13.怒りの拷問
俺はついに、サザールの村にたどり着いた。
辺鄙な村で、入り口には槍を持った門衛が二人立っているだけだった。
こいつらも精神支配を受けていると見られるが、フードを被っており表情は見えない。
俺は俊足で入り口を走り抜けた。門衛たちは、ただ強い風が吹き抜けたくらいにしか思っていない。
忍びのスキルのおかげだ。決して女神を褒めている訳ではないが。
入り口を抜けると小さな集落があり、住居が並んでいる。
降り続く雨のせいで赤レンガはくすんで見え、陰湿な雰囲気を醸し出していた。
どの家も明かりは点いておらず、外を出歩く者は一人もいない。まるで死んだ村のようだった。
集落を一瞬で駆け抜けると中央広場があり、役所と思われる建物やいくつかの店が並んでいる。
そこにも人影はない。
中央を抜けると道はだんだん細く狭くなり、建物もまばらに見られる程度になった。
やがて道はなくなり畑となり、畑がただの茂みとなった。
一見すると、この先にはもう何もないと思われた。
しかし茂みと小さな林を抜けた先に、その馬鹿でかい屋敷は立っていた。
俺が屋敷の正面にたどり着いた瞬間、まるで計ったようにピシャーンと稲妻が光り、ゴロゴロと大きな音を立てた。
3階建ての石造り、壁には蔦のようなものが絡みついている。いかにも化け物が住み着いていそうな様相だ。
屋敷の周囲は高い塀で囲われており、門は閉ざされていたが、俺は軽々とジャンプして壁を乗り越える。
変身しても猫のジャンプ力は健在だ。そこに忍びのスキルが加わり、俺はいつもより遥かに高くジャンプできた。
雨はまだ降り続いており、地面にはそこかしこに水たまりができている。俺は水の上にビシャッと着地した。
その時ふと、水たまりに映った自分の姿が目に入った。
俺はメスなのでもちろん人間になってもメスだ。
長くて黒い髪、歳はアルクと同じくらいに見える。そして、姿形は完全に人間だが、黒猫の耳と尻尾が生えていた。
チッ!!あの女神め、中途半端な変身させやがって。
これではいつかアルクが話していた、いわゆるコスプレというやつに見える。
こんな姿をアルクに見られたらますます面倒そうだ。
まあ見られても俺だとバレることはあるまい。
屋敷の扉の前にはまた一人、見張りと思われる人影がある。
ジャンプしてそいつの顔面を踏みつけると、すぐにぐしゃりと地面に倒れこんだ。
扉には鍵がかかっているようだ。
解錠して中に入り、領主の部屋を探す………いや、面倒だ。
俺は屋敷の正面に戻り、扉の上部、3階部分の大きな窓を見つける。
さっき見た光景からして、あの一番大きな窓が領主の部屋だ。
俺は少し下がって助走をつけ、ヒラリとジャンプする。
屋敷の屋根を遥かに超えて飛び上がり、落下する勢いに任せ、右足でその大きな窓を蹴破った。
ガシャーーーーーン!!!
「な、何だ!?何者だ!!」
中にいた大小二つの人影が、こちらを見て武器を身構えた。
俺は着地して部屋を見渡し、状況を把握した。
アルクは手足を縛られたまま床に倒れて気絶している。
傍には大小二人の手下が立っていた。女神の水たまりで見た時は気づかなかったが、二人とも頭に二本の角が生えていた。大きいほうは石でできた鈍器と短剣を握りしめている。
アルクはこの二人から思う存分暴行を受けていたようで、頭から血が流れ、左の頬は腫れ上がっている。顔や体中に切り傷があった。
キングスパイダーが作ったマントは半分が裂けていた。
めくれた服の下に見える肌は痣だらけだ。どこか体の骨が折れているかも知れない。
虫のような息だが、まだ生きている。
…不愉快だ。
「お、お前、何者だ!?」
「勇者の仲間か!?どうやって入ってきやがった!……ああっ、ノルテーラ様!!」
…ん?
