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勇者猫  作者: バゲット
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10.奇妙な町

「やあっ!!」


アルクは剣を振り、オークの首を跳ね飛ばした。



ブラックドラゴン、もとい、コクヨウを倒した俺達は、その後も複数の依頼を引き受けた。

その報酬金で新しい剣を購入し、今日はその威力を試すために、ある依頼をこなしていた。


町周辺に出没したオークの群れの討伐というものだったが、俺とアルクだけで難なく片付けられてしまった。

アルクは剣を使い、俺はジャンプしてオークの顔を猫パンチするだけだ。パンチ一発で確実に死ぬから張り合いのないものだ。


剣に加えて、アルクは右手中指に、小さな黒い石のはまった指輪をつけていた。



コクヨウは変異体たっだので、ギルドの調査隊がプテラ山岳の現地を調査したのだ。

すると、コクヨウが食べていた黒曜石には、魔力を抑制する力があることが分かったらしい。


黒曜石を大量に摂取してブラックドラゴンへと変異したコクヨウ、そしてそのコクヨウのブレスを浴びたせいで、俺やベインの仲間は一時的に魔力が枯渇したという訳だ。


その黒曜石をはめた指輪をつけると、魔力の発動ができなくなる。

アルクの武術訓練には、もってこいの魔道具だった。


そしてこの訓練は、アルク自身が希望したことだった。

危機的状況に遭遇したことで、やっと強くなりたいという意思が、恐怖を凌駕したらしい。



依頼を終えた俺達は、歩いてモントールの町へ引き返した。


「この指輪、本当に便利だね。指にはめると魔法が使えなくなるけど、外すとすぐ使えるようになる。石が小さいから、完全に魔力を枯渇させず、抑制するだけ、って言ってたよね…」


