第36話クズな三連星2 青の三等星中
「東は! ナイジュル・シメオン・オットー! 対する西はアーノルド・フォン・クローリー! 両者互いに卑怯な手段を用いないことを国王陛下及び神に誓うモノとする……」
審判役の教師が決まり文句を口にする。
審判役の教師の手刀が振り下ろされると同時に、互いに構えをとる。
対するナイジュルは八相の構え。俺は剣を抜かず半身をとって腰だめに構えた。構えと、両者全く違う構えだ。
相手の構えから察するに、見かけ通り攻撃的な剣術を好むようだ。
「試合開始!」
値踏みするような表情が、嗜虐的な好奇心を孕んだ何とも形容しがたい下衆の表情に変わる。
男の体から滲み出る殺気を感じて、俺は重心を低くし相手の初撃に備える。
(……来るっ!)
男が、大地を蹴って猛然と加速した。
ザッ!
先ほどまで相手にしていた。【瞬歩】使いたちと比べても、なんら遜色はない。ゴリラ以上イケメン以下と言った所だろうか? 俺の【瞬歩】は既に披露しているが、俯瞰視点で上から見下ろすのと、実際に刃を交えながら実感するのとでは訳が違う。
折角なら予備の【魔杖剣】と勘違いされ、過小評価してくれたままの方が戦いやすい。【瞬歩】は限界まで使うのは、止めておこう……
振り下ろされた長剣は、人道的断頭台の三日月刃の如き迷いのない。素早い軌跡で俺を襲う。それは見事な袈裟斬りだった。
魔術によって補助・強化された体と剣から放たれる。その斬撃の威力は、おそらく鉄製の板金鎧ですら容易に引き裂くレベルだ。真面に食らってしまえば、学園から支給された革鎧の防御魔術程度なら、余裕で消し飛んでしまう威力だ。
長剣の斬撃を完全に見切り、紙一重で左へ旋回するように回避すると、逆袈裟斬りをされる前に、相手側に踏み込み距離を詰め、長剣を振る腕をブロックするように、反撃に打って出る。
長剣は威力、射程ともに濶剣を超えるが欠点も存在する。それは重量と小回りの利かなさである。長いという事は、十分な速度に加速するまでに時間がかかるという事だ。俺のように懐に潜りこんでしまえば、長剣で出来る事はない。
(今だ!)
攻撃をすかさした。直後のナイジェルの右腕と、がら空きの右半身へ、肉薄するほど接近すると、刀を鞘から走らせる。
ブン!
神速の一閃が鞘から放たれた。
魔術による身体能力の強化と、純粋な技術により視認が不可能なレベルの速度で横薙ぎが放たれる。
カン!
甲高い金属音を立てて、愛刀・流櫻の一刀目が防がれ、弾かれる。
弾いたのは、防御魔術だった。魔力を帯びた武器と即座に展開された防御魔術の衝突が、魔力干渉光の閃光を撒き散らす。
パリン!
一刀目で相手の防御魔術を砕く事には成功したが、二刀目を振り当てさせてくれるほどの猶予はない。
(ならばっ!)
俺は左手に魔力を込めて、がら空きの腹を狙う!
狙いは相手も同じようで右足から、蹴りが放たれる。が、俺の拳とぶつかる事で、意図しない膝蹴りになってしまう。
「――――チっ!」
「っ――――ッ!」
ナイジェルは不発に終わった。右足を刺すように左脚後方へ卸すと、追い打ちとばかりに逆袈裟斬りを放つ。
ビュン!
中段に構えていたお陰で、ハンパな姿勢から放たれた逆袈裟斬りなど、切っ先の運動だけで受け流す事が出来る。
カン!
俺の流櫻に弾かれると、即座に左足を擦るようにして、右足と同じラインまで足を下げ、刀を立てて頭の右手側に寄せ、左足を前に出して構える【八相の構え】を取り、追撃に備える。
こちらも基本である。構えを崩した姿勢で攻めるほど、勇猛果敢ではない。【瞬歩】で後方へ飛びながら鞘へ剣を修めて、足をハの字にしてやや前後に開くと、半身をとって腰だめに構える。鞘は胴の横に付く程密着している。
「初撃の構えと言い俺を……いや。俺たち【魔剣士三連星】ナメてんのか?」
コイツには、これが構えの一種である。と、考える事が出来るほどの頭脳が無いのだろうか?
「だから【魔剣士三連星】とやらを元々知らんのだから、馬鹿にする。しない。以前の問題だ。
まぁお前程度なら、剣を鞘に納めた状態からでも倒せると言ってるんだ。卑怯者にはこれぐらいのハンデを上げないと、流石に可哀想だからねぇ~~」
態々そう言う戦い方があると、この愚か者に教えてやる義理も必要もない。
ならば、無駄にプライドを持っているような相手のプライドを汚し、怒らせるぐらい煽ってやっ方が無駄に頭を働かせ、予想外の行動をされるよりは戦いやすい。




