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蝶との羽ばたき壱


此れは自分が何者であるか解らなかった蟲の物語。蟲は、息苦しさで目覚めた。呼吸する事が困難だと気付いたのはその後である。何事かと己の身体を見渡すと、金属の鎖が首を絞めている。その金属の鎖は踠けば踠く程に首の肉を絞めていった。足を使い殻を蹴飛ばすものの、その卵の殻には、ひびすら入らない。それはまるで神様に誕生する事を拒まれているかの様に蟲は感じたのだった。意識が薄れていく中、蟲は全身に渾身の力を込めた。首に鎖が絡む状態で力を込めた蟲の顔面は青紫に膨張し、およそ蟲とは思えぬ形になった。その時、漸く卵の殻が割れ外の世界へと産み出されたのだ。外の世界へ産み出されたのと同時に母親らしき蟲の声が響いた。「ごめんなさい、貴方…。」どうやらそれは父親と思われる蟲に対して放った言葉らしかった。念願だった我が子が蟲ではなく化け物だった事への自責の念が口から零れたのだろう…。その蟲は物心がついた時、あることに気が付いた。他の蟲に触れると云う行為に嫌悪感がある事だった。指先で触れても。掌で触れても。皮膚が触れるだけでも。生命の温度が此方に流れてくる事がどうしようもなく厭だったのだ。初めて、手を握った時も…初めて口付けをした時も…違和感が身体に纏わり付いた。生命の温度が蟲に侵蝕する度に、蟲が蟲で無くなる。そんな感覚で満たされた。そしてその生命の温度が… 心と云われるモノだと気付くと…尚更に厭になった。ふと蟲は青空を見上げた。その時、1匹の蝶が視界に入った。鮮やかな色彩に彩られた羽を優雅に羽ばたかすその姿に、蟲は憧れにも似た感情を覚えたのだった。自分が何者か解らなかった蟲は考えた。つがいとは、同じ種族の組み合わせを指す。それならば、蝶とつがいになれたのなら自分も蝶になれるのではないのかとー下らぬ妄想を抱く様になっていった。それ以降、蟲は蝶を演じる演者になったのだった。蟲はやがて、蝶に扮して成り切った。その成果もあって蝶に成るであろう幼虫に出逢ったのだった。

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