俺は足元に目をやった。
俺が窓を蹴破り部屋に飛び込んだ際、偽領主の頭を勢いで蹴飛ばし、着地と同時に床に叩きつけてしまったらしい。
ノルテーラと呼ばれた偽領主の頭は俺の右足に踏みつけられ、床にめり込んでいた。
「おう、気づかなかったぜ。悪く思うな。」
俺はフンと鼻を鳴らした。
俺の喉からは、人間の言葉が発せられた。
「き、貴様よくもノルテーラ様を…!!」
大きいほうの手下が俺に向かい、手にした石の鈍器を振り上げた。
俺はそいつが振り上げた腕を右手でつかみ、ひねる。
そしてそいつの股間に強烈な猫キック(人間の足だが)をお見舞いした。
「うをををををを……!!!」
そいつは苦痛に身を悶えながら、床に突っ伏した。
「き、貴様よくも…」
今度は小さいほうが、俺に向かって手を広げた。どうやらこいつは魔術を使うようだ。
しかしそいつの手から攻撃魔法が発せられる前に、俺は右手をそいつに向けて火炎魔法を発射した。
「うわあああああっ!!」
小さいほうの全身が炎に包まれ、そいつはもがき苦しんだ。
しばらくすると俺は水魔法を発射して、火を鎮火させた。
そして、床に崩れ落ちた二人をこの上なく冷徹な目でギロリと見下ろした。
「…殺そうと思えばすぐに殺せるが……
俺の連れを散々痛めつけてくれたんだ、同等以上の苦しみを味わってから死んでもらうぞ………」
「ひぃっ……!!」
二人は恐怖で目を見開き、ゴクリと唾を飲み込んだ。
俺はそいつらから目を離さず、左手をアルクに向けて回復魔法をかけた。
傷は癒えるが、意識はすぐには回復しない。
それが終わると今度は右手を二人に向けてかざす。
鋭い石の杭を作り出し、そいつらの両手両足にズブリと突き刺し、床に磔にする。
「ぐああぁぁっ……!!」
動けなくなったそいつらを、俺はそれからたっぷりと痛めつけた。
まずは物理攻撃。顔や腹を足で蹴り飛ばし、鼻をへし折る。
アイテムボックスから剣を取り出し、体中に突き刺す。すぐ死なれては困るので回復魔法を施し、また突き刺す。
火炎魔法で全身の皮膚が溶ける程燃やし、回復魔法をかけ、さらに燃やす。
水魔法で耳、鼻、口、穴という穴を水で満たし、窒息直前に解除する。それを繰り返す。
股間に再度強烈な蹴りを入れる。
後で気づいたのだが、俺はだいぶ怒っていたようだ。
どんなに痛めつけても足りないぐらいだった。
ゼエゼエと息を荒げながら、小さいほうが断末魔の声を上げた。
「…く、くそ、何だってお前、こんなに強…。」
すると大きいほうも悲痛の声を上げた。
「もう、やめてくれ……。こ、こんな勇者のために、なぜ、そこまでする……。
こいつ、2日間…見張っていたが、勇者のくせに魔法も使えないし、弱い。こんな奴より、俺達魔族のな、仲間に、ならないか……」
命乞いのつもりか?
