第31話昇級戦・初戦中
「東はジャックソン・フォン・ナッシ! 対する西はアーノルド・フォン・クローリー! 両者互いに卑怯な手段を用いないことを国王陛下及び神に誓うモノとする……」
審判役の教師が決まり文句を口にする。
まるで決闘みたいだ。 胸が高鳴る。
イーリアスで語られる兜煌めくヘクトールと、俊足のアキレウスなどの英雄同士の対戦は、胸が熱くなるものがあるが……この見るからに雑魚と俺の戦いが、その偉業に並ぶとは到底思えない。
……が、練習ぐらいにはなるだろう……
「試合開始!!」
審判役の教師の手刀が振り下ろされると同時に、互いに抜剣する。
俺も相手も互いの得物は濶剣。
みすみす俺本来の戦闘スタイルを大勢の前で晒してやる必要ない。
前回は、不意を突かれたので愛刀である魔杖刀・流櫻を抜いてしまったが、この程度の相手でこちらの手札を見せてやるほど俺は程度の低い男ではない。
鎧が発生させる防御魔術を削り切った方が勝ち。
と言う極めた単純なルールだがそれが奥深い。
相手は右手だけで剣を持ち大振りに構える。
(防御を捨ているのか……本来は盾を持つ流派なのか……気にしていても仕方がない先ずは相手の攻撃を往なし、捌きつつ様子を見るか……)
体重の乗った大振りの袈裟斬りが放たれる。
「――――危ね!」
ひらりと身を翻し華麗に除けたハズだった……。
次の瞬間衝撃が走り、俺の防御魔術が三割ほど削られている。
俺は考えるよりも先に、後方へ飛び退いて態勢を立て直す事にした。
(何が起こった?)
通常右手で袈裟斬りを行う場合。右上から左下に斬り下ろす斬撃になるハズなのだが、コイツの攻撃は変則的だった。
右手で剣を持っているのに手首をスナップさせ、左上から右下に斬り下ろすと言う剣術の常識を破壊する攻撃だったのだ。
なるほど……今は完全に理解した。
奴が行ったのは【瞬歩】と言うこの世界の武芸技術による。短距離高速移動術で……その加速力と彼自身の体を砲弾として使った「殺人タックル」と言った所か……それにしても彼の防御魔術が、全くと言っていいほど削れていないのは、恐らく試合開始から発動していた。局所的な魔術のお陰だろう……
今の一撃で奴がどういう戦い方をする魔剣士かは理解できた。
「良いタックルでした。しかし、通用するのは一度目だけです。
二度目は通用しないな……」
剣を中段から上段に構え攻撃の意思を示す。
「――――ちぇ! 腐ってもクローリー家の魔剣士か……俺の必殺技の仕組みを理解しやがったか!!」
最初は相手に試合の主導権を持っていかれたけど、相手の戦術を見破る事までは出来た。これだけでも相当な精神的負荷をかける事が出来る。
この勝負貰った!!
「――――なーんてね。今のタックルは本気じゃなェ。ワザと見切れるレベルで打ってやったんだ。今から見せるのが俺の流派! マンチェスター闘牛流の神髄だァ!!」
そう叫びながら左半身を盾にしながら、凄まじい速度で突進してくる。
闘牛流は重装騎士を主軸にした密集陣形で用いられてきた戦場剣術を、改良・発展させた近代魔術を合せた剣術で、高いレベルの足捌きや体捌きをを求めない。
盾を構え突進し、盾で相手の攻撃を受け、一撃必殺の剛剣で相手を撲殺する事を目的にした地味で堅実な流派のハズなんだが……一対一と言う制約の中で先輩が出した結論は……防御魔術を盾にしながら突っ込んで来ると言う単純明快な戦法!
突進攻撃を躱したり受けたとしても、次の手である剛剣に対処しなければならない。
新選組の局長である近藤勇はこう言ったと伝えられている……「薩摩者の初太刀は外せ」と。
この場合の薩摩者と言うのは、当時薩摩で流行っていた示現流や、その派生流派である薬丸自顕流等の事を言う。その剛剣ぶりから「二ノ太刀要らず」や「受けた刀ごと相手を斬った」と伝わっている。
当時の日本やこの国でもそうだが剣術が武士道教育……この国では貴族教育の一環になってしまい、技術よりも精神論を解いている。その中でも生き残った数少ない実践剣術が、天然理心流や示現流であり、この国で言えば闘牛流なのだ。
今の俺の状況は、二ノ太刀要らずで刀ごと相手を斬る剛剣の必殺技を二連続で放たれているようなものだ。
なんだこのクソゲーは……
相手は間違いなく近接攻撃しか出来ない近接攻撃型。《《今のまま相手の受ければ》》初撃は防御できても、二撃目を完璧に防ぎきる自信はない。
だから先ずは下ごしらえから始める。




