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勇者猫  作者: バゲット
25/98

25.六日目の遠足

三日目以降の訓練は、特に大きな問題なく進んだ。



初日よりもさらに強力な魔物をおびき寄せ、全員で連携して討伐することもあれば、例の湖での水中訓練も行われた。

ハルトの個人的スパルタ訓練があったおかげで、俺達は水中訓練も難なくこなすことができた。


俺達の出来を見て、ハルトは満足そうだった。


「さすがだね、アルク君、しょこら君。もう水魔に遭遇しても、君達だけで対処できそうだ。

あ、でも息を5分止めるだけじゃ足りないよ、それはあくまで最低ラインだから。最長20分間は止めるのが理想なんだ。また帰ったら訓練を……」


「あ、あのハルトさん、明日の訓練は何をするの!?」


不穏な提案を遮るように、アルクがハルトに問いかけた。


「明日?明日は六日目だよね。六日目と七日目は少人数のグループに分かれて森を進み、設定された目的地までの所要時間を競い合うんだ。もちろん魔物も出るし、険しい道のりになるから、これまでの訓練で習得した知識が生かせるかも試される。


七日目の昼までには全員が目的地に到着し、そこからはもう町に帰るだけだよ。


……ちなみに僕と君としょこら君は三人でチームを組む。実際に森の中で教えたいことがたくさんあるからね、これは兵の訓練というより、ほとんど僕からの個人訓練だよ」


ハルトはまたにっこりと、不敵な笑みを浮かべた。


「そ、そう、なんだ……」


どうあがいても、ハルトの個人訓練は避けられないらしい。

アルクは観念したように、弱々しく答えた。



翌日、全員が3~4人ずつのグループに分かれた。俺達のグループを含めると、全部で五つだ。


「目的地はここから東の方角に位置する、ロカド山岳の入り口だ。

全員明日正午までには到着すること。時間に遅れた者は、次回訓練で再挑戦してもらう。


これが最後の訓練だ、皆心してかかれ!」


「「「はい!!!」」」


中隊長が大声で怒鳴ると、兵士全員が同じく大声で叫び返した。



出発早々、三人(正しくは二人と一匹だ)で森の中を歩きながら、アルクは祈るようにぼそぼそ囁いた。


「ああ、どうかこのまま最後まで、何事も起こりませんように……」


「アルク君は、フラグを立てるのが上手いんだね」


ハルトがにっこり笑うと、アルクは慌てて否定するように手を振った。


「ちょっとハルトさん、やめてよ!!そんなこと言うとさ、実際なにか起きちゃうかも……。」


「あはは、ごめんごめん!またついからかいたくなっちゃって…」


「もう……」

アルクはへなへなと答えたが、何か思い当たったようにハルトに向き直った。



「そういえば、ハルトさんは、四百年前に日本から転生したんだよね?」


「厳密に言うと、僕の前世である勇者ハジメ・シロヤマが、だけどね」


「あ、そう、そうだね。でも、ハルトさんが僕より四百年も前に生きていた人だとは、とても思えないんだけど……フラグ、なんて言葉も、使われていなかったはずだし……」


「ああ、そうだね。僕は前世の時、興味本位で女神に尋ねたんだけど、僕らのいた世界とこの世界では、時の流れが全然違うらしい。だから僕とアルク君は、おそらく日本の同じ時代に生きていたはずだよ。」


アルクは不思議そうに、考え込んだ。


「…そうだったんだ。……僕、日本にいた頃に、ハルトさんに出会えていたら良かったのにな……」


「おや、そんなに僕のこと好きになってくれたのかい?光栄だなあ!」

ハルトは微笑んで、くしゃっとアルクの頭を撫でた。


「もう、からかわないでよ…」

アルクはそう言いながらも、まんざらでもない様子だ。


やれやれ、やっとこいつにも、まともに心を開けられる人間ができたのだ。




俺達はしばらく森を歩き続けた。

魔物が出てくると、俺とアルクで討伐した。戦いにおいては、ハルトはただ傍で見ているだけだった。


途中、巨大な虫の魔物、レックスフライが現れた時は、虫嫌いのアルクは大変だった。


「うわあああああ、嫌だ!僕、虫大嫌いなんだよお!!!その羽音を聞くだけで寒気が………うわああああ、こっち来るなあああああああ!!」



ハルトはそんなアルクの姿を見て、腹を抱えて笑っていた、


すると油断したせいで、レックスフライがブウウウンと羽音を立ててハルトへと突進し、激突されたハルトは気を失った。またもやちーん……という音が聞こえてきた。


「ちっ、あいつ、本当に簡単に気絶しやがるな!」


しかし、気絶することに慣れているのか、ハルトはすぐに目を覚ました。


「あはは、ごめんごめん。僕はもっと離れたところから見てるよ……」



結局その巨大虫は、パニックになったアルクの火炎魔法により一瞬で焼き払われた。



それからも俺達は、森の道なき道を進み続ける。



途中、木の枝や植物のツル、生い茂る草でうまく進めない場所があった。

ハルトは俺達に、植物系魔物の罠を回避しながら、効率よく道を切り開く方法を教えた。


「火炎魔法で焼き払いたいと思うかも知れないけど、それはだめだよ。全員がそんなことしたら森は一瞬でなくなってしまうし、魔物たちを不必要に刺激することになる。なるべく必要な個所だけを切り落としながら進むんだ。


