表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

転生魔神と聖者 短編

剣ちゃんは喋らない。

作者: まちどり


 つるぎだよ。ますたーがあるじの為に作ったのが、つるぎなの。

 主とますたーはそれぞれ別の世界から白っぽい空間に来て、探索するのに得物が欲しいよねーって、ますたーが、実際に使う主にどんなのが良いか考えてもらって、

『ガンダロフが想像した通りの武器が出来るように。願わくば、その武器が彼自身と彼が大切に思うものを守るよすがとなるように』

と力と願いを注いで作ってくれたの。


 あ、ガンダロフっていうのが主の名前。元の世界では兵士の隊長さんだったって。で、主のかわいい人がますたー。でもあれは『かわいい』じゃなくて『綺麗』だと思う。剣に人の外見のことはよくわからないけど。名前はアスタロト。悪魔さんと同じ名前だから、普段はロトって呼んでねーって言ってた。ちなみに主の外見は、ますたーは心の中でマッチョ兄さんとかゲームのラスボスの格好良いバージョンとか…剣にはよくわからない。


 でね、剣が出来たー!って二人が喜んだら、ますたーの中身が変わっちゃった?

「ここまで素晴らしい物を出現させてしまうとは、予想外だ。今回の依り代は力の使い方に随分と長けている」

ってまるで別人みたいに話し始めたの。


 剣を作るときに二人で両手を握り合って、出来た後もそのままずっと剣の柄と一緒に握っていたから、主がものすごく警戒してたのが伝わってきて。でも剣は、素晴らしいって褒めてもらって、嬉しくてウキウキしてた。


 主とますたーの中身の違う人がいろいろお話ししてて、ますたー(違う人)が

「手を放せば彼方あちらに行けるぞ」

って言ったら主は

「行く訳が無いだろ」

って。それで主が両手に改めて力を込めて

「ずっと傍に居る」

って宣言したら、ますたー(違う人)が

「健闘を祈る」

と言って、倒れちゃった。


 そしたら別の場所に移動しちゃって。周りは薄暗くて血の臭いがして空気悪いし、人?がいっぱいいてそれぞれ何か喋ってて五月蝿いし。主は

「ロト?!アスタロト!」

って、ますたーに必死に呼びかけてて、でも、ますたーは全然動かなくって。


 それでも主は頑張った。途中から泣いちゃってたけど。


 主は剣をますたーに抱え込ませて一緒に抱き締めたの。そしたら何故か、五月蝿かった周りが静かになっちゃった。主の身体の熱さがますたーを通じて剣にも伝わってきて、剣もますたーに起きてーって呼びかけてたんだけど、ますたーはちっとも動かなくって。


「ロト。アスタロト」

 主が呼びかけても本当にピクリともしなくて、そしたら主は

「アスタロト、好きだよ」

ってますたーの唇にそっと口づけたの。キャーーーッ!ますたーじゃなくて剣がドキドキしちゃった!


 一回だけじゃ起きなくて、二回、三回…と回数を重ねる毎に濃厚になっていって、剣、大人の世界を垣間見た感じ。っていうか主、剣の存在忘れてない?さすがにますたーにもあつ(苦し)さが伝わったらしくて、剣にもわかるくらい、ますたーの心臓がドキドキしてた。


 ますたー、目を覚まして良かったね。でも剣が出来た後のことは覚えていなくて混乱してた。後で

「気が付いたらベショベショだった」

って言ってたけどそれ、主の涙とか汗とか…。


 周りは静かになったけど、人の身体だけが無くなったように服とか鎧とかが散乱してて

「……先ずは落ち着いて話ができる場所を探しましょうか」

ってことになった。剣、出番?敵が出てきたらバッタバッタとぎ払うよ!主が。


 今いるところには自分達以外は誰もいなくて、ますたーが主連れて飛んで燃やして扉の向こう側へ行った。薄暗くて階段を昇るのに足元が覚束無いので、ますたーが

「剣ちゃん剣ちゃん、足元がも少し明るくなる程度に優しく光ることは出来る?」

って聞いてきたから

『出来るよ~!』

って、周りにあった灯りより少し明るく辺りを照らしてみたの。主が、おぉ~~ってびっくりしてて

「凄い。こんなことも出来るんだな」

「さすがは護りの剣だね!ありがとう!」

『エッヘンッ!どういたしまして~』

 二人に褒められて凄く嬉しい!ますたーは、疲れない程度にね、って優しいの。承知!と元気よくお返事した。


 扉を何回か開けて階段を昇って昇って。とても静かで主達の足音と息遣いしか聞こえない。敵というか生き物すら居ないんじゃない?ってところを進んでいく。主達に危険が無くて何よりだね~。本当に虫一匹いないの。なんでかな?って思ってたら、扉を開けたら毒ガスがぶわわわ~~って吹き出してきて。直ぐに閉めたけど、主が咽せちゃって辛そう。ゴホゴホしてるのをますたーが背中を擦って、魔法かな?直ぐに良くなってた。


