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勇者猫  作者: バゲット
35/98

35.犠牲

ハルト達護衛部隊の動きは、洗練されたものだった。



魔物の第二群を確認すると即座に陣形を組み、魔術部隊が群れに向かって攻撃を発射する。


上空からの攻撃も想定していたようで、地上班とは別の魔術部隊および飛道具を使える武術部隊が、空に向けての攻撃も開始した。


一連の動きは、全てハルトの指揮下で展開されている。



「さ、さすがだね、すごく良く訓練されてる……」


「関心している場合じゃないぞ。俺達も攻撃を続けるんだ。雑魚は他の奴らに任せて、上級魔物を叩くぞ。

……しかし、空中戦のほうがやばそうだな。」



隊員達の攻撃は、ほとんどワイバーンやドラゴンに効果を与えていないようだ。


「おい、お前は地上の魔物をやれ。俺は上空の奴らを相手する。……またワイバーンどもを地面に叩きつけるから、皆に注意するよう言ってくれ。」


「わ、わかった!し、しょこら、気を付けて……」



地上では他の冒険者達も攻防を続けている。

ベイン達パーティーはどうやら強くなったようで、ヒポグリフ相手に優勢を保っている。


その巨体の腹の下から剣を突き刺そうと駆け寄るベインに、横から巨大なオーガが近づいて拳を振り上げた。



「危ない!!」


アルクが叫び、オーガに向けて火炎魔法を発射する。

炎に包まれ咆哮を上げる巨体に向かって大きくジャンプし、その首を剣でぶった切った。


「助かったぜ、アルク!こいつは俺に任せろ!」


ベインも負けじと剣を構え、大きく地面を蹴ってヒポグリフの腹にズブリと刃を突き刺した。


「いつかお前と一緒に戦える日を夢見て、修行してきたんだぜ!」


ドシィィンと倒れるヒポグリフに背を向けながら、ベインが二カッと笑う。

アルクも少し口角を上げて微笑んだ。


スパイダーの眷族達は、体から放出した糸で魔物達の動きを一気に封じている。

キングスパイダーの糸はトロールなどの巨体も難なく絡め取った。



俺はハルトにも頭上を警戒するよう伝え、コクヨウに乗って飛び回るワイバーンとドラゴンに近づいた。

全く、どこからこんなうじゃうじゃ出てきやがったんだ。


ドラゴンよりもワイバーンの方が難敵だ。ドラゴンは地上から続く攻撃にダメージを受け始めているが、ワイバーンは弱点である背中が無事なのでビクともしない。



俺は手始めに、コクヨウが近づいた一体のワイバーンにピョーンと飛び乗った。

すかさず風圧魔法を背中に向け発射し、一瞬で地面に叩き落す。


落ちたワイバーンは、地上の部隊が背中に向け攻撃を開始する。


空中に残された俺は、迎えに来たコクヨウの背中に着地すると同時に、その反動でさらに高くジャンプした。そして次のワイバーンに降り立ち、そいつを地面に叩き落す。


同じことを何度も繰り返し、全てのワイバーンを叩きつけると、地上では歓声が上がっていた。


「ア、アルク様の従魔、強すぎだろ………」



俺はコクヨウに戻り、まだ空中に残っているドラゴン達に向けて火炎魔法を発射した。

地上からの攻撃で既に弱っていたドラゴン達は、すぐに力尽きてボトリ、ボトリと地面に落下していく。



「しょこら君、お疲れ様。さすがだね、さすが……」


ハルトは屈んで俺の耳に近づき、小声で囁く。


「さすが勇者だ。」


そう言ってニッコリと笑った。



相変わらず戦闘は続いていたが、戦況は俺達に優勢だった。数では圧倒的に負けるが、今のところ大きな被害なく魔物達を一掃できている。


「油断は禁物だよ、しょこら君。」


ハルトは俺の考えを見透かしたようにそう言った。



しかし数分後、残った魔物を討伐し続ける俺達は、ヒヤリとした不穏な空気を感じ取る。

何かすごく嫌なものが、近づいているという感覚があった。



森の方向を見ると、第三の魔物の群れと共に、その不穏な何かは近づいていた。

よく見ると群れの中に一つだけ、人影のようなものが見える。


「ちっ、はやり、魔王の配下とやらがまた出てきやがったか。」



魔物の一つに跨っているその人影は、これまでの配下達と同様、頭に角を生やしている。赤い短髪に茶色い肌、薄笑いを浮かべるその姿は、角がなければ人間と見分けがつかないほどだった。


こいつも例に漏れず全身真っ黒な衣装だ。ピッタリ体に張り付く戦闘用スーツのように見える。背中には、武器と思われる長い棒のようなものを背負っている。



そしてどうやら、そいつが引き連れてきた魔物達は、これまでの雑魚達とは様子が違うようだ。


同じ雑魚には変わりないが、どれも目が赤く光り、強烈な殺気を全身から放っている。しかし突進する訳ではなく、歩く速度でこちらに近づいている。



「あ、見ぃつけた。勇者ってのはどいつだ?黒いマントって聞いてたが、全員そうじゃん。


……あ、あれか、黒髪のあいつ。黒髪はあいつだけだもんな。」


男は楽しそうに二ヤッと笑った。いかにも戦闘好きという感じの野蛮な雰囲気だ。



「……しょこら君、気を付けて。分かってると思うけど、あいつは魔王の配下だよ。」


ハルトが角の男を凝視しながら呟いた。


「……まだこれまでの魔物を完全に討伐できていない。おそらく数体は取り逃がすだろうけど、大丈夫だ。第二防衛線にはスラシアの軍が控えている。彼らは優秀だ、きっと残らず食い止めてくれるさ。」