あ、アルク君、そこの罠に気を付けて!」


「え……」


アルクが足元を見ると、既に長い植物のツルが足に巻き付いていた。


「うわっ!こ、これまたテンタクルス……?」


「いや違う。ツルがずっと細いし、でもたくさん棘がついてるでしょ。そいつは低級魔物マンイーターで、テンタクルスのように攻撃的じゃないけど、その棘で獲物を刺して毒を送り込むんだ。ちなみに前にも言ったけど、この地域ものは南部の奴らより毒の効果は強い。


小型の魔物なんかはすぐに麻痺するから、そうなると今度は棘から養分を吸い取られる。」


「あ、あのハルトさん、その毒が効いて来たみたいなんだけど……」



アルクが寒気にブルブル震え出しても、ハルトは落ち着き払っていた。


「致命的じゃないから大丈夫だよ。そういえばこのタイプの毒は地中に住むアースワームの体液で中和できるから、もし回復魔法や回復薬が使えない状況でも焦らずに、そいつらを探し出すといい。ここら一体なら地面をほじくり返せばすぐ見つかるし、人間なら毒で体が完全麻痺するのに30分はかかるから、そこまで焦る必要も……」


「あ、あのハルトさん、早く回復薬を……」


「ああそうだね、つい……。いや、ここは実際にアースワームを使うべきかな。いや、一度完全に体が麻痺した状態ってのも経験しておくべきかな……そうすると毒への耐性がついて、次からは麻痺までの時間が……」


「は、ハルトさん………あの……」


「あはは、ごめん、あまり時間を無駄にはできないね」


結局ハルトがアルクに回復薬を手渡した。

全く呑気なやつらだ。ハルトの鬼畜さには変わりないが、雰囲気的には訓練というより遠足のようだった。




その夜、俺達はテントを張り野営をした。


アルクはいつか惑わずの森でしていたように、俺を抱きかかえながら焚き火の前に座っていた。


「ついに訓練も明日で終わりだね。ねえしょこら、これが終わったら、またギルドの依頼を受ける?僕たち今まで、こんなに長く一つの町に留まったことなかったよね。


……僕たち、まだここにいても良いかな……?」


アルクは不安げにそう言った。


エド町の居心地の良さと、ハルトとの別れの寂しさから、おそらくアルクはできる限りエド町に滞在したいのだろう。



「そうだね、まだここにいて良いんじゃないかな。」


代わりに応えたのはハルトだった。

右手に湯気の立つカップを二つと、左手に器を持ち、アルクの斜め前に腰掛けた。カップの一つをアルクに手渡し、湯気の立っていない器を俺の前に置いた。



「僕が前に言っていた魔物の侵攻だけど、おそらくまだしばらくは起こらない。


…僕の感覚だけどね、魔物たちは確かに不穏な動きをしているけど、侵攻が起きる直前はもっと何というか、常に物々しい雰囲気がここら一体を覆っていた。


この地域に出る魔物は他の地域の奴らより強いし、種類も多い。君達がさらにレベルアップするにはここが最適だ。


もちろん君達が、もっと大陸西側の町を見たいとか、別の場所で困っている人達を助けたいなら、今から行ってもいいと思うよ。まだ時間は少しある。」


「今からわざわざそんなことするか。侵攻が起きる直前まで俺はここにいるぞ。」


俺はフンと鼻を鳴らして言った。


それを聞いたアルクは、パッと顔を明るくした。


「う、うん、そうだね……!」



しばらく俺達は、パチパチと燃える焚火の音に耳を傾けていた。



「ねえハルトさん、ハルトさんが前世で見た魔王は、どんな姿だったの……?」


アルクから質問され、ハルトは困ったように言った。


「すまないが僕には、その質問にうまく答えることができない。どう表現すれば良いか分からないんだ。

……強いて表現するならおそらく、君達を恐怖と絶望のどん底に突き落とす姿、かな……」


アルクはごくりと唾を飲み込んだ。



「ちゃんと答えられなくてすまない。その代わり、そうだな……前に君達は、僕の前世での名前がどうして、ハジメ・シロヤマなのかと聞いたよね。


今なら時間もたっぷりあるし、それについて話すことにしよう……」



そうしてハルトは、勇者ハジメ・シロヤマについて語りだした。


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