 これ以上進めないから、ここで一泊することに。で、ますたーが

「剣ちゃん出した後のこと、話してもらってもいいかな?…っていうか、私、何したの?」


 ますたーは、自分の意識が無い時に主に酷いことしたんだって思ってたみたい。主が真っ赤な顔で目を泳がせてはあぁ~~~という長い溜息吐いて項垂れたのを見て

「……言うのに勇気がいる位に酷いことやらかしたんだね、私」


 でも、実際にやらかしてるのは主だけどね~。


 主が何とかしてますたーを目覚めさせたくてやったことだけどね、自分みたいなむさ苦しい男にあんな熱い口づけを何度も何度も繰り返されたら嫌われるのは確定だ!って思ったんだよね。だけどますたーの誤解を解いてその上で主の処遇を決めてもらわないと、主自身が自分を許せなくなるからちゃんと話そうって、それで勇気を出して告白したの。


 ますたーは、怒らなかったし嫌がってもいなかった。自分が酷いことした訳じゃ無いってわかって安心してたし、それ以上に『自分は本当に死んだんだ』という事実に衝撃を受けていたように見えた。


 けど、主は 

「そうかぁ~、良かった~、絶対嫌われると、少なくとも距離を置かれて余所余所しい態度になるとかもう考えるだけですごく辛い」

って、すっごく安心してた。


 あと、ますたー(違う人)の話をしたのだけど、ますたーはこの世界のよどみにたまった力に自我を与える為の依り代として、主はその助力・抑止力としてそれぞれ別の世界から呼ばれたんだって。で、この世界で何するの?っていうのは全然わからなくって。


「剣ちゃんは何か聞いてない?」

『素晴らしい!って褒めてくれた~』

 ますたーは、そっか~、良かったね~。って一緒に喜んでくれた。


 まぁ何か不具合があればその内言ってくるだろうから、自由に過ごしていましょうかってところでその場はお開き!


 二人、どんな感じでお休みするのかなぁって、剣、ちょっとワクワクしてたんだけど、ますたーは子守唄?唄って秒で寝た。主は

「あれで寝たのか?本当に?」

ってびっくりしてて剣を携えて確認したけど、本気で寝てた。…なんか残念。




 でもね、ますたーは夜明け前に起きて、一人でお外探索、安全安心して眠れる場所と食べ物を探してきた。


 ますたーは、主の無防備な寝顔をしばし堪能してから剣に

「変わりない?」

って声を掛けた。

『元気になったよ~』

って返事したら、それは良かったってふわっと笑ったの。主が『かわいい』って顔真っ赤にしてしきりに言うの、ちょっとわかるかも。


 眠れる主は夢の中。ますたーは剣を主の胸に抱かせて、起こさないようそうっと大事に抱き上げて。まさかますたーが主をお姫様抱っこをするとか!しかも重そうな主を軽々と!愛の成せる技って奴?主、寝てるんだから静かにしてなきゃ駄目なんだけど、剣はドキドキ・ワクワクが止まらない!


 って、一瞬で知らない場所に移動してた。


「よし、問題無し」

って、ますたーの魔法かな。主の上着や靴を脱がせてベッドに寝かせる。剣も傍に寝せるように置いて、布団もちょこっと掛けてくれた。それから、またね、って何処かに行っちゃった。


 主はまだまだお休み中。起きたら知らない場所で寝てたとか、びっくりしちゃうよね。


 しばらくしたら、ますたーが戻ってきた。カーテン開けて、主に声を掛ける。

「おはよう、ガンダロフ。朝ごはん出来たよ」

 主、ピクリともしない。

「起きて、ガンダロフ。朝だよ」

 ますたーが優しく耳元で囁くと、んんーっと低く唸ってる。まだ起きないの?って思ったら、ますたー、主の前髪を上げておでこに優しくチュッ。その流れで髪を撫でながら

「早く起きてね~」

と呟く。うわぁ~なんだかすごぉく甘い雰囲気。でも、ますたーの目が少しずつ愉しげな光を帯びてきて、えっなになに何するの?ってドキドキして見てたら、主が目を開けた。なんか惜しい。


「おはよ」

 ますたーが朝の挨拶をすると、主は瞼が無くなるくらい大きく目を見開いて凄いびっくりしてる。ますたーが「朝ごはん──」って向こうに行こうとしたところを主が引き寄せてお膝の上に抱っこ。「へ?何事?」ますたーびっくり。


 主、寝ぼけてたみたいで

「……そのままいなくなるんじゃないかと……」

って真っ赤になった顔を手で覆って顔を背けちゃった。


 詳しい話は後で、ってことでますたーが作った朝ごはん食べよう!剣は食べられないけど。


 主、家具とか建物とかいろいろを魔法で出現させたとなると、ますたーはどれだけ無茶をしたのだろうって凄く心配してて、厳つい顔がもっと怖くなってた。けど、ますたーのスープが美味しくてたくさんお代わりして、お腹いっぱいになったらニコニコしてた。


