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勇者猫  作者: バゲット
19/98

19.謎の男との出会い

グレンデルは黒い炎に包まれながら、闇雲に腕を振り回し続けている。



こいつは湖に住む魔物だ。水中に逃げられると、アルクの救出がより難しくなる。

アルクの息が続くのは長くて3分といったところか…。


俺はとにかく一撃でこいつを始末して、アルクの救出に向かおうと考えた。


ギルドの情報によると、こいつの弱点は光魔法だ。

俺は巨大なライトアローを作り出し、グレンデルに向けて発射した。


攻撃は体中に直撃した。しかし、グレンデルは悲鳴を上げたが倒れず、まだ立っている。

グレンデルの体に纏わりついていたコクヨウの炎が、魔法の威力を軽減してしまったのだろうか。


攻撃されたことで興奮し、さらに激しく腕を振り回し始めた。



くそ、コクヨウのブレスは思ったより厄介だな。

猫パンチして炎に触れたら、また俺の魔力が奪われてしまう。


水魔法で鎮火させてから攻撃するしかないか……。



するとその時、木陰から急に声が響いた。


「僕がこいつの相手をするから、君は早く水中に!」



声のほうを見ると、そこにいたのは見知らぬ若い男だった。

背がスラリと高く色白で、歳は20歳ぐらいだろうか。髪は明るい茶色で、後ろで少し伸びた髪をひとつにまとめている。


そして冒険者なのだろうか、手に剣を握りしめていた。しかし冒険者にしては、服装は全くの普段着のようで、マントすら羽織っていない。



誰だよお前、と聞きたかったが、俺は考える前に水中に飛び込んだ。



アルクが水中に引きずり込まれてから、既に2分以上経過している。

最悪、もう食われてしまってるかもしれない。


俺は体にバリアを纏わせていたが、水中は苦手だ。そもそも泳げない。

風魔法を後方へ発射して進もうとするも、思うようにいかない。



くそ!この手だけは使いたくなかったが、今は迷っている場合じゃない。

俺は再度、猫耳忍者へと変身するしかなかった。


正直、この方法に頼るすぎるのは危険だ。

変身できる時間はあと1時間50分程度だし、今後も水中戦に巻き込まれる可能性を考えると、猫の姿のままで戦える対策を練るべきだ。



しかし今は一刻を争う。


人間の姿に変身した俺は、急いで水底に向かって泳ぎだした。

忍びのスキルのおかげで、泳ぎもかなりの高速になった。

(女神のことを思い出すと癪だが。)



するとすぐに、セイレーンの住処と思われる、大きな岩場が見が見えてきた。

まるで水底から生えた小さな岩山のようで、数体のセイレーンが岩の中腹や上部に腰掛けている。


岩山の周囲には、濃い緑をした長い水底植物がはびこっている。


そしてその植物に足を縛られたアルクが、水の動きでユラユラと揺れていた。

完全に気絶しているようだ。


水中は薄暗く、セイレーン達はまだ俺に気付いていない。

俺はこっそりアルクのほうへ近づき、アルクにもバリアを施した。

そして光魔法をカッターのように発動し、足を縛っている植物を切り裂いた。水中では火魔法よりも、光魔法が有効なのだ。



するとその時植物の陰に、何かが落ちているのが見えた。

よく見るとそれは、冒険者の物と思われる剣、防具、杖などだった。


セイレーン達はどうやら、先行した冒険者達を食ってしまったらしい。

今は満腹だったので、アルクはすぐに食われなかったということか。



「ギイイイェェェェェェ!!」


その時、俺の姿に気付いたセイレーン達が、怒りの叫び声を上げた。

地上で聞いた歌声からは想像もできないほど、醜い金切り声だった。


「ギイイイェェェェェェ!!………ェ………??」


しかし、セイレーン達は動きを止めた。泳ごうとしても全く前に進まないのだ。

そして、自らの下半身を見て驚愕した。


奴らの上半身(人間)と下半身(魚)は、真っ二つに切り裂かれていた。



俺はアルクを助けたあと、セイレーン達に向かって光魔法を発射したのだ。

狙い通り、光のカッターはセイレーンを真っ二つにしていた。


混乱してギャアギャアと喚いていたセイレーン達だったが、やがて泡を吹いてパタリと絶命した。



悪いが、お前たちに時間をかけている場合じゃないんだ。

俺はフンと鼻を鳴らした。(バリアの中には空気があるのだ)



俺はアルクの体を引っ張り、地上に向けて高速で泳ぎだした。急浮上は本来危険だが、バリアが減圧症を防いでくれる。



水上に上がると、俺は急いでアルクを湖畔に横たえた。

まだ生きているが、息をしていない。



グオオオオォォ!!