アルクは指輪をしげしげと眺めた。


「まあ、すぐ魔法に頼ろうとするお前の訓練にはピッタリだな。

…にしても、この町周辺の魔物はもう相手にならないな。金もある程度稼いだし、これ以上ここに留まる理由もなさそうだな…」



コクヨウの件以来、アルクは町で大変な人気者になっていた。

といっても、町でアルクを見かけたやつが、一方的に声をかけてくるだけだ。


「あ、アルクさん!こんにちは!」

「兄ちゃん、このリンゴ売り物だけど余ってっから、よかったら持ってけよ!」

「アルク様、今日もクールで素敵…」


こんな具合に。

相変わらずコミュ障のアルクは固い表情で「こんにちは」と返したり、無言で頷いたり、怪訝な顔で見返したりするだけだった。


アルクはしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。


「そうだね、僕も、早く先に進んだ方がいいと思う。この町の人達はみんなすごく親切だし、もう少し長くいられたらいいと思うけど、そんなこと言っていられないしね…」



魔王は二百年周期で復活する。その時期は刻一刻と迫っているのだ。


俺達は結局、翌日にはモントールの町を出発することにした。



出発の朝、数人の町人が俺達を見送りに来た。

ギルドの受付嬢、ベイン達のパーティー、診療所の女医、その他アルクのファンなどだ。


「アルク様、どうぞお気をつけて。またいつでも、この町のギルドにいらしてください」

「アルク、何かあったら、いつでも連絡してくれよ。使役してるって噂の、あのカラスでさ。ドラゴンは目立つからやめてくれよ」

「回復薬いくつか作ってやったから、持ってきな!」

「アルク様……………!またいつか、戻っていらしてください!!」「私も連れて行ってください!」「こ、恋人はいませんか!?」


アルクは固い表情のまま、気持ち口角を上げた状態で皆に向かって頷いた。

やれやれ、こんな調子だからクールだとか勘違いされるのだ。



ベインが一歩前に出てきて、アルクと握手しがてら囁いた。

「この先いくつか村を超えた先に、スラシアって町があるんだが、どうも最近きな臭い噂が流れてきてる。その町に行くときは、注意した方がいい。」


ベインはそう言うと、握っていた手を離した。



多くの人に見送られながら、アルクと俺は北側の門から町を離れた。



「歩いていくのは馬鹿らしいから、コクヨウに乗っていくか。」


俺の声に応えるように、山岳のほうからコクヨウがバサバサと俺達のほうへやって来た。

ギルドに登録してからは、コクヨウは町周辺を飛び回ることを許可されているのだ。



俺とアルクを背中に乗せると、コクヨウは高々と空へ舞い上がった。

アルクは高所恐怖症と見えて、青ざめた顔でブルブル震えていた。


「ね、ねえ、これもし落っこちたら、普通に死んじゃうよね……」


コクヨウの鱗はガラスのようにツルツル滑るので、気を緩めると落下しそうだった。


「落ちたらバリアを展開したら、まあ死なないだろう。」

俺は鼻をフンと鳴らしながら言った。



しばらく黙って飛んでいた俺達だが、途中、アルクが口を開いた。


「僕、結局あの町の人達と、普通に話すことができなかったよ。みんないい人達だって分かったけど、やっぱりどうしても、話そうとすると怖くなって…」


アルクは少し黙り込んだ。


「…僕は前世からそうだったし、やっぱり、そう簡単に変わることはできないみたいだ…」


ほとんど独り言のように、アルクは呟いた。

俺は特に感想がないので黙っていた。



「それより次の目的地だが、小さな村に寄っていても仕方ない。このまま、ベインの奴が言っていたスラシアまで飛んでいくぞ。」


「えっ、もうそこまで行くの!?ま、まあそうだね・・。きな臭い、って言っていたけど、何があるのかなあ…。」


「まあ行ってみれば分かるだろう。」



眼下にはしばらく広大な草原が続いた。いくつかの小さな集落を通り過ぎ、やっとスラシアの町が見えてきた頃には、もう正午を過ぎていた。


やがてコクヨウは、町の入り口の門前へバサバサと降り立った。


「じゃあ、わしはこれで少し失礼するぞ。飛び続けて疲れたわい。」

コクヨウがグルグル唸りながらそう言った。


「え、あ、そうか、しょこらがテイムしたから、コクヨウの言葉も分かるようになったんだっけ…。な、なんかまだ子供のドラゴンのはずなのに、おじいさんみたいな話し方するんだね…」


アルクは少し面食らったようだったが、すぐに気を取り直し、コクヨウに挨拶した。


「ありがとう、コクヨウ!ゆっくり休んでね!」


コクヨウが遠くに見える山脈の方向へ消えていくのを、俺達は見送った。



町に入ると、まだ昼過ぎにも関わらず、どんよりと薄暗い空気が辺りに漂っていた。

すれ違う町の人間は皆同じようなローブを着て、深々とフードを被り顔を隠している。


「な、なんだか、妙な雰囲気の町だね…。」

アルクは恐々と辺りを見回しながら言った。



建物はモントールの町と変わらない赤レンガでできていたが、まるで別世界のようだった。

人々はボソボソと囁くように話し合っており、賑やかに話す声などは聞こえない。


時折、フードの奥からアルクや俺をじっと見つめる者もいた。

俺が鋭い目でギンと睨み返すと、しかし、そいつらは少しビクっと体を震わせ離れて行った。


「じ、じょごらぁ、僕もう心が折れそうだよ……」



俺達はとりあえず冒険者ギルドへ行き、この町の情報を集めることにした。



ギルドの扉を開けると、中はなぜか薄暗く、数人いる冒険者の奴らも皆フードを被っていた。

受付係は若い男だったが、こいつまでフードを被っている。



コミュ障のアルクが、意を決して受付係に話しかけるのに5分近くかかった。


「あ、あの…」


相変わらず固い表情でアルクが声をかけても、男は微動だにしない。

アルクの心がボキボキと折れていく音が聞こえてきそうだった。


ぐっと息を飲み込み、アルクはもう一度声をかける。


「あ、あの…!」


今度は、男は僅かに顔を持ち上げた。

フードのせいで目は見えないが、アルクの方を見ているのが分かる。


「えっと…こ、この町について…」


そこまで言ったところで、アルクは口をつぐんだ。

男が数枚の紙を差し出してきたからだ。


アルクが受け取ると、それはいくつかの依頼の紙だった。


「えっと…」

アルクが戸惑っていると、男はまた顔の角度を戻し、正面を向いた。

ギルドは依頼斡旋以外の一切の業務を行わない、ということなのか。


いずれにせよ、これ以上話しかけても無駄なようだった。


「…仕方ない。おい、もうここを出るぞ。」

俺はそう言って、トコトコと入り口のドアまで歩いて行った。


「ちょっと、置いてかないで…!」

アルクは急いで俺の後を追う。



その後、宿屋を訪れた時も大体同じような感じだった。

部屋に入るとアルクは、ドサッとベッドに倒れこんだ。


「ああもう、どうなってるんだよこの町は……。ただでさえ人と話すのは緊張するのに、みんなすごく怖いんだもん…。」


「まあ、明らかに普通じゃないことは確かだな。とりあえずムックに周囲を見て回らせるか。あとは依頼をこなしながら情報収集するとしよう。」


「うん、そうだね…。えっと依頼は、薬草ナツメの採取、町周辺のホブゴブリン討伐、複数の魔物の素材集め…。依頼内容は特に普通だね…」


俺達は翌日から依頼を開始することにした。



そして、俺達がスラシアに到着して3日後に、事件は起こったのだった。

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