 その後、お茶しながらお話ししたんだけど。

「で、何故俺はあんなにふかふかの布団にくるまって寝ていたんだ?」

「うん。で、今ここでお茶してる」

「いや、だから説明をして欲しいのだが」

「どこから話せば良いかなぁ」

「初めから話して終わりが来たら止めればいいと思う」


 細かく話して欲しい主と、簡単に説明し過ぎてよくわからない内容になるますたー。


 要するに、洞窟内に留まるのは安心出来ないから、ますたーの独断で外に出てこの場所を見つけて、狼を退けて馬を助けて、住居の安全を確認してから魔法で転移して連れて来た。ってことなんだけど。


「まずは自分が生きることが第一で、どうせだったら楽しく暮らしたい。って思ったら、あそこに留まるなんて論外だったの。それで……転移魔法なんだけど、初めにガンダロフが寝てたテントに意識を飛ばして、そこに行く!って思ったら行けたの」


 ますたーが持つ『魔法の力』は利便性が高いようで、自分の手足みたいにホイホイ使う。だけど主にはなんだかよくわからないモノだから、使い過ぎによる弊害があるのではと不安になるんだよね。


「……簡単に言う……具合が悪くなるとか変な感じ、違和感とかは」

「大丈夫。何かあればやらない。で、成功したからガンダロフと剣ちゃん連れてきた」


 お姫様抱っこで。


 再現があるかどうかはともかく、家探しで見つけた日誌みたいなのと地図を見る。何かわかるかな?


 二人とも知らない文字で読めないけど、ますたーが

「文字が読めなくても、それを書いた時の情報を探ることは出来るかな?」

って。主は、はぁ~、と息を吐いて

「無理はするなよ」

と日誌(仮)をますたーに手渡すと

「承知!では早速……」


 ますたーのキラキラと煌めく好奇心いっぱいな瞳、綺麗…。


「……どうだ?」

「んー…なんていうか、怒ってる」

「怒ってる?」

 そこに書いてある内容ではなくて、書いた人のその時の感情を読んでいるっぽい。


 ますたーは日誌(仮)をパラパラッと捲って最後のページを開いて、読み取りを再度試みる。


 ブンッバサバサッ


 無言で日誌(仮)投げた!もの凄く怒ってる!無表情、でも瞳が冷たい光を宿していて、もう無茶苦茶怖い!!ますたー、一体何を読み取ったの?!


「ロト」

 ますたーの突然の怒気に主もびっくり!でも、放り投げた時のまま伸ばされたますたーの腕を引き寄せて優しく手を握る。ますたーは小刻みに震えてて……。


「ごめんなさい、また心配させちゃった」

 ますたーが小声で謝ってくる。

「いや、俺も無用心だった。すまない」

 主の所為じゃないよってますたーの目が語ってる。


「あれ書いた人、最低。っていうか、この世界の人達って、もしかして人間じゃなかったりする?」

 ますたーの硬くて低い声。話していて思い出したのか、ぶるるっと震える。

「人間に見えたのだがな。人種的に違うのかもしれない」


 主はもう、ますたーに日誌(仮)そのものを触れさせたくないみたいだけど。

「あのね。さっき読み取った『書いた人の心の声』なんだけど」

「別に話さなくてもいい。君が辛い思いをする方が俺には堪える」


 ますたーは、はっ、と短く息を吐いて

「無理。忘れられそうにない。夢に出てきそう」

 まだ少し声が震えている。


「私が聞いた声、そのまま話していい?こんなに嫌な気持ちになるとか胸の奥がグラグラする程気持ち悪いのとか、もしかしたら私がおかしいのかもしれないし」

「……俺も、何が君の逆鱗に触れたのか知りたい。嫌な思いをさせるが、話して欲しい」


 ますたーは目を伏せてふぅ~っと息を吐き出すと静かに話し始めた。


「『やっとここまで来たぜ~。聖女ちゃん、かわいい子だといいなぁ』…ここまでは特に何も思わなかったんだけどね。……『クソジジィ達の玩具おもちゃにされちまうのは悔しいが、その内俺も種付けくらいやらせてもらうか』……」


 自分を害しかねない狼にも無機物の剣にも優しいますたー。命を粗末に扱うことはとても許し難いことなのかも。

「人間とは違うモノだとしても、生き物を『おもちゃ』呼ばわりするその精神が嫌い」


「……もし、俺があのまま呪いに縛られてしまってたら」

「それは無い。私が許さない。世界が望んだとしても、私は許さない」


 ますたーは淡々と、でも硬く低い声で冷たく言い放つ。剣、本当に震える程怖いんだけど!って主?!主はなんでそんなに喜んでるの?!感極まって、って感じで主はますたーを膝の上に乗せて抱き締めた。ますたー、突然のことでびっくりして硬直してる。うん、びっくり。


 しばらくすると、主が口を開いた。

「俺は非道ひどい奴だな」

「なんで?」

「君が『許さない』って言ったことが凄く嬉しい。君はこんなに怒っているのに……心無い言葉で傷ついたというのに」


 主が腕を緩めると、ますたーも緊張が解けたのか、ほぉ~~っと息を吐いて呟いた。

「なんだか、嫌な気持ちだとか怒ってたのとか、全部ぶっ飛んじゃった」

「そ、そうか。それは…良かった?」

「うん、ありがとう……疲れた。眠い」

「余りよく眠れなかったんじゃないのか?」

「眠ったよ、少しわぁ~っ」


 主はますたーを横抱きにして立ち上がった。『お姫様抱っこ』だぁ!ますたーがびっくりして主の首に抱きつく。キャーーーッ!お互い顔真っ赤!そのまま主が寝ていたベッドへと向かう。


