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勇者猫  作者: バゲット
18/98

18.湖の魔物

翌日俺達は、エドの町の冒険者ギルドに立ち寄った。



十分休息を取った俺達は、また依頼を引き受けることにしたのだ。



ギルドの受付には、白髪の女性が座っていた。

「あら、いらっしゃいませ。…あら、黒猫を連れているということは……、あなたはアルク様ですか?」


アルクの名声は、この町にも届いているらしかった。


しかし女性は、俺のほうにはチラリと不安な一瞥を与えただけだった。

アルクが黒猫を連れていることで、黒猫全体に対する負のイメージも払拭されるかと思ったが、思ったより人々が抱く迷信は深いらしい。



その女性はアルクに向かって、この町について教えてくれた。



四百年前、つまりアルクの二つ前の勇者は、苦戦の末に魔王を討伐した。

魔王領に近づくにつれて町が少なくなることで、勇者自身がとても苦労したという。

その経験から、後世の勇者たちが英気を養えるよう、この地に憩いの場を作ろうと考えたのだ。


そして自らが領主となり、その領地は勇者の名からシロヤマ領と呼ばれた。勇者は最も大きな町をエド町と名付けた。

モントールやスラシアの例に倣うと、町の名もシロヤマとなるはずだが、勇者はエド町と名付けることにこだわった。

勇者の功績を称えるため、その後領主が交代してもこの地はシロヤマ領と呼ばれている。



そしてもう一つ、勇者がこの地を選んだ理由があった。


ここは、魔王領から最も近い領地なので、魔王が復活すると一番に侵攻を受ける。

そのため勇者は自らが指揮を執ることで町の兵力を強化し、戦闘技術を後世に伝えようとした。いずれ魔王が復活した暁には、この町が最初の防衛線となることを願ったのだという。



ギルドを出て歩きながら、アルクはしばし無言だった。


「……なんだかすごいね、シロヤマさんって勇者は……。自分が魔王を討伐してからも、未来のことを考えて、後世の人達まで守ろうとしたんだ。


……僕なんて、魔王さえ倒せば、もう家に帰るだけだと思ってた。ちょっと自分が恥ずかしくなったよ……」


口を開いたアルクは、自らの不甲斐なさに落ち込んでいるようだ。


「言っとくが俺はすぐ引退するぞ。魔王討伐後も世界のために働くなんてごめんだ。」


「ええっ?いや、まあもちろんそれでいいんだけどさ………

あはは、何だかちょっと気が楽になったよ!ありがとうしょこら……」


俺はフンと鼻を鳴らした。



俺達は依頼を受け始めてすぐに、大陸北部の魔物の質はこれまでと違うことに気が付いた。


例えば同じゴブリンでも、北部に生息する個体のほうがより獰猛で素早く、攻撃力も高い。

これまでほぼ一撃で倒していたジャイアントオークやフェンリルさえ、数回の攻撃でやっと倒れる程だった。


その上、上級魔物の出没率とそのレベルも、中部以南の地域とは比べ物にならないようだ。

つい最近も、複数の冒険者パーティーが数日かけて、町周辺に現れた巨大なグリフォンを討伐したらしい。



魔物を討伐し続ける俺達に、その依頼が来たのは5日後のことだった。


先日のグリフォンの件で、有力な冒険者の多くはまだ回復していない。

今回の依頼は他に引き受けられそうな者がおらず、ギルドからアルクへと指名があったのだ。



エド町の中心部には、川が流れている。

その川は西の森にある湖が源となり、西から東へ江戸町を通り、海へと流れている。


今回の依頼は、夜になるとその湖周辺を徘徊するという、グレンデルの討伐だった。

水底に住む巨人のことだ。

ここ最近急に活発になり、森で人を襲っているらしい。そして今回も、数日前に討伐に向かった冒険者達が戻ってきていない。


魔王復活が近づくにつれ、魔物が活発になるのはお決まりだ。



やれやれ……俺は温泉と同じで、湖も得意ではない。嫌な予感しかしなかった。


アルクももちろん、気後れしているようだ。

「夜にならないと、出てこないんだって……。

もし、こいつに湖に引きずり込まれたりしたら……。しょ、しょこら~~~~~……」


「泣き言を言っても仕方ない。とにかくできるだけ準備して行くぞ。」



至急の依頼だったため、俺達は翌日の夜には現地へ向かうこととなった。



当日の夜、俺達はコクヨウの背中に乗っていた。

森を歩いて抜けるよりも、直接湖へ向かった方が、体力を消耗しないで済む。


アルクはずっと震えていた。


「しょしょしょこら……なんか夜ってだけでちょっと怖くない?

