蝶との羽ばたき弐
出逢えたのは良かったのだが…その幼虫は秘密を持っていた。その幼虫は余所の幼虫とも関係を持っていたのである。ただ蟲にも、とある秘密があった。蟲には生殖能力が無かったのだ。生物なら本来持っているであろう能力がすっぽりと抜け落ちていたのだ。蟲にとって、【蝶になる事】それこそが総てだった。蝶は幸せな家庭を築く事に夢中になる生物なのだと聞いた覚えがあった蟲は、家族と云うモノを築いてみたいと渇望するようになっていたのである。ならば子供がいる方が家族らしいのだろうと考え、あえて浮気を見過ごす事にしたのだった。蟲からしたら、その幼虫は好条件以外の何物でもなかった。何故なら、その幼虫が托卵する事を計画している様に見えていたからだった。やがて蟲の思惑通りに、幼虫は余所の種を受け入れて子を成した。蟲は、それからと云うものその幼虫に自らの精液をぶちまけた。回数を増やす為、回転率を上げる為、性行為そのものの時間を短縮していったのだ。出来るだけ多くの精液を幼虫の胎内に満たさなければならなかったのである。蟲の1部であった精液を幼虫の胎内に注入する事により幼虫の胎内を満たしたのなら、胎内で産まれてくる子供に、蟲の遺伝子を混成させられるのではないかとー思い耽っていたからだ。そして、待ち望んだ子供が、この世界に産まれた。漸く、蟲は、蝶になる為の【自分の遺伝子を混成した子供】を手に入れたのだった。