「眠気、吹き飛びましたので降ろしていただいてもよろしいでしょうか?」

「またすぐ眠くなる。君の用意したベッドはとても寝心地が良かったから」


 ますたー、主に幾つかのお願いをして、剣に主のこと守ってねってお願いすると、ベッドに辿り着く前に眠っちゃった。疲れてたんだね。




 主は馬の様子を見たり、テントや住居、小屋を探ったり。厩舎と鶏小屋が荒らされていたのを綺麗に掃除してたら、玉子発見!ますたーに食べてもらおうってご機嫌になってた。


 住居に入る前に自分自身の汚れを落とそうと、主が水垢離を始めた。水、冷たいままだと風邪ひくよ?はっ!剣が水を温めると良いのか!うん、出来た!


「剣、ありがとう。お陰で風邪を引かずに済む」


 流し終わったら、今度は身体と服を乾かそう。これで風邪を引く心配はないね!




 住居に入ると主はまず寝室に行って、ますたーの様子を確認する。ますたー、お人形さんみたいに綺麗でかわいい。主……その顔、誰にも見られなくて良かったね…。




 ますたーが日誌(仮)ぶん投げた部屋で、主は剣を磨き始めた。あれ?主、昼の時間はとっくに過ぎてるよ?ごはん、ちゃんと食べようよ?

「お前を綺麗に磨き上げたら、安心して飯が食える」

 えっ、剣のこと、綺麗にしてくれるの?嬉しい!

「俺もロトのようにお前の言葉がわかるといいんだがな。まぁ、長い付き合いになるんだろうし、今も何となくだが気持ちがわかるから、その内、だな。これからもよろしく頼む」


 こちらこそよろしくです!




 さて、主のお昼ごはんは朝の具だくさんスープ。剣が温め直してほっかほか~。


「そういえば、剣は食事というか力の補充はどうしているんだ?」

 剣はね、主とますたーが仲良くしてる傍にいると、自然と力がみなぎってくるから心配無用だよ。

「もう少し詳しくわかると良いのだがな。いや、俺が精進すれば良い話だ」

 うん、主、頑張れ~。主は納得したように頷いた。




 お昼ごはんの後は、主と一緒におうちの中を見て廻る。特に怪しいものはなさそうだけど。でも主は何か不安を感じたようで、一通り見たら足早にますたーが寝てる部屋に向かった。


 部屋の扉を開くと、主の緊張状態が直ぐに和らいだ。ますたーの気配を感じただけで顔がにやけてる。実物を目にしたら、それはもう絶対他人に見せちゃ駄目な顔つきになってる。と、何が気になったの?ちょっと難しい顔になって考え始めた。どしたのかな~?って思ってたら、

