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第27話うちあげ

 客間女中パーラーメイドに案内されて部屋に入って来たのは、幼馴染の少女アルタだった。


「やぁ、依頼されていた濶剣ブロードソードの装飾だけど全部終わったから持ってきたよ。お陰でこの三日間殆ど寝てないよ……」


 ソファーに腰を降ろして、机の上に紅椿を置く。

 

「鞘は指定がなかったからいつも通り、トレントの幹を使ってるから硬くて軽いよ」


 疲れているのかその口調は、どうにも投げやりなものだった。


そう言えば1月7日にある祭りで、忙しいシーズンだったな……


 鞘は白地をベースに朱塗りで椿を描き、黒と金色で全体的な色合いを締めている。キッチリと主張はしつつもそれでいて派手過ぎない絶妙なバランスの彩色だった。


「造りは和洋折衷なんだな……」


 見た目はほぼ完全に、前世のRPGやアクションゲームで見た事の有る濶剣ブロードソードなのだが、つばの見た目は完全に日本のもので、椿の花が彫り込まれている


「そ、だって私本職は宝石細工であってこういう武具の細工を習ったのは、アーノルドの師匠だけよ? 必然的に刀のこしらえ方しか知ら無いモノしょうがないじゃない。でも頑張って似せたのよ?」


 それは椀形鍔わんがたつばと言う。受け皿のような膨らみを持たせた鍔だった。しかも芸が細かく鍔全体が椿の花のような意匠になっているのだ。


つばを実践的かつ芸術的なギリギリのラインに仕上げる仕事は流石だな」


「そうでしょ? でも、直剣の方が楽でいいわね。はばきを作らなくてもいいもの……今回は西洋の剣に寄せるつもりで作ろうと思って最初は藤蔓巻柄ふじつるつかみたいな巻だけ行こうと思ったんだけど……モンスターの皮を張ってその上から糸で巻いた方が、目がスベらなくていいかなと思って糸巻柄いとまきつかの蛇腹組にしたの!」


 糸巻柄というのは、時代劇とかで良く見る糸を巻いた柄の事で、蛇腹組と言うのは縫い方の言い方だ。


「確かにその方が締まって見えるな……」


 俺がそう言うと「でしょでしょ? 誉めて!」と言わんばかりの雰囲気を出す。


「時間も時間だな……アルタ飯でも食べるか……」


「え、いいの!」


 アルタはとても喜んでいる。


「今日はおごってやる。最近見つけた良い店があるんだが……そこへ行かないか?」


 俺はあの焼き肉屋へ行こうと思い彼女を誘う。


「良いけど……どんなところ?」


「肉を焼いて食べる所だ美味いぞ!」


「いいけど、ナプキン借りて行っていい?」


 ソースで服が汚れる事を心配して策を考えたようだ。


「もし汚れる事が心配なら客人用のドレスが余って空いたハズだ。少し流行モードから遅れたものだが、質の良いモノだったと記憶しているが……」


 そう言うと客間女中パーラーメイド達が、洋服を持ってきてくれた。


「凄い丁寧な仕事だけど……いいの借りて……」


 本業は宝石細工の職人だが、アルタは自分の宝石細工をより輝かせるためドレスや紳士服のデザインも行える。デザイン、型紙パターン、縫製その全てが極めて高水準であり、服飾職人としても十分やっていけるだけの腕があるのだ。


 このドレスを見て、その価値に直ぐに気が付けたのは流石と言った所だろう……


「構いはしないよ。全てはこの別宅に備え付けられたモノだからね。ここを本拠地としている間は俺の持ち物だ。文句を言われたら俺が頭を下げればいい」


「アーノルドがそう言ってくれるなら、ありがたく着させていただくわ」 


 オーダーメイドのドレスの中でも比較的地味なドレスを選ぶ。アルタが着替えている間に馬車の手配を掛ける。

 アルタをエスコートして二人で馬車に乗り、「俺達が夕食を食べている間、御者たちも折角の機会だから遠慮せず食べると言い」と一人当たり1万ゼニーを渡し、二時間後に来るように言いつける。


 これで迎えの足も確保する事が出来た。

 

 前世の喫茶店やステーキハウスのような少し小洒落た外見だが、実態は焼き肉屋。気負う必要はない。


「アーノルド様いらっしゃいませ。本日はお連れ様もご一緒でしょうか?」


 並大抵の事では動じない。店主よりも優秀な給仕が、俺の来店に気が付いて駆け寄って来た。


「ああ、古い友人でね。宝石細工や金属細工、被服と手広く手を広げている商人なんだ」


「左様でございますか……」


 給仕は珍しく目を見開いてアルタを見る。


「今日は以前提案した。ディナーセットを食べに来たんだ」


「畏まりました。席へご案内いたします」


 ディナーセットとは言う物のフルコースの様に確りとしたメニューではなく。

 ザワークラウト、牛筋と人参等を煮込んだスープ、バゲット、ハンバーグorステーキ、ワインorビールそして最後に季節の果物。と言う内容にすることで、比較的値段を下げて肉類を提供する事が出来ると言う寸法だ。


「勝手に注文してしまったが、別料金で牛、豚、鳥の肉を注文する事が出来るが……どうする?」


「そうね。どれぐらい量があるか分からないから取りあえずアーノルドが注文したディナーセットで問題ないわ。私の慰労でここを紹介するんだから期待してるわよ」


 ――――と発破をかけられる。

 が、店長の努力と前世の知識が融合したメニューには敗北したようで大満足でワインを3本開けてしまった。

 泥酔状態のアルタを見捨てられず。屋敷の客間へ女中メイドに命じてドレスを脱がせて転がして置いた。


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