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勇者猫  作者: バゲット
39/98

39.元勇者はまた語る

白い光が俺達を包んだのは、ほんの一瞬だった。


しかしその一瞬で、俺達はハルトが遺した言葉を聞いたのだ。






俺達の目の前には、ハルトが立っていた。


周囲は白い光に包まれ、そこには俺とアルク、ハルトの三人しかいなかった。

ハルトはいつものように、にっこりと笑って話し出す。



「やあ。これを見ているということは、僕は死んだんだろうね。


……これは死を前にした人が、家族や友人に遺言を遺すための魔道具だよ。珍しい物だから、手に入れるのに少し苦労したけどね。」



「ハ、ハルトさん…………」


アルクは言葉に詰まりながら、声を絞り出す。


「ハルトさん………ご、ごめんなさい………僕のせいで…………」



しかしこれは単に、魔石に込められた遺言だ。会話をすることはできないらしい。


ハルトはアルクに応えなかったが、それでも状況を理解しているように、にっこり微笑んでいる。



「僕の死に責任を感じているなら、その必要はない。僕はどのみち、あと半年足らずの命だったんだ。」


「え…………」


アルクが驚いて目を見開く。


そしてハルトの記憶は、俺達に語り出した。





…………僕が死んだとしたら、魔王はおそらく、僕の体を利用しているだろう。


もしかしたら別の誰かの体に憑依しているかも知れないけど、同じことだ。魔王は残忍で非道だ。奴は必ず、勇者を最も苦しめる姿を依り代として選ぶ。


魂が復活すると魔王は依り代を探し求める。そして格好の人物を見つけると、その人物の体に入り込むんだ。

生きている人間には憑依できない。奴は勇者に近しい者を殺害し、新鮮な死体へと乗り移る。


だけどもちろん、都合よくそのような人物を手に入れられるとは限らない。

そのような場合は一旦配下の一人に憑依し、魔王城へと辿り着いた勇者と一緒にいる仲間を殺害するんだ。配下であれば、喜んで魔王にその体を差し出すだろうしね。



………僕の時は、仲間の一人が犠牲になった。


ハジメ・シロヤマとして魔王城にたどり着いた僕達パーティーは、君達と同じように、魔王のいる棟へと向かった。



配下の一人に憑依していた奴は、扉を開けたとたん、仲間の一人を殺害した。

素早く、一瞬の出来事だった。


体を乗っ取られた仲間と、僕達は戦わなければならなかった。



僕はもちろん躊躇った。ついさっきまで共に死地をくぐり抜けてきた仲間を、八つ裂きになんてできなかった。せめて死体は綺麗な状態で、連れて帰りたかった。



だけど僕のそんな躊躇いが、他の仲間の命をも犠牲にする事となった。



気づけば僕は最後の一人となり、魔王と対峙していた。

僕はこのまま死のうかと思った。無理矢理勇者に仕立て上げられた世界で、仲間を全て失い、生きている意味などないと思ったよ。



だけど僕は反射的に動いていた。そしてもはや躊躇せず、魔王を八つ裂きにしていた。

ほぼ自暴自棄だったよ。仲間の体を滅多斬りにして魔王の魂を破壊し、そのあと自分も死のうと思った。僕は自分の喉元に刃を突き立てた。


だけど僕は、ついに自害することができなかった。

僕は弱かったんだ。ただその場に泣き崩れることしかできなかった。




勝利を収めた勇者として町に戻った僕は、ある計画を立てていた。



簡単に言うと、僕は禁忌を犯した。



魔王の情報を得るため過去の文献や書籍を読み漁っていたころに、見つけていたんだ。

人の魂を保管し、輪廻の流れを操作し、記憶を持ったまま望む時代に生まれ変わることができる魔術を。


…最も、どんなに操作しても、人の魂は最短で四百年周期でしか輪廻転生できないらしい。

だから僕は、この時代を選んだんだ。



それは禁じられた魔法だ。

魂の領域には神しか手出しできないからね。


だけど僕は、勇者として体内に宿る膨大な魔力を濫用した。

勇者の力は、魔王を倒しても失われないからね。



そして人知れずその禁術を使い、今この世界にハルトとして生まれ変わったのさ。




だけど、本来は触れてはならない領域だ。

不自然に生まれ変わった魂は不完全だ。禁忌を犯した魂は、定められた期間しか生きられない。


だから僕はどのみち、21歳の誕生日を迎えた瞬間に、死ぬ運命だったんだ。



………ごめん、長話が過ぎたね。



とにかく君達には、躊躇わず僕を攻撃してほしい。

僕はむしろ、魔王が選ぶのが僕の体であればいいと願っていたんだ。



僕の体を滅多刺しにしてくれていい。そうしなければ、魔王の魂は破壊できない。

そしてそれは僕の本望でもある。過去に自分が仲間に与えた仕打ちを、自分に与えられるんだからね。



それでも君達は優しいから、躊躇うかも知れない。それなら、剣で心臓を一突きにしてくれ。

魔王は素早いけれど、奴が油断している間がチャンスだ。


心臓を貫けば、魔王の魂は依り代から引き剝がされる。



だけど気を付けて。魔王の魂は別の依り代を必要とするから、何等かの手段で君達のいずれかに乗り移ろうとするかも知れない。

最も、勇者の加護のあるしょこら君は大丈夫だろうけど。



厄介なのは、魔王の裸の魂をそのまま消滅させることができないことだ。

奴が誰かの体に入り込んでいる間に、その体ごと魂を叩くしかない。



………どうやって倒すかは、君達の選択に任せるよ。




ごめんね、もうこれ以上は時間がない。


………アルク君、しょこら君。君達と一緒にいられて楽しかったよ。ありがとう。


幸運を祈っている。」


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