「なんだっけ?」

とますたーが呟いた。


「お、目が覚めたか?」

 主がますたーの頬に掛かった髪を優しく払うと

「美味しい温州ミカンの酸っぱが強いの」

と呟く。

「うんしゅう…はわからんが、お腹が空いているんだな」

「……おはよ?」


 ますたー、まだ寝ぼけてる?主、今のうちにその顔どうにかしとかないと、気味悪がられるよ。


「じゃあ、夢の中での邂逅、とか言うと格好良すぎか」

「何か夢に出てきたのか?」

 主、少しむっとしたけどまだそっちの方がマシ。

「魔神ちゃん改め分身体さん。私と混ざる予定だったと言ってたから、今は違うのかな」


 ますたーはよいしょと身体を起こすと、主と目を合わせた。


「好きにやって良し。人間共は気にするなって」

「好きにやって良し?」

「私とガンダロフがこの世界で幸せに過ごしてくれればそれでいいって。倫理観とかは任せる、だっけ」

「なんだそれは……分身体とはアレか。放任も度が過ぎないか?」

「『アレ』呼ばわりはなんか悲しいな。たぶん私の一部だよ。混ざってないだけで」

 ますたーは自分が非難されたように感じたのかな?少ししょんぼりとしている。

「そうか……そうだな。済まなかった」


 ますたーはベッドから降りて窓際から外を見ている。何を見ているのだろう。


「『幸せ』に過ごす。『幸せ』って」

 ぽつりと呟くと、両手の平を合わせて目を伏せて何か呟いている。ますたーの合わせた両手を挟み包むように主が両手を重ねた。ますたーが顔を上げて聞いてくる。

「ガンダロフの『幸せ』は?」

「今、手の中にある」

 主の顔、真っ赤!ますたーの顔も釣られて真っ赤!そしてはにかんだような笑顔で

「じゃあ、なくさないようにお互い気を付けようね」


 主、瞼が無くなっちゃった?って位大きく目を開いた次の瞬間、ますたーをふわっと緩く抱き締めてた。


「ずっと一緒にいる。俺は今までの人生で、こんなにも幸せな気持ちを味わっているのが初めてなんじゃないか、ってくらい、今、とても幸せなんだ」

 主が、熱い。

「アスタロトに出会えて、良かった。ありがとう」


 ちょっと涙ぐむ主。ますたーが

「ガンダロフ」

と、上目遣いで声を掛ける。

「私もガンダロフに出会えて、良かったと思う。ありがとう。これからもよろしくお願いします。それはそうとお腹が」

 ますたーが話してる途中で、主の遠慮を忘れた抱擁!うわぁ~~、主、ますたーを存分に堪能してるぅ。


 少し間を置いて、ますたーが主の背中に手を回してポンポンと優しく叩く。

「……すまない」

 我に返って恥ずかしさを感じたみたい、主は口を覆ってますたーから顔を背けた。




 ますたーがお腹空いたということで、二人で台所に立ち入った途端、

「え?玉子?何で立ってるの?凄い!」

と、ますたーの目は調理台の上に釘付け。瞳がキラキラと輝いて興味津々。主が玉子の存在を目立たせようと布巾を使って立たせて置いてたの。

「で、何で玉子がここにあるの?」

「鶏小屋を掃除した時に見つけた」

「お掃除してくれたんだ、ありがとう!」

 ますたーが笑顔でお礼を述べると、主は少しはにかんだ笑顔を見せた。


 厩舎や馬について話した後にますたーは玉子に向き合って

「玉子焼き、目玉焼き、オムレツ、ゆで玉子。フライパンは作れるけど、油が調達出来ないから無難にゆで玉子か」

まるで呪文のように玉子料理をつらつらと並べる。と、唐突に沈黙した。


「?どうした?料理するのは難しいか?」

「ううん、ガンダロフはどういう風に食べたいの?」


 主は少し考えて

「いや、玉子なんて滅多に口にできなかったから、思い付かない」

と首を振った。

「ロトが美味しいと思う食べ方で食べてくれ」

 するとますたーは不思議そうな少し嬉しそうな表情を浮かべて

「『食べてくれ』?それって私も食べていいの?」

「元より、君が美味しそうに食べる姿が見たくて持ってきたんだ。是非、食べて欲しい」


 ますたーは一瞬、とてもびっくりしたように目を大きく開いて、次に満面の笑みで

「ありがとう!頑張って考えるから、一緒に食べようね!」


 うわぁ~~~~!ますたー!その笑顔は主にとっては最早凶器!主は瞬間的に顔が真っ赤になって、両手で顔を覆って背を向けちゃった。ブツブツと何か呟いてはいるけど、ますたーはさっさと調理に取り掛かってた。鼻歌交じりで上機嫌!


 気付くと主が切なそうにますたーのこと見てた。どうしたんだろう?あ、鼻歌の曲調が変わった。

♪あ~ぶくたった~煮え立った~……。

 ……なんのおまじないかな?


 と、ますたーと主の目が合う。二人同じようにニコッと笑顔。いや、主のは段々にやけてきたぞ。ますたーは小皿とフォークを2つ用意して、芋を載せて主に渡してきた。


「味見、どうぞ。熱いから火傷に気を付けてね」

「俺も?いいの?」

「調味料を使ってないのと、まだ味が染みてないから超薄味だと思う」


 二人仲良く芋の味見。

「うん、煮えてる。美味しい」

「あぁ、美味いな」

「時間を置くと味が馴染んでもっと美味しくなるよ。晩ご飯楽しみ~」


 なんだか新婚夫婦の会話だね~。ふぅ、ごちそうさま。




 馬達の様子を見に、テントの方へ向かう。馬達、テント前で日向ぼっこしてた。


 飼い葉が心許ないから草を生やそうってますたーが提案すると、主は

「やり過ぎないようにな。まずは厩舎の近くで良いのではないか?」

 ますたー、拳を握り締めてやる気満々!絶対に手加減しなさそう。


 テントの中に入って、馬達の住処について話し合い。……主、何複雑な顔してるの?


 衝立の向こう側から戻ると、馬達が中に入ってた。ますたーが栗毛馬のお腹を撫で撫でして

「もうすぐお母さんだ」

って励ましたら、栗毛馬は凄く嬉しそうにしてた。仔馬見るの、楽しみ~。


 テントから出た所で、中で見つけたバッグを調べる。というか、主が開けられなかったマジックバッグをますたーが扱い易いように改造してた。中に入ってる物がわかりやすく表示してある。注意書きとか細かい絵とかもついてる。何気に凄い。ますたーは水袋とナッツ、主は飼い葉をそれぞれ出してた。飼い葉は馬達が大喜び。




 厩舎の方へ向かうと、ますたー、井戸を発見!駆け寄り覗き込んだり、おまじない?をかけてたり。よくわからないけど凄く愉しそう。


 厩舎と鶏小屋は少し古呆けた感じで、ますたーが早速魔法で綺麗にした。仕事が早いね~。主も感心してる。


 と、二人共同じところを見た。視線の先では、馬達がこちらの様子を覗っていた。ますたーが声を掛ける。

「栗毛ちゃんに黒毛ちゃん、こっちで一緒に見よう!」

 言葉がわかるのかな、躊躇無く主達の側に来て大人しくしてる。賢い!