残った魔物や地面に落ちたワイバーンを攻撃していた者達も、異変に気付いたようだ。

皆武器を構え直し、向かってくる第三の群れを警戒した。



「はははは、注目してくれて嬉しいねえ!俺はルードルベア、長いんでルードって呼ばれてる。魔王様直属の配下だ。魔物達の支配と強化が得意でね、特に魔王様の復活が近い今となっては調子が良いのなんの!こいつらは皆、俺が操ってるのさ!」


殺気立った魔物達は牙をむき出して獰猛に唸り、今にも人を襲い出しそうだ。


「待て待てお前ら、俺が合図してからだぞ。まずはっと……おい、そこの勇者、俺と勝負しようぜ!」


ルードというその男は、アルクを指さして言った。



アルクの顔が緊張と恐怖で固まる。ここで一対一の勝負を挑まれるとは思わなかったのだ。

応じるべきかどうか迷っている、その時……


「ふざけるな!アルク、あんな奴のお遊びに付き合う必要はないぞ!」


ベインが叫ぶと、皆一斉にうおおおおおおと同調の雄叫びを上げた。



「ちっ、雑魚どもめ。まあいい、そんなに死にたきゃ、全員殺してやるよ。」


男が手の甲をこちらに向けた状態で、人差し指を上げた。

するとその場で停止していた魔物達が、一斉に皆に向かって突進を開始した。



俺は反撃に加わったが、すぐに状況が芳しくないことに気付く。



雑魚であるはずのゴブリン勢が拳を上げて殴りかかると、たった一撃で隊員達は数m吹っ飛ばされ気絶する。

レッドボア数体が突進すると、その勢いだけで数人が地面に投げ出され、もろに腹へ突撃された冒険者達は、血を吐いて倒れ込む。

トロールは手に持った棍棒を振り回し、次々と人々をなぎ倒して陣形を乱した。



次々と戦力が削がれていく中、アルクは必死に応戦していた。

左手で火炎魔法を発射し、直後に近づいてくる魔物を剣で仕留める。何とか持ちこたえてはいるが、数で圧倒的に押されいる。


俺も広範囲に火炎魔法を放出するが、これまでと違って一撃だけでは死なない。炎に包まれながらも突進してくる魔物達に、続けて光魔法・土魔法での攻撃を重ねる。


ハルト含む何名かの護衛隊もまだ戦っていた。遠隔攻撃を仕掛けて少しずつ魔物を叩いている。



そこかしこで戦闘が繰り広げられる中、ルードという男が乗っていた魔物から大きくジャンプし、アルクの傍にスタッと着地した。


「おい、お前の相手はこの俺だよ。」


男は興奮に目を光らせ、アルクに向かって囁いた。



次の瞬間、ルードが振り上げた拳がアルクの頭部を強打する。

突起型のナックルを取り付けたその拳の動きは、目にも止まらぬ速さだった。


不意の攻撃にアルクは数十mも吹っ飛び、地面に投げ出される。

ナックルが直撃した頭部からは血が流れ出た。


男はまるで瞬間移動したかのようにアルクの元へとジャンプし、倒れた体の上に仁王立ちした。


「あっれ、なんだ、弱っちいじゃん。つまんねえな、勇者ならもっと楽しめると思ったんだが……」



俺は急いでアルクの方へと駈け出すが、距離がありすぎる。

魔物達に邪魔されて、なかなか近づくことができない。


ルードが再度拳を振り上げ、今にもアルクにトドメの一撃を与えようとした。


しかし……


「うおっと!」


ルードはピョンと、アルクから飛びのいた。

アルクはすぐに目を覚まし、弱々しく上げた右手から、火炎魔法を発射したのだ。


「あっぶね、火傷したらどうすんだよ。はは、でも弱っちい攻撃だな。


…残念だぜ、お前との闘いは微塵も楽しくねぇ。俺ぁ強い奴との勝負は好きだが、雑魚は一瞬で始末する主義なんだ。」



男が背中の武器に手をやる。

引き抜いたそれは真っ黒な長い棒のようだが、先端が複雑な形をした槍のようになっている。


武器をブンブンと振り回し、男が得意げに言った。


「残念だけど、これで一撃を食らった者は皆即死だ。状態異常無効化も通用しねえ。先端に触れるだけで即死だ。じゃあな最弱勇者、あの世でせいぜい楽しめよ……」



男が槍をアルクに向かって降り下ろす。




ほんの数秒間が、不思議と長く感じられた。


走りながら俺は、アルクにバリアを付与する。


俺が遠くから付与したバリアは、しかし、その槍によって突き破られる。


バリアを破った槍はそのまま、まっすぐアルクの胸へと向かっていく。


今やほとんどの隊員達は倒れ、意識を失っている。


残った者達とスパイダー、コクヨウで何とか魔物の群れを抑え込んでいる。


今この瞬間、アルクの窮地を救える者はいない。


アルクはまた右手を上げようとするが、意識が混濁し、うまく動くことができない。


俺は今更気づく。忍者の姿になれば、もっと早くアルクの元へたどり着ける。


しかし気づいた時には、もう遅い。





槍は容赦なく降り下ろされ、体に深く突き刺さった。





しかし槍が突き刺したのは、アルクではなくハルトだった。


俺よりも早くアルクの元へたどり着いたハルトは、バリアが破られた直後に滑り込み、アルクの体の上に覆いかぶさった。



そしてその背中を、槍は貫いたのだった。

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