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勇者猫  作者: バゲット
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16.模擬戦

俺とアルクは、数日後にはスラシアを出発することにした。



出発までの間、アルクはリハビリがてら町周辺の魔物を討伐したり、数件の依頼をこなしたりした。

ノルテーラの件以来、アルクは人型の魔物と対峙することについて考えていた。


「あの二人の手下、角が生えている以外は、人間と同じだった。僕は今まで動物型の魔物としか戦ったことがないから、人型との闘いにも備えておかないと…」



どうやらアルクは事件以降、また強くなる意思を強めたようだ。


「パーティー仲間を作ることは、たぶんできなさそうだから。僕はもっと訓練して、しょこらと二人で魔王を倒せるぐらい強くなるんだ。あ、もちろん、コクヨウも一緒に…。」



人型魔物との闘いに備え、俺達はアルク用に新しい刀を購入した。

アルク曰く、これまで使用していた件は前世で言うところの「西洋剣」、今回購入したものは「日本刀」に近いらしい。


「西洋剣は重くて、固い魔物の鱗や鎧を砕くにはもってこいだけど…。もう少し切れ味の良い刀があると、人型とは戦いやすいと思って…」


戦いを徹底的に避けようとしていたあの小心者からは、見違えるほど成長したようだ。



ところで今回、俺はノルテーラを倒したことでまたレベルが上がり、一つ使用できるスキルが増えた。俺の従魔であるアルクや、テイムしたコクヨウ、ムックとの念話だ。


あのケチな女神め、魔王の手下を倒したっていうのに、追加されたスキルが念話とは。



まあしかし、便利なことには違いなかった。

物理的に距離が離れていても、意思疎通ができるからだ。



アルクの成長に感心していた俺だったが、魔物討伐に向かった際に、俺は今でも小心者であるその心中を目の当たりにする事となる。



その日現れたのはオーガ、もう何度も討伐した相手だった。

念話を繋げたまま戦っていたアルクの心の声は、うるさいほど俺の頭に響いた。


『ひえええぇぇぇぇ!こ、怖い、怖いよ!こ、殺される!

しょこら助けて、しょこら…いや駄目だ、僕がちゃんと殺さないと!!うおおおおお!!』


表面上、アルクはいとも簡単に、オーガの首を一撃で切り落とした。


「おいお前…。もう十分強くなったのに、まだそんなに怖がっていたのか…?」

俺は茫然としてそう言った。


「え、あれ、念話繋がってた!?あれ、僕の声全部聞こえちゃってた!?