その時、グレンデルの雄叫びが耳に入った。


俺は周囲を見回した。例の男はどうしたかと思うと……なんとこいつも地面で伸びている。



僕に任せて!と言った割には、やけに簡単にやられたようだな。

いや、僕に任せてとは言ってなかったか。


グレンデルは雄叫びを上げながら、倒れた男に拳を振り下ろそうとしている。



俺は、グレンデルがもう黒い炎を纏っていないことを確認した。

そして思い切りジャンプし、グレンデルの顔面に協力な猫パンチ(人間の手だが)を食らわせた。


「グオオオオオオオ!!!」


グレンデルは痛みに絶叫した。

俺は続けて容赦なく、顔面にパンチとキックを繰り返した。


…魔法攻撃よりも、何となく物理攻撃のほうが性に合っているのだ。


繰り返し攻撃を受けたグレンデルは、ズシィィンと重い音を響かせながら、地面に倒れこんだ。



グレンデルを片付けると、俺は猫の姿に戻り、アルクのほうに駆け寄った。

まだ息をしていなようだ。


するとその時、目を覚ましたと思われる例の男が、俺の傍に駆け寄ってきた。


「大丈夫かい!?良かった、生きてるみたいだ!

でも息をしていないようだね、急いで人工呼吸を……って、ええ!?」


俺はアルクのみぞおちに、ドカッと強めのパンチをお見舞いした。


「ゲホォッ………!!」

アルクは水を大量に吐き出した。

しばらく咳き込んでいたが、やがてうっすらと目を開けた。



「き、君、容赦ないね……。でもとにかく、目が覚めて良かった!」

俺の所業に軽く引いていた男は、安心したように顔をほころばせた。



男にアルクを抱えてもらい、俺達は木陰に腰を下ろした。


「し、しょこら………。ごめん僕、また捕まっちゃって……」

アルクは荒い呼吸をしながら、俺に向かって呟いた。


「気にするな。今回はお前の弱点を見落としていた俺の責任だ。」

俺はフンと鼻を鳴らした。



俺達のやり取りを、例の男は不思議そうに眺めていた。

「君たちは、猫語で会話してるのかい……?」


そうだった。猫語であることをすっかり忘れてしまっていた。


俺とこの男は、従魔契約もテイムもしていないので会話できない。

俺は男をジロリと見て、お前は誰だと目で問いかけた。



「ごめん、自己紹介が遅れたね。僕はハルト、エド町の護衛部隊で兵士をしている。よろしくね。」

ハルトは俺とアルクを交互に見た。


町の兵士がなぜ、こんな夜に一人で湖の周りをうろついていたんだ?

俺は男をじっと見つめ続けた。


「…ごめん、それだけだと説明になってないよね。

実は数日前、この湖を訪れた冒険者達が行方不明だと聞いて、ずっと気になっていたんだ。

そしたらこの町に勇者が来ていて、グレンデル討伐に向かうと聞いたものだから…」


ハルトはアルクのほうを、じっと見た。


「僕はどうしても、勇者と話がしたかったんだ。

それに昔から、困っている人を放っておけない性格でね。何か手伝えないかと思って、ここまで来たんだ。

…でもさすがに、急に君たちに声をかけて、一緒にドラゴンに乗せてくれとは言えなくて。

だから僕は先に一人で、この現場まで歩いてきたんだ。」



たった一人で、大した装備もなく、魔物だらけの道を歩いて来たというのか?

俺は怪訝な目を男に向けた。


「…使い捨てだけど、魔物除けの護符があったからね。それに、森の生態を熟知していたら、魔物を回避しながら森を抜けることはできるんだよ。」



やっと息が落ち着いて来たアルクが、その時声を発した。


「どうして……僕と話したかったん、ですか?」

初対面の人間だというのに、意外にもアルクは、そこまで緊張していないようだ。


ハルトはアルクをじっと見つめて、しばし黙っていた。



「……信じてくれるかは分からない。だけど、僕には前世の記憶があるんだ。

四百年前に勇者としてこの世界を救った、勇者ハジメ・シロヤマとしての記憶がね。」



しばらく誰も、言葉を発さなかった。



こいつが嘘をついている可能性はあるだろうか?

実は変装した魔王の配下で、アルクに取り入ろうとしているとか?


しかしそれなら、俺達に協力する必要はなかったはずだ。



「……アルク君、君は、日本の出身かな?」


ハルトはアルクに向かって訪ねた。

アルクは驚いたように、目を見開いた。その国の名を知っているのはアルクと、アルクから話を聞いたことのある俺だけだった。


「…やっぱり。何となくそんな気がしたんだ。君を町で見かけた時、すごく嬉しそうだったから。

僕も日本出身だ。そして四百年前、この世界に転生して、女神から勇者の称号を与えられた。」



どうやら、ハルトは本当に、四百年前の勇者の生まれ変わりのようだった。

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