 ますたーは森の方に一歩踏み出す。そして大地を踏み締めて、両腕を目一杯に広げて吠えた。


「さあ!盛大に笑え!!」


wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww…………




 ますたーの目の前の地面から森の方に向かって、ぶわわわわーーーっと瞬く間に草が生えていく。大地が草がもごもごわさわさと揺れて、草も大地も大爆笑!!何がそんなにおかしいの?って位大騒ぎしてて凄く五月蝿い!いや、生きている喜びが爆発してるって言うのが正しいのかもしれないんだけど、なんだろう……待ってました!とか、こういうの欲しかった!とか、長年待ち侘びてた感が凄いのだけど。




「馬さん達のお口に合うと良いんだけど」


 主と馬達が、はっ、と我に返る。馬さえも我を忘れて見蕩れてしまう程の魔法。……こんな凄いことしたのに、ますたー、いつもと変わらない?あ、少し興奮してるかも。でも玉子とか井戸の時とかと比べたら通常通りだね~。


 さてお次はと、教会の方を見る。

「では、参りましょうか」


 主達から笑顔が消える。




 教会へと向かいながらますたーは主と剣に注意を促す。

「ガンダロフはまず自身の身の安全を最優先してね。私、力の加減を忘れるかもしれない。巻き添えにして怪我させたら、もの凄く落ち込んで、泣く」

 無表情で淡々とした語り口が、暗く、沈む。

「……わかった。手に負えないようであれば、一時撤退しよう」

 主が頷くと、ほっと一安心したように少し笑顔が戻る。

つるぎちゃん、ガンダロフのこと守ってね」

『承知!』


 建物の中、大きくて白い像があったけど……誰?もっとも二人共そんなに興味無さそう。その像の前に穴がポッカリと空いていて、嫌な気配が濃く漂ってくる。


「ここが地下の入り口か」

「うん、階段下りた先の空間に、魔法陣の跡と人が5、6人いたような跡がある」


 階段を下りる。二人以外の生き物の気配は今のところ感じられない。下の方も灯りは点っているようだけど、剣、足元を照らすから転ばないように気をつけて!……あぁ、この嫌な感じは魔法陣だ。


「集めて固めて燃やしても良い?」

 ますたーが主に、ぼそっと聞く。

「魔法陣の線か?あぁ、やってくれ」

 主も熱の無い言い方。心底嫌っているんだなぁ。


 魔法陣の線を象っている炭のようなモノを魔法の風が剥ぎ取り、それは中央で固まり球状になった。ますたーはそれを両手で包んで燃やす。青白い光が収まり手を開くと、一回目の時より若干小さい四角くて透明な石が現れた。


「二回目だからか手際が良いな。調子は変わらないか?」

「うん、大丈夫。これ、ジョー2号もガンダロフが持ってて」

 主が手を差し出すと、その上に石をコロンと乗せた。

「じょーにごう?」

「燃え尽きた感がハンパないから。最初に出来たのがジョー1号」

「……そう…」

 そのネーミングセンスはよくわからない、と主の目が語ってる。


 その後、床に散らばって落ちている物を風で一カ所に集めて、二人で手分けして選り分けていった。衣服と装飾品はますたー、鎧兜は主が詳しく調べる。




「ガンダロフ、具合悪いとか気持ち悪いとかは無い?」

 ますたーが主に声を掛けてきた。

「いや、今のところは入ってきた時と変わらない。何かあったか?」


 ますたーは汚い物を持つように、一つのペンダントを摘まみ上げた。主にとっては危険極まりない物騒な物みたい。装飾品には触らないように注意を促して、別の小さな籠にポトンと落とす。その籠に危険な物だけを集めて後で処分するのかな。もやもや……呪い?呪いって、何?


 魔法陣は消えたはずなのに、建物全体がまだなんとなく嫌な感じが漂っている。今日の作業はここまでにして、明日以降に室内隅々を調べることになった。


「あ、一つやっておきたいことが」

「今?後回しには出来ないか?明日とか」

「直ぐ済むから、今やる。ジョー1号2号、貸して」


 主はポケットから透明な四角い石二つを出してますたーに渡す。ますたーは選別済の装飾品の籠から何の変哲も無い金の鎖を取り出してそれをヒュルル~と加工して、二つの石を一つのペンダントトップにした。


「これで邪魔にならない。はい、どうぞ」

 主はそれを受け取って、作業中ますたーに「持ってて」と渡された指環と同様に鎖に通して首に提げる。何だろう、指環と石が『やっと落ち着いたねー』『安心した~』とか言ってる?そして主の嬉しそうな顔が周囲の寒々しい雰囲気を蹴散らしてる……。




