第40話クズな三連星6 赤の一等星上
ゆっくりとした足取りで試合会場まで歩いて来るのは、馬鹿三連星……もとい。【魔剣士三連星】と名乗る。某、宇宙世紀公国の三連星を彷彿とさせる名称の最後の一人である。
雄獅子のたてがみのような真っ赤な炎髪に、巌のような巨躯を持った男で、籠手を始めとした鎧を着込んでいる。
先ほどまで戦って来た四人とは、存在感の密度がまるで違い。
学園最強の魔剣士ではない。と、知っていても畏怖と敬意に近い感情を覚える。
――――とは言っても、控室に忍び込んで、部屋の備品と刀剣を荒らして行った不良集団の最後の一人。面白半分か、反クローリー家の策略かは知らないが俺相手にぶつけてくる魔剣士だ。油断できる相手ではない。
得物は、腰に下げた剣と、彼の巨漢を持ってしても、腰に帯刀する事は出来ず。麻紐と革製のベルトを使い。鞘を背中に括りつけている。
その剣は、鍔や柄の長さを見る限り、長剣ををそのまま巨大化したようなもので、恐らくは両手剣やそれに類する物だと思われる。
大きく開くように展開された。「鍔」には、銅細工のような美しい装飾が施されており、それでいて実用性を損なわない作り手の工夫を感じる。そしてその「鍔」は持ち手として使えるような「環状の金具」が付いており、取り回しがしやすいように工夫されている。
「うちの者を降すとは、流石は近代魔剣士の始祖たるクローリー家の魔剣士だ」
唸るような低い声だが、不思議と聞き取りやすい。
だが絶対強者のオーラを感じさせる。
「光栄です。先輩」
「東は! ダリル・ゴドム・ハーケン! 対する西はアーノルド・フォン・クローリー! 両者互いに卑怯な手段を用いないことを国王陛下及び神に誓うモノとする……」
審判役の教師が決まり文句を口にする。
審判役の教師の手刀が振り下ろされると同時に、互いに構えをとる。
「ぬんっ!」
ダリルは腰に背負った。両手剣を鞘から引き抜くと、腰を低く落し、中段に構える。
対する俺は、剣を抜かず半身をとって腰だめに構えたのままと、両者全く違う構えだ。
刀身を見て初めて気が付いた。あれはクレイモアと呼ばれるスコットランド人が用いた剣ではなく、大陸特に傭兵国家スイスやスイス人傭兵を雇ったイタリア諸国で用いられた。ツヴァイハンダーと呼ばれる両手剣だ。
ツヴァイハンダーの特徴は、鍔の先にあるリカッソと呼ばれる。刃の無い刀身――――第二の柄が存在する事だ。もちろんリカッソの先には、受け流し鉤と呼ばれる第二の鍔が存在し、通常時はそこで相手の剣を絡めとり受け流し反撃するための道具になり、また槍のように刺突に用いる際には、鍔になりつつ手が滑って斬らないようにする安全装置になる。
まるで長く歩兵戦では使いずらかった。野太刀、大太刀が改良され、持ち手が長くなった 中巻や長巻そして刀に至る。刀剣の進化の歴史である大→小の流れを逆にしているみたいだ。
……そんな事を考えている間に審判が俺達を見て、試合開始の合図を出す時を伺っている。
「試合開始!」
両手剣を用いた剣術はこの世界ではあまり一般的ではなく、魔剣士の多くが濶剣を用いる。
カットラスやシミター、細剣、ツヴァイハンダー、長剣、両手剣などの剣は使用者が極端に少なくなる。
どういった剣術を用いるのか? と言う概要を知っていても戦った経験が一度もない事が多いのは、そう言った理由があるからだ。
長剣と同様にツヴァイハンダーは威力、射程ともに他の剣を超えるが欠点も存在する。それは重量と小回りの利かなさである。長いという事は、十分な速度に加速するまでに時間がかかるという事だ。懐に潜りこんでしまえば、長剣戦の時のように、出来る事は無くなるのだ。
俺は【瞬歩】を使い。魔力を足の裏に集めて、爆発させるように地面を蹴り出した。
ドン! と言う。音を立てて化粧板の石材を割りながら、ダリルへ向けて距離を詰める。
対するダリルは【瞬歩】を使わずに、俺の攻撃を返すつもりのようだ。
(面白い! 最速でお前の防御魔術を削り切ってやる!)
鯉口を切り、鞘から刀を走らせた刃がダリルに当たる瞬間。ダリルの腕が微かに動くと、まるで顔面を殴られたような、鈍い衝撃が俺の頬に響き顔が右を向いた。
(なんだ? この衝撃は? ま、不味い! 何か来る……)
そう直観的に感じた俺は、風精霊の加護を発動させつつ受け身の姿勢を取る。
刹那。
腹に鈍い衝撃が走り、俺は後方。数メートル先へ、吹き飛ばされる。
幸い。受け身を取っていたお陰で直ぐに起き上がる事が出来た。