俺はフンッと鼻を鳴らした。
俺は無視して拷問を続ける。そして十分に苦痛を与えた後、俺は二人の胸に剣をズブリと順番に突き刺した。
回復魔法はかけず、奴らが息絶えるところを見届けた。
さて…アルクの方に向き直ろうとした俺は、しかし、サッとジャンプして身をかわした。
突如、闇魔法の攻撃が飛んできたのだ。
ノルテーラと呼ばれた男が目を覚ましていた。
頭を押さえながら、あのねっとりした声で俺に話しかける。
「……あいたたた、ひどいじゃないか……。完全に不意を突かれたよ……。
楽しい拷問の時間が、台無しじゃあないか…。部下たちが楽しんだ後は、私自身たっぷり楽しむつもりだったのにさ……。」
相変わらず中性的で、気味の悪い猫撫で声だったが、声の底に冷たい怒りを感じた。
今になってやっと、まともに奴の姿が目に入る。足元まで届こうかという薄い水色の長髪に白い肌、頭には黒い角が二本生えている。人間のような恰好をしているが、全身真っ黒な服に、黒いマントを羽織っている。
「……君、何者なんだい……?そこのクールな勇者には、黒猫やドラゴン以外の仲間はいないと聞いたんだけどな……。
…まあいい、私の邪魔をするのなら、君にも死んでもらわなければ……」
俺はまたフンっと鼻を鳴らした。
「……ふふ、余裕ぶっていられるのも、今のうちだよ、お嬢さん……。さあ、勇者よ…我のために動きたまえ…………」
ノルテーラは、横たわるアルクに手を向けた。
アルクの体が闇に包まれて持ち上がる。手足の縄が解かれ、口に貼られたテープは剥がれ落ちた。
ストンと床に降り立ったアルクは、ゆっくり目を開けた。
その瞳は不自然なほど黒く、感情がない。
アルクは無表情に、俺をまっすぐ見つめた。
どうやらノルテーラの精神支配を受けて、操られているらしい。
アルクは、俺が手下二人を刺した剣を拾い上げた。そして俺に向かい、剣を振りかざす。
「……さあ、お楽しみの時間だよ、お嬢さん……。いくら君が強くても、仲間を攻撃することはできまい………………。って、えっ………………?」
バシーーーーーン!!!
俺は容赦なく、アルクの顔面に猫パンチ(今は人間だが)を食らわせた。
アルクは吹っ飛び、床に投げ出される。また気絶していた。
「ちょ、ちょっと君………。な、仲間を相手にするんだ、もう少し躊躇しないのかね普通………。
……ま、まあいい。それでは君は、私が直々に相手をしてあげるしかなさそう……………えっ?」
ノルテーラがねっとり話している間に、俺は魔法で植物の蔦を作り出し、そいつを椅子に縛り付けていた。そしてアイテムボックスから、黒曜石がはまった首輪を取り出しそいつに取り付ける。
指輪と一緒に魔道具屋で作ってもらっていたのだ。
「お前、何を戦いの場でペラペラ喋っているんだ。俺にはお前と話している暇はない。
……お前にはあの二人以上に苦しんで死んでもらうぞ。」
俺は冷酷非道な目で、そいつを見下ろした。
「ヒィッ………!!」
手下と全く同じように、ノルテーラは恐れ慄いて唾を飲み込む。
その後の流れは同じだった。
俺は手下にしたより倍の時間をかけ、ノルテーラに苦痛を与え続けた。
体中を突き刺し、燃やし続け、水で溺れさせる。パンチを食らわせ、ほとんどの歯が吹き飛んでいく。
こいつの股間には蹴りではなく、剣を突き立ててやった。
魔法が使えず身動きが取れないノルテーラは、罠にかかった鼠と同じだ。
拷問ついでに、俺はいくつか質問をしてみた。
「お前の仲間はこれだけか。魔王直属の配下は何人いるんだ」
「なぜスラシア領を選んだ。前領主はどこにいる」
「他に良からぬことを企んでいる奴らはいるか」
「…嘘をつくと分かるからな、また股間を突き刺すぞ。」
しかし、余程拷問がきついと見えて、ノルテーラは白目で泡を吹いており、既に話ができる状態ではなかった。
手下のほうがまだタフだったぞ。おそらくある程度強いせいで、攻撃を受けることに慣れていないのだろう。
質問の答えは期待できそうにないため、俺は最後にそいつの口の中にズブリと剣を突き刺し、全身を燃やして殺した。
黒曜石の首輪は取り外しておいた。
チリチリと灰のようになった体は、縛り付けられた蔦が燃えたことで、ドサリと地面に倒れこんだ。
おれは屈み込み、そいつが完全に息絶えていることを確認した。
「…さて。帰るか。」
俺はそっと、倒れているアルクを抱え上げた。




