



「………なっっ………ん、だと………」



ハルトの顔をしたそれは、苦痛で表情を歪める。



その場で震えながら俯き沈黙した後、顔を上げた。

心から悲しみ、苦痛に喘いでいる表情だった。



「………アルク、君………。ぼ、ぼくの魂はまだ、この体に残っているんだ。


……お願いだ、これ以上、傷付けないでくれ…………」



それはハルトの声、ハルトの話し方そのものだった。




「………………………っっ………………………」


アルクは言葉に詰まる。



しかしそれは、ハルトの声を聴いて動揺したからではなかった。


魔王がこの期に及んでハルトを模倣し、ハルトが絶対に言わないであろう台詞を使い、狡猾にも攻撃の手を逃れようとしていることに、震えるほどの怒りを感じているからだった。



アルクはこれまでにない冷酷な目を魔王に向けた。


そして突き刺した刀を、より深くズブリとその心臓へと押し込んだ。



「ぐあああぁぁぁぁっっ!!………、お、おのれ………」



ハルトの顔は、先ほどとは打って変わって残忍な表情を浮かべた。しかし次の瞬間、その体はぐたりと床にうつ伏せに倒れ込んだ。



ハルトの体から飛び出した黒光りする魔王の魂は、依り代を求めて彷徨い出す。その動きは速く、闇に溶け込んで見失いそうになる。


俺かアルクに乗り移るには、俺達を殺めなければならないはずだ。

もしくはそのまま無理矢理、憑依しようとするだろうか。



魔王の魂は俺達に向かって飛んで来る。

しかし俺が事前に展開していたバリアにより、その魂は弾き返される。



そして魔王の魂は、この部屋の中で唯一の、俺達以外の生き物へと向かった。

もちろんそれは、俺の母猫だ。



しかし母猫は、自らの体を魔王へ明け渡す意志はないようだ。

腐っても猫なのだ。猫にとって、主人はただの下僕だ。



業を煮やした魔王は、次の瞬間、無理矢理その魂を母猫の体にねじ込んだ。



ギャアァアァアアアアアア!!!



それは母猫と魔王の悲鳴だった。

どうやら生きている者の体をそのまま乗っ取ることは、魔王にとっても苦痛を伴うらしい。




その猫に近づいた俺は、悲鳴が止むのをじっと待った。

母猫の命が尽き、魔王の魂がその体に馴染み、くるりと振り返ったその瞬間………



パーーーーーーン!!!



俺は母猫の顔を思いっきり引っぱたき、アルクの足元まで吹っ飛ばした。

渾身の力を込めた猫パンチだ。



床に投げ出された母猫の体に、立ち上がる間も与えず、アルクが剣を突き立てる。

刀より刀身の太いその剣は、ほぼ猫の体を真っ二つに切り裂く。



一旦剣を抜き取り、間髪入れず、再度振り下ろす。



アルクはこれ以上ない冷酷な目でその猫を見下ろし、無慈悲にその体を八つ裂きにした。



苦痛に顔を歪め喘ぎながら、猫はなんとか前足をアルクの方に向けようとする。


アルクの元に戻った俺は魔法で石錐を作り出し、その四肢にズブリと突き立て串刺しにする。



床に磔にされた猫の体を、アルクは剣で突き刺し続ける。




やがてその体から、真っ黒な何か、煙と液体の間のようなものが放出される。

苦痛の叫び声とともにその煙は天井へと昇り、やがて消え失せた。




ついにその体ごと、魔王の魂は完全に破壊されたのだ。




アルクはガランと剣を床に落とす。


俺とアルクは同時に、傍で倒れているハルトの体へと駆け寄る。



アルクはそっと、うつ伏せになった体を抱え、仰向けにする。

そして床に座り込み、自分の膝の上にその上体をそっと下ろした。



「……………………………」



何も言葉が出てこなかった。

アルクは今度は泣き喚くことなく、静かにその目から涙を滴らせている。



ハルトが歩んだ人生は、あまりに過酷だった。

にも拘わらずハルトは自らその手を差し伸べ、俺達を救ってくれたのだ。




その時、俺はまたふと思い出す。あの時ハルトはこう言っていた。


「後でちゃんと僕に返してね。」



俺は床に落ちていた魔石を拾い上げる。

それは遺言を伝え終えた今も、まだ鈍く白い光を放っていた。



返すというのがどういうことかは分からなかった。

しかし俺はハルトの体を見て、刀が貫通したその胸に、三角形の先のほうから魔石をはめ込んだ。



鈍く発せられる白い光が、魔石の先端からハルトの体へと血液のように流れ込み出す。


やがてその光は全身をめぐり、ハルトの体を包み込む。




そしてハルトが、薄く目を開けた。


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