 外に出ると、鮮やかな夕焼け空。東の方はもう大分暗い。あ、月、発見。とますたーが呟く。

「昨日は新月だったんだね」

♪月が~~出た出~た~~……

 ますたー、歌うの好きだね~。

 ……あ、ヨイヨイ♪




 住居に戻って、お待ちかねの晩ごはん!玉子はスープに『落とし玉子』で半分こ、だって。


「……美味い!」

と主は一言言ったきり、黙々と食べる。

「うん、美味し~…」

とますたーもニコニコしながら食べてる。


「お代わり、どう?」

「ロトは足りたのか?お腹空かせていただろう?」

「お椀が大きいから1杯で充分満足。というか、もしかしたらこういう食事は要らないのかも」

「食事が要らない?」

 ますたーは器用に、鍋から直接お椀によそう。

「うん。お昼寝から起きた時はすごく空腹を感じていて、台所で味見をする頃には大分収まってた」

 主は食べながら聞いている。

「芋1個で?」

「芋、かなぁ。なんか違うような気がするけど、じゃあ何?って訊かれてもわからない」


 そう言うと、ますたーは組んだ手の上に顎を乗せて考え込んだ。それを見た主は眉が八の字の心配顔。主、手が止まってるよ。と、ますたーが顔を上げる。主と目が合うと、ちょっと驚いた顔が直ぐに苦笑に変わる。


「考えてもわからないものはわからないなぁ。でもね」

 ますたーの口元が嬉しげに孤を描く。

「ガンダロフがね、私が美味しそうに食べる姿が見たいって言ってくれたの、凄く嬉しくて」

 主もその時のことを思い出したのか、顔が段々と赤らんでくる。

「それで空腹感を吹き飛ばしちゃったのかも」


 ますたー満面の笑み!かわいい!主はスプーンを落としそうになるくらい動揺してる!せずに食べたのは褒めるべきかな。




 夕食後は応接室でゆっくりとお話し合い。今回も主はますたーの隣に座る。……ますたー、そわそわして落ち着きがないの。何か気掛かりなことでもあるのかな?


 マジックバッグを見ながら二人でお話。

「このバッグがあれば、気楽に旅が出来るね」

 ますたー、旅行気分?

「何処か行きたいところがあるのか?」

「うーん、ガンダロフと一緒に美味しいもの食べられる所だったら何処でもぉ?」

 主、ますたーを速攻でお膝抱っこ拘束。

「はあぁぁあぁ~~~、かわいい。ロトがかわい過ぎてどうしたらいいかわからない」

 そして心の声がダダ漏れ。


 主が一人盛り上がっている中、ますたー、赤面しつつも態度は冷めてる感じ?ますたーが主の膝から降りて話が進むのかなと思ったけど、主、なんでまた照れてるの?顔を手で覆ってますたーから背けちゃった。


 で、ますたーはじっと何か考えてる。なになに~?すると、ポポポポポンッ!主の手に乗るくらいの透明な動物達が5体出現!地図の重しの為にわざわざ凝った物を作るよね~。


 ますたーが『麒麟』と名前を呼んで地図の真ん中に置くと、仄かに光ったりして。


 他のを試そうとするますたーを制して、主とますたー、地図を見て話を始めた。

「やはり現在地は読み取れないな」

「穴ぼこがいっぱい?昔の魔神さん達が魔法をぶっ放して開けたみたい」


 剣の所からはよく見えなくてわからないけど、ますたーだったら海でも山でも川でも野原でも好きに造っちゃいそう。

「それだけ強大な力を持っている、ということか」

 あ、野原はさっき造ったばかりだ。


 地図を見てますたーが主に提案してくる。

「明日、明るい時間に飛んで、この地図と実際の地形を見比べてみたい。それで」

「あぁ、一緒に空から見てみよう」

 剣も一緒に飛ぶ?それともお邪魔かな?

「怖くない?」

「別に高い所が怖い訳じゃない。ロトが飛んで行ったきり帰ってこないような気がして嫌だったんだ」

「一緒に飛べば問題無い?」

「問題無い。明日、晴れると良いな」

 明日、楽しみだね~。




 今夜の寝所は広いお部屋に大きなベッドが一つ。そう、ベッドは一つ!なので、剣、キャーーーッ!な展開を期待してますが?


「ロトに大きいふかふかのベッドを使って欲しい。用意したのはロト本人なのだから」

「ガンダロフに安心して眠ってもらいたくて用意したの。だからガンダロフが使うのが筋ってものだと思う。私は隣の部屋に準備したし」


 二人して相手にこのふかふかベッドを一人で使って欲しいようで。でも

「そ、それは、俺のことを、す、好きって、言ってる?」

 主……何故、今それを尋ねる?顔真っ赤だし、動揺のあまりどもってるけど。

「恋愛とか情愛とかはわからないけど」

 ますたーも、顔真っ赤。

「好き」


 ますたーは主に速攻で抱き締められると思って身構えたのだけど、主は両手で顔を覆ってしゃがんでしまった。びっくり。ますたーも膝を抱えて同じ目線で様子を覗う。主、「あぁ~」とか「うわぁ~」とかいろいろと呟いてて、忙しそう。話にならないと見るや

「先にお風呂入ってくるね」

 ますたー、さっさとお風呂に行っちゃった。




 主が気付いた時にはますたーは既にお風呂。ソファに座ってしばらくすると、なんだか表情が暗くなってきた。ますたーが言うところの『考える人』のポーズから、両手で頭抱えちゃった。