うう…し、しょうがないじゃないか、だって僕は本当は、戦いは苦手で…。」



やれやれ。しかしあれだけ恐れていながら、そのような素振りは見せないのだから、まあ大したものだ。



そんなある日、アルクの元にギルドから新たな依頼が届いた。


偽領主の件以降、スラシアの町は戦力強化を図る事となり、スラシアを拠点としている冒険者達の訓練にアルクも参加してほしいというものだった。



依頼の話を聞いた当初、アルクは躊躇した。

『む、無理だよ僕には、そんなたくさんの人たちとの訓練なんて………。緊張しちゃうよ、ど、どうしようしょこら……』


「おい、心の声がまた漏れてるぞ。それは独り言なのか、俺に向かって聞いているのか?」

「え、また念話繋げたままだった!?もう、いつも切るのを忘れちゃうんだ……。ご、ごめん、僕いつも心の中でも、しょこらに助けを求めるのがクセで……。」

「それはそうと、依頼受けてみろよ。人型との対戦の訓練にもなるだろ。」

「うう…やっぱり、そうだよね…。……分かった、受けてみる……」



その翌日、俺達はギルドが所有する訓練所へと向かった。




訓練所は小さな闘技場のようで、周囲を壁に囲まれていた。剣術の訓練に使用するダミー人形や、魔術の練習に使う的などが並んでいる。

今回の訓練は模擬戦なので、それらの備品は隅に追いやられていた。


訓練に参加する冒険者は12名。全員、アルクとの模擬戦を希望していた。

そして訓練には参加しないものの、単に見物に来た冒険者や兵士、住人達が、壁に沿って大勢並んでいる。


アルクはこれまでにない観客数に圧倒され、例のごとくガチガチに緊張していた。

顔は硬直して、いつもの無表情だ。


『しょこら…僕もう駄目かもしれない……』


人前では猫語で話せないので、アルクは念話で俺に話しかけた。


『まあ落ち着け。いつも通り戦えば大丈夫だ。』



アルクは結局、12名の冒険者全員と、模擬戦で戦う事となった。



冒頭いきなり名乗り出たのは、町の冒険者で最も剣術に優れた者だった。

アルクの倍ほどの体躯もある屈強な男は全身鎧を纏い、2m近くもあると思われる剣を手にしていた。


『し、しょこらしょこらしょこらしょこら……………』


見た目無表情のアルクは、心の中でガタガタ震えていた。


模擬戦では相手を殺すような攻撃はもちろんしない。しかし回復担当の魔術師が待機しているので、相手を負傷させることは許されている。


「それでは用意……始め!」


仕切り役の男が、右手を上げて号令した。



号令を聞くや否や、屈強な剣士は俊足でアルクに向かってきた。大きな体からは想像もつかない速さだった。

男は両手で剣を真上に構え、アルクの頭に一撃を与えようとした。


『あああダメダメダメダメ!!怖い!!!』

アルクの心の叫びが悲痛だ。というかこいつ、念話をいい加減切れよ。


しかしアルクは自らの剣で、その攻撃を受け止めていた。

『…あれ、意外と遅い……スピードについていける……。よ、よよよかった……』


心の中で弱々しくそう呟いたアルクが、緊張のあまり無表情で発した言葉は一言だけだった。

「…遅い。」


アルクは力を込めて剣で男を弾き飛ばし、よろめいた隙にすかさず切り込んだ。


「そこまで!!」


仕切り役の男が即座に止めた。アルクが突き出した剣は男の鎧の喉元を、今にも貫通しようとしていた。


屈強な男は、へなへなと地面に崩れ落ちた。同時に、持っていた剣が、ガキィンと音を立てて地面に落ちた。


観衆からは、わあっと歓声が上がった。

「すごい!さすが勇者様だ!!」

「当たり前だろ、魔族の偽領主を一人で倒したんだぞ!」

「なんてクールなの……!」



次に挑んできたのは、領内一番の魔術の使い手だった。

中年の男で、地面に届くほどのマントを纏い、手には赤い魔石の付いた長いステッキが握られている。

ちなみにステッキや杖は魔法発動の効率を上げるためのものだが、俺やアルクは素手で十分なのだ。


これも一瞬で終わった。そもそも発動にかかる時間が違うのだ。

魔術師の男は、そもそも無詠唱魔法が使えない。いくらステッキで発動効率を上げたところで、無詠唱で発動できるアルクには叶わなかった。


男が詠唱を始めた途端、アルクの手から発射された火炎魔法で全身が包まれた。


『わ、つい焦って火炎魔法にしちゃったよ!ごごごめんなさい!!』

アルクは心の中で必死に謝っていた。


「そ、そこまで!!回復部隊!!」


仕切り役の男は慌てて、待機している魔術師に呼びかけた。

しかしそれより早く、アルクが発した水魔法で火は鎮火し、続けて回復魔法によって男の火傷は癒えていた。


『だ、大丈夫ですか、けがはないですか……ごごごめんなさい……』


慌てる心中と裏腹に、アルクが言えたのはまた一言だけだった。

「…大丈夫ですか。」


『ああもう、僕はどうして普通に話せないんだ……。これじゃきっと感じ悪いよね……』


しかし魔術師の男は、まるで崇拝するような目でアルクを見つめていた。

「い、いえ、大丈夫です。あ、ありがとうございます!!」


男は深々と礼をして、その場から退いた。



次の挑戦者……は、いつまでも名乗り出なかった。

皆、最初の2試合を見ただけで、完全に怖気づいてしまったのだ。


仕切り役の男が、仕方なく叫ぶ。

「それでは、残り全員とアルク様の対戦ということで、よろしいですね!」


『えええ!?よ、よろしくないですよ!よろしくないです!!!』

アルクは心の中で抗議し、思わず残り全員のほうにサッと目を向けた。誰か反対してくれることを願っているのだ。


しかしアルクのその視線を、冒険者達は誤って解釈した。

「お、俺達に、かかって来いって言ってるんだ……」


残った10人の冒険者達は、次々に声を上げた。

「や、やってみます!やらせてください!!」

「そうだ!俺達も強くなるんだ、怖気づいてる場合じゃない!」

「よし皆、行くぞ!うおおおおおおお!!」


男女入り乱れた冒険者達が全員、アルクに向かって駈け出した。


『なんでそうなるんだよ~~~~!!!』

アルクは心の叫びを上げた。


しかしそれも、一瞬だった。


アルクは反射的にバリアを展開し、駆け寄った冒険者達をはじき返した。

次の瞬間にはバリアを解除し、用意していた新しい刀で、周囲にいた数人の足元をさっと払うように斬り付けた。

それで5人が倒れこむ。残り5人のうち3人は、剣や槍の物理攻撃を仕掛けてくる。


アルクはかがんで剣をさっとかわし、右下から斜め上へ刀を動かし1人目を斬り付ける。

2人目から突き出された槍を手でつかみ、槍ごとその男を投げ飛ばす。投げ飛ばされた男は、3人目に激突して一緒に地面に倒れこむ。


残った2人の魔術師はその間に詠唱を終え、アルクに向かい風と土の攻撃が飛んでくる。

アルクはより強力な風魔法を発動し、難なく攻撃を跳ね返す。跳ね返った攻撃は発動した本人たちに直撃し、2人は訓練所の壁まで飛ばされ激突する。


「そ……そこまで……!!」


一瞬の出来事に静まり返った場内が、再びわあっと沸いた。

「さ、さすが、勇者様だ……!!」


『ああもう、すごく怖かったよ……!あんな一斉にかかってこなくたっていいじゃないか……!!しょ、しょこらあああ~~~~~』



当のアルクはというと、相変わらず弱々しい心の声を、念話に流し続けていた。


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