第34話昇級戦・次戦下
「あれ? 今のは完全に決まったと思ったんだけど……アーノルド君。君まだま実力を隠しているみたいだね」
「そう見えますか?」
「今まで僕はアーノルド君の事を近接型の魔剣士だと思っていた。これは僕以外の人間もそうだろう。だが君は好んで火球や空気弾を撃っているのに魔力切れを起こしていない。僕ら近接型の魔剣士は並列処理が出来なかったり、魔力量が少ないなどの理由で他の事へ魔力を回す余力がないんだ。だけど君からはそう言った苦しさが見えない。アーノルド君。君本当は遠距離型の魔剣士なんじゃないのか?」
うーん。ドヤ顔で考察をされている所申し訳ないのだが、魔力量の多さは結婚により魔力量を増やして来たからで、クローリー家全体に言える事柄だ。
「……」
「沈黙は肯定と受け取る。カタナ……だったか? お前本来の得物を使え!」
嫌だね。使うとしても汎用性に欠ける抜刀術だけだ。それに何度も見せてしまえば手品のようにタネが割れてしまう。
まぁタネは分かったところで問題が少ないからこそ抜刀術だけを使っているのだ。
「先輩のご期待にお応えしてこっちから攻めてあげましょう! お喋りが好きなら、今度カフェテリアでケーキでも食べながら語りましょう!」
宣言通りこちらから攻めてあげる。
【瞬歩】で接近し袈裟斬り、逆袈裟、薙ぎ払い、の連続攻撃を挨拶代わりに叩きこむ。
しかし、マイケルも持ち前の速さを武器に俺の攻撃を見切って、逆袈裟、袈裟斬り、薙ぎ払いと打ち返して防ぐ。
白刃同士が力強くぶつかり合い火花が舞う。
「ぐっ――――!」
うめき声をあげたのはマイケルだった。
マイケルは形成不利と悟り、後方へ【瞬歩】を使って飛び退く。
着地や次の動作を考えていない全力の跳躍。まるで、発射された砲弾のようだ。
安心したのか強張っていた表情が緩むだが――――その行動を俺は読んでいた。
「それは悪手でしょ? せんぱい」
俺は、空気弾と火球を7対3程の割合で全ての魔術リソースを割いて放つ。
空気弾に火球が命中し爆発が起こると爆発は連鎖的に起こって行く。
「なっ――――!」
まるで機関銃のように、絶え間なく発射される爆発の嵐の中を防御魔術で身を守りながら空中浮遊し、接近しなければ攻撃できないハンデを背負った近接型の先輩には同情を禁じ得ない。
「さぁ! 先輩この砲弾のような疑似爆炎魔術の豪雨の中を鈍亀のように防御魔術を張って生き残るか! 降参するか! 一矢報いる為に立ち向かうか選ぶといい!」
声を届かせるためリソースの一部を風系統魔術の一つ【拡声】に振り分け強気な宣言をする。
悪役ムーブには丁度いい機会だ。
黒煙と土煙が酷くなって来たので攻撃を一度中断する。アラームが鳴っていないので、まだ鎧の魔術防御は残っているようだが、煙幕には十分だろう……
窮鼠猫を噛むと言う諺がある。速さ以外で特徴のないマイケルが追い詰められた時には、どのような反応を示すのだろう……
風に揺蕩う煙幕が不自然に膨らんだ事に気が付いた。
(来る――――ッ!!)
俺は剣を構え防御の姿勢を取る。
――――が、マイケル先輩は予想外の場所から現れた。
「フェイクか!」
煙の中を突き破って来たのは、空気弾だった。
空気弾を風精霊の加護で受けると、目端に映った膨らんだ煙幕に気が付いた。
「その通り! 僕ら近接型の魔剣士だって魔術を使えない訳じゃない!!」
大きく振りかぶった剣を振った濶剣に目を奪われ咄嗟に、迎え撃つかたちで逆袈裟斬りを放つ。
「面白い! 久しぶりに心躍る戦いを楽しめそうだっ!」
ギィィィィィン! と言う金属同士がぶつかる音が響きわたる。
「お返しだ微細」
魔力を瞬間的に集め強化した拳で俺の腹を殴った。
「ぐっ!」
魔力は基本的に体に留める事で身体能力を上昇させる。【瞬歩】やマイケルが拳に魔力を集めたように、偏らせる事でより威力能力を向上させることが出来る。
現に俺の皮鎧の残り防御魔術は、四割程度と中々減っている。
もう我慢できない。刀を使って戦いたい。
「お見事です! ならば俺も先輩のご要望にお応えして刀を抜きましょう! 死なないでくださいね?」
先輩は亀の様に多重に対物理防御魔術を発動させる。
俺は足をハの字にしてやや前後に開くと、半身をとって腰だめに構え、掴んだ鞘は胴の横に付く程密着している。
刹那。
雷光の如き鋭く素早い一閃が放たれる。視認が不可能なレベルで繰り出された一振りが、ヒュルヒュルと言う風切り音を置き去りにして、マイケル先輩の物理防御魔術を砕いていく――――
不味い。このままだと殺してしまう。
その事実に気が付いて無理やり剣を止める。
最後の防御魔術を削り切り、皮鎧と鎧下それにそのしたの下着、肌が斬れ血がじんわりと滲んだところで刀がピタリと止まった。
その瞬間。ビーと言う音が鳴り勝者が確定する。
「そこまで! 勝者! アーノルド・フォン・クローリー! 対するマイケル・フォン・スパロウ君は下がりなさい。両者の健闘に拍手を!」
審判の宣言で俺の勝利が周知される。だが、俺がまいた煙幕によって観客席からは何が起こったのかは一切見えていないハズだ。
俺は不満げな観客の視線を浴びながら一度控室に下がった。