ねえ、一撃で倒せるかな……。コクヨウの時と違って、グレンデルは本当に肉食らしいよ……。」



アルクの泣き言を無視して、俺は思い出したように言った。


「そうだ、これ新しく作らせたから、使えよ。」

俺は新しいキングスパイダーのマントを、アイテムボックスから取り出した。


以前のものは、ノルテーラの部下達の執拗な拷問により切り裂かれ、性能が落ちていたからだ。


「え、ありがとう!でもどうやってキングスパイダーに…?」

「あいつも俺がテイムしておいたからな。念話で頼んで作らせて、ムックに取りに行かせた。やはりそこらのマントより性能がいいからな。」

「ち、ちゃっかりスパイダーもテイムしてたんだね……」


アルクは嬉しそうに、新しいマントを羽織った。



そうこうしているうちに、湖周辺へとたどり着いた。

俺達はしばらく上空をぐるぐると旋回し、異常がないことを確かめてから、湖のほとりへ降り立った。


ムックは今朝マントのお使いから戻ってきたので、今回は事前に偵察に出せなかったのだ。

現地の事前情報がない俺達は、より注意して辺りを見回した。



「今回はワシも、ここらを周回していよう。」

コクヨウがグルグルと言った。相変わらずジジイのような話し方だ。


「ありがとう、コクヨウ!みんな一緒だと心強いよ……」


「静かにしろ。グレンデルは暗闇に溶け込めると聞いただろ、警戒していないとやられるぞ。」

俺はアルクに警告した。


俺に魔物探知系のスキルでもあれば良かったのだが、残念ながらへっぽこ女神からはそのようなスキルは得ていない。

くそ、あいつを思い出すとまた腹が立ってきた。



しばらく周囲の様子を伺うが、湖周辺は全く静かで、水がサラサラと流れる音しか聞こえない。

1時間ほど待ってみても、何も起こらなかった。また、先行したという冒険者達も見当たらない。


「ねえ、僕もう、帰りたくなってきた……」


ずっと緊張状態を強いられていたアルクは、ついに弱音を吐きだした。



しかしその時、俺の耳に奇妙な音が響いてきた。

グレンデルのような怪物が発する唸り声でもなければ、巨体が地面を歩き回る音でもない。


音は明らかに湖の方向から聞こえてきた。

次の瞬間、俺はハッと思い当たる。それはセイレーンの歌声だった。


しかしセイレーンは海に生息するはずで、湖にいるはずはない。

俺も実際の歌声を聞いたことがないので、本当にセイレーンか判断しかねた。


とにかく確かめるしかない。

俺は湖の方向へ走り出そうとしたが、俺の遥か前方を、既にアルクが疾走しているのが見えた。


「おい、待て!」


俺は呼びかけたが、アルクは一心不乱に湖へと向かっている。



しまった。あいつらは歌声で人を惑わせて水中に誘い込むのだ。


俺はアルクと従魔契約を交わした際に、スキル表示を確認したことを思い出していた。


俺が持つスキルのうち、基本的な武術や魔術スキルはアルクに共有されていた。しかし特殊スキルは共有されていない。

つまりアルクには、状態異常無効化スキルがないのだ。



まったく、人の振り見て我が振り直せとはこのことだ。

ノルテーラが強さのあまり、攻撃されることに慣れていないことを鼻で笑っていたが、俺だってどこか慢心があったに違いない。


アルクの明白な弱点を、見落としていたとは。


毒ならば回復魔法や回復薬である程度治せるが、精神支配や催眠系には効かない。そもそも防ぐことが一番なのだ。



俺が全速力で追いかけるも、間に合わなかった。

アルクはそのままドボンと、湖へ飛び込んでしまった。


湖の中から複数の白い手が伸びてきて、アルクを水底へ引きずり込む。

間違いなくセイレーン達だ。上半身は人間のメス、下半身は魚だ。

奴らは人を水中に引きずり込み、その肉を食らう。


くそ、あいつらを討伐したら、俺がその下半身を食いちぎってやる。



とにかく体の周囲にバリアを展開し、水中に飛び込むしかない。

俺が走りながら、バリアを展開させようとしたその時…



闇に溶け込んだグレンデルの手が、急に俺のほうに伸びてきた。

完全に湖のほうに気を取られていた俺は、グレンデルの巨大な手によってむんずと体をつかまれた。



まったく、今出てくるなんて、本当に空気の読めない奴だ!


大きさは約10m、コクヨウと同じぐらいだろうか。体中を苔のような緑の鱗に覆われている。

グルグルと醜い唸り声を上げながら、その巨大な手が俺の体をギリギリと締め付けてきた。



その時コクヨウが、グレンデルの頭にバサバサと襲い掛かった。


「ぐおおおおぉぉぉぉ!!」


コクヨウを振り払おうとしたので、グレンデルが俺を握る手が緩む。

俺がすかさず手から抜け出したと同時に、コクヨウがブレスを発射した。


「おい、コクヨウ、気をつけろ!俺に当たったらどうするんだ!」


「ああ、悪い悪い、お前さんなら避けられると思って……」

コクヨウは呑気に謝罪しながら、俺の横に着地した。


「ぐおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


黒い炎に包まれたグレンデルは、悲鳴を上げて苦しんでいる。

しかし炎に耐性があるようで、これだけでは死ななそうだ。


「コクヨウ、お前、水中に潜れるか?」

「残念ながら無理じゃの…」

「じゃあ俺が水中に向かうから、お前はその間グレンデルの相手を…」


その時、グレンデルが闇雲に振り回した拳が、コクヨウの頭部を直撃した。

背丈がほぼ同じなせいで、まさにクリティカルヒットしてしまい、コクヨウは気絶して地面に伸びた。



全く。嫌な予感はしていたが、まだ水中戦でもないのに、ここまで不運が重なるとは。


とにかく俺はこいつを始末し、アルクが溺死するかセイレーンに食われるかする前に、水中から連れ戻さなければならない。


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