第30話昇級戦・初戦上
幾ら授業が免除されるとは言っても、授業に出ない訳にはいかない。
そして今日は月に一度行われる真剣を用いた打ち合い稽古で、勝敗・及びその勝負内容によってクラスが上がるか落ちるかを見定める試験の日。
この日ばかりは、普段授業に出なくてもいい俺でも学校に行き成果を見せなければいけないのだ。
これが正直に言って面倒くさい。
学年問わず剣術と言う一つの尺度で図られるため、上級生と下級生が同じ教室に集う事は珍しくないのだが………自分以外全員上級生と言う完全アウェイで戦わなくてはいけない。
オマケに上の兄達が散々やらかしているお陰で、俺を目の敵にしている奴らは多いのだ。
『悪役公子』と言うよく考えたら意味わかんない仇名も、上級生たちが付けたらしい。
全く嫌になる。
俺は好きで学園に通っている訳でないのに……卒業しなければ就職できないから通っているだけだし、婚活目的の奴も居るけど魔術科の女共の多くは、コルセットを巻いて体型を誤魔化しているだけと聞いている。
だれが好き好んで化粧臭いボンレスハムを抱くかよ……
全く気が滅入りそうだ……
古代ローマの円形闘技場に似た建物で試験が行われる。現在同時進行で幾つも試合が行われており、最上位クラスの俺は自分の出番が来るまで暇で仕方がなかったが、ようやく出番が回って来た。
控室で着替えを済ませ、魔術が刻印された革鎧を着る。この学校の体操服みたいなものだ。
脛当て、籠手、と言った防具を身に纏う。さながら合戦に赴く兵士の様な装いだ。
モンスター相手にさえ、防具を付けていない俺からすれば過剰な防具だと感じる。
そのままだと少し寒いので、試合までは上からコートを羽織る。
前世の中学高校では、何故か教師だけ体育の間コートを着ていて理不尽だと騒いだものだ。あのクリ〇松村+修〇擬きめ……見せつける様に着やがって……
控室を出ると、そこに居たのはミナだった。
「――――っ! もう遅いじゃない! アンタにとっては完全にアウェーなんだから、空気に飲まれるんじゃないわよ?」
上からコートを着ているものの、耳の頭や手の指先が赤くしもやけになっている。
(……なんだか悪い事をした気分になるじゃないか……)
「私だけはアンタを応援するわ! 絶対に勝ちなさい! みんな面白がってアンタを悪者にしている。私にはそれが私は許せないのよ……」
「じゃぁ俺に賭けしなよ。紅椿の代金は任せるって言ってしまったからね……俺もあそこまで名作になるとは思っていなかったし」
「それもそうね。試合が開始するまで実行委員会は賭けを受け付けているものね。折角の機会だから稼がせてもらうわ」
俺は冗談を言い合うと「そろそろ試合だから……」そう言って闘技場への道を進んでいった。
上級クラスともなれば同時に行われる試合数は減り、教師も生徒も最上位クラスの生徒の力量を目を凝らして注視している。
「広いな……」
上の階段状になった座席から見ている時には気が付かなかった。上を見上げると少し足元が寒くなるような感覚がする。
そんな中でも容赦のない歓声が巻き起こる。
俺自身は何もしていないと言うのに、全ては上三人がやらかしたせいだ。
次に顔を合わせた時には絶対に文句を言ってやる……
俺の様子をみて対戦相手の上級生が、小馬鹿にした様子で声を掛けてくる。
「ブルっちまったかァ? クローリー家の四男!」
チャラいと言うよりは品がない。仮にも貴族やその従者に連なる者として見ても彼には気品の一つさえ感じない。蛮族が綺麗なおべべを着て文明人ぶっている。そういうちぐはぐさを感じるのだ。
「そんな事はないですよ。ただ観客の多さに驚いていただけです。こんな大人数の前で先輩に敗北と言う事実を突きつけるのは少々胸が痛みまして……」
煽られたからには倍にして煽り返す。
慇懃無礼な態度の方が、天然なところも出せるし相手の不快度も上がる。オマケに精神が不安定になれば、大振りの隙の大きい攻撃が多くなる。既に盤外戦の火蓋は切って落とされているのだ。
「ふかすじゃねぇか! 一年ボウズ! 大口叩ける根性だけは褒めてやるが、クローリー四兄弟の最強伝説にこの俺! ジャックソン・フォン・ナッシが終止符を打ってやる!」
ジャックソンと名乗った男の宣言に会場がわっと沸く。
(へー。口調は王都の路地裏や繁華街に生息してるゴロツキと大差ないけど、貴族なのか……田舎貴族か、最近併合されたばかりの封土の子弟かは知らないが随分と人気があるようだ)