「お風呂、先に頂きました……具合悪い?」

 そんな姿見たら、ますたーも心配するよね。主は顔を上げて

「いや、自分の至らなさに落胆していた」

 ますたーは少し思案顔で

「ガンダロフが至らないというところは私にはさっぱりわからない」

と言うと主の隣に座り、水を二つ用意してそれぞれの前に置く。


 ますたーとしては、主が一緒に居なかったら今頃ここは穴だらけか火の海かっていう状態になっててもおかしくない、と言う。

「本来の私はかなり衝動的だと思う。たぶん」

「それはたま々俺が傍にいたってだけで。他の誰かだったとしても…同じように……」

「ならない」

 ますたーは短い言葉で静かに断言した。

「『私』を形作ったのは、ガンダロフだよ?呼び戻してくれたんだよね、その……キスで」


 ますたーの頬が赤く染まる。湯上がり直後より茹だっているみたい。だけど『私』を形作ったのは主だ、ってどういうこと?主は『ちょっと何言ってるかわからない』って顔してる。


 ますたーの説明によると、主が必死に呼び戻したのは『はじめまして』と挨拶した『依り代』ではなく、その記憶を持った『私』だと。ますたー自身もさっき気付いたそうで。


「せっかく呼び戻してもらったのに、中身が違う人に…私になってしまってたの。ごめんなさい」

 ますたー、すっかり俯いてしまった。主は、はぁ~、と息を吐くと俯くますたーを膝の上に乗せて優しく抱き締める。


「俺からみれば、中身が違うとは全く気付かなかったし、今、いわれてもピンとこない。それに、その、俺の口づけで目覚めた後からの君が益々かわいくて愛しくて、今更違うと言われたところでそんなこと関係なく好きなんだが」


 うん、主だったらそう言うと思った。デロデロだもの。だからますたー、そろそろ主のことどう感じているのか、じっくり考えるのもいいんじゃない?


 今度は主がお風呂。ますたーは水を飲んで気持ちを落ち着かせてる。あ、ますたー、剣の存在に気が付いた!

「最初からいた?」

『いたよ~』

「随分と大人しかったね。というより、口挟めないかぁ。ガンダロフは何に落ち込んでたの?」

『わかんな~い。主ねぇ、ますたーのことが好き過ぎるって言ってたかも』

「あるじ……ガンダロフが主で私がマスター?」

『うん、ご主人様が主で、主のかわいい人がますたー』

 ますたー、なんか遠い目をしてる。


「剣ちゃん、『幸せ』って、わかる?」

『?『幸せ』?気持ちいいこと?』

「う~ん、気持ち良いのかな?悪くはないと思うけど。私もね、よくわからないんだ、実は」


 そしてますたー、妙なこと訊いてきた。

「剣ちゃん」

『なになに~?』

「ガンダロフって、何故ことある毎に私のこと抱き締めたりお膝抱っこしたりするのかなぁ」

『ますたーが主のかわいい人だから』

「かわいい人……抱き締める……庇護欲を感じている……私、ガンダロフに子どものように思われているの?」

『えっ』

「剣ちゃんも言うなれば子どもみたいなものだよね」

『えぇっ』

「剣ちゃんって、お姉ちゃん?」

『いや、違うぅ』

「そっか、性別ないんだもんね。じゃあお兄ちゃん?どっちが良いかなぁ」

『どちらも違う』

「先に産まれたの、剣ちゃんだよね?」

『そおいう問題じゃない』

「そおいう……?」

 ますたー、迷子みたいにオロオロしてる。


「私にとってガンダロフと剣ちゃんは大事で大切な存在なの。家族みたいに。でも、少なくとも剣ちゃんはそう思ってはいない?」

『剣は……主とますたーが大事で大切な存在。家族みたいに。でも、お兄ちゃんとか決めなくても、大事で大切な存在だよ』


 剣の気持ち、伝わったかな?ますたーは剣を抱き締めてする。

「ありがとう、剣ちゃん。大好きだよ」

『それ、主に言ったら喜ぶよ』

「そうかな」

『そうだよ』

「そうかぁ……」

 ……ますたー、剣のこと抱えたまま、寝ちゃった。すっごく疲れてたんだね。考えが明後日の方へ行く程に。




 お風呂から戻った主は剣抱えてソファで爆睡するますたーを見て、凄く優しい笑顔。

「今日はよく頑張った。剣もお疲れ様」


 主もお疲れ様。明日も頑張ろうね。

 剣は控えめにほわっと光った。



 ─了─

 読了、ありがとうございます。

 <(_ _)>

 面白い、興味深いと思われた方は是非スクロールバーを下げていった先にある広告下の☆☆☆☆☆に評価やブックマーク、いいね感想等ぜひ願いします。

 この短編は連載中の二作品を剣視点でまとめたものです。

ますたー視点『此処は誰かの夢の中。』~18話

https://ncode.syosetu.com/n9806id/

主視点『聖者のお勤め』~20話

https://ncode.syosetu.com/n9170if/

です。

 ご一読していただけたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