39.元勇者はまた語る
白い光が俺達を包んだのは、ほんの一瞬だった。
しかしその一瞬で、俺達はハルトが遺した言葉を聞いたのだ。
俺達の目の前には、ハルトが立っていた。
周囲は白い光に包まれ、そこには俺とアルク、ハルトの三人しかいなかった。
ハルトはいつものように、にっこりと笑って話し出す。
「やあ。これを見ているということは、僕は死んだんだろうね。
……これは死を前にした人が、家族や友人に遺言を遺すための魔道具だよ。珍しい物だから、手に入れるのに少し苦労したけどね。」
「ハ、ハルトさん…………」
アルクは言葉に詰まりながら、声を絞り出す。
「ハルトさん………ご、ごめんなさい………僕のせいで…………」
しかしこれは単に、魔石に込められた遺言だ。会話をすることはできないらしい。
ハルトはアルクに応えなかったが、それでも状況を理解しているように、にっこり微笑んでいる。
「僕の死に責任を感じているなら、その必要はない。僕はどのみち、あと半年足らずの命だったんだ。」
「え…………」
アルクが驚いて目を見開く。
そしてハルトの記憶は、俺達に語り出した。
…………僕が死んだとしたら、魔王はおそらく、僕の体を利用しているだろう。
もしかしたら別の誰かの体に憑依しているかも知れないけど、同じことだ。魔王は残忍で非道だ。奴は必ず、勇者を最も苦しめる姿を依り代として選ぶ。
魂が復活すると魔王は依り代を探し求める。そして格好の人物を見つけると、その人物の体に入り込むんだ。
生きている人間には憑依できない。奴は勇者に近しい者を殺害し、新鮮な死体へと乗り移る。
だけどもちろん、都合よくそのような人物を手に入れられるとは限らない。
そのような場合は一旦配下の一人に憑依し、魔王城へと辿り着いた勇者と一緒にいる仲間を殺害するんだ。配下であれば、喜んで魔王にその体を差し出すだろうしね。
………僕の時は、仲間の一人が犠牲になった。
ハジメ・シロヤマとして魔王城にたどり着いた僕達パーティーは、君達と同じように、魔王のいる棟へと向かった。
配下の一人に憑依していた奴は、扉を開けたとたん、仲間の一人を殺害した。
素早く、一瞬の出来事だった。
体を乗っ取られた仲間と、僕達は戦わなければならなかった。
僕はもちろん躊躇った。ついさっきまで共に死地をくぐり抜けてきた仲間を、八つ裂きになんてできなかった。せめて死体は綺麗な状態で、連れて帰りたかった。
だけど僕のそんな躊躇いが、他の仲間の命をも犠牲にする事となった。
気づけば僕は最後の一人となり、魔王と対峙していた。
僕はこのまま死のうかと思った。無理矢理勇者に仕立て上げられた世界で、仲間を全て失い、生きている意味などないと思ったよ。
だけど僕は反射的に動いていた。そしてもはや躊躇せず、魔王を八つ裂きにしていた。
ほぼ自暴自棄だったよ。仲間の体を滅多斬りにして魔王の魂を破壊し、そのあと自分も死のうと思った。僕は自分の喉元に刃を突き立てた。
だけど僕は、ついに自害することができなかった。
僕は弱かったんだ。ただその場に泣き崩れることしかできなかった。
勝利を収めた勇者として町に戻った僕は、ある計画を立てていた。
簡単に言うと、僕は禁忌を犯した。
魔王の情報を得るため過去の文献や書籍を読み漁っていたころに、見つけていたんだ。
人の魂を保管し、輪廻の流れを操作し、記憶を持ったまま望む時代に生まれ変わることができる魔術を。
…最も、どんなに操作しても、人の魂は最短で四百年周期でしか輪廻転生できないらしい。
だから僕は、この時代を選んだんだ。
それは禁じられた魔法だ。
魂の領域には神しか手出しできないからね。
だけど僕は、勇者として体内に宿る膨大な魔力を濫用した。
勇者の力は、魔王を倒しても失われないからね。
そして人知れずその禁術を使い、今この世界にハルトとして生まれ変わったのさ。
だけど、本来は触れてはならない領域だ。
不自然に生まれ変わった魂は不完全だ。禁忌を犯した魂は、定められた期間しか生きられない。
だから僕はどのみち、21歳の誕生日を迎えた瞬間に、死ぬ運命だったんだ。
………ごめん、長話が過ぎたね。
とにかく君達には、躊躇わず僕を攻撃してほしい。
僕はむしろ、魔王が選ぶのが僕の体であればいいと願っていたんだ。
僕の体を滅多刺しにしてくれていい。そうしなければ、魔王の魂は破壊できない。
そしてそれは僕の本望でもある。過去に自分が仲間に与えた仕打ちを、自分に与えられるんだからね。
それでも君達は優しいから、躊躇うかも知れない。それなら、剣で心臓を一突きにしてくれ。
魔王は素早いけれど、奴が油断している間がチャンスだ。
心臓を貫けば、魔王の魂は依り代から引き剝がされる。
だけど気を付けて。魔王の魂は別の依り代を必要とするから、何等かの手段で君達のいずれかに乗り移ろうとするかも知れない。
最も、勇者の加護のあるしょこら君は大丈夫だろうけど。
厄介なのは、魔王の裸の魂をそのまま消滅させることができないことだ。
奴が誰かの体に入り込んでいる間に、その体ごと魂を叩くしかない。
………どうやって倒すかは、君達の選択に任せるよ。
ごめんね、もうこれ以上は時間がない。
………アルク君、しょこら君。君達と一緒にいられて楽しかったよ。ありがとう。
幸運を祈っている。」




