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第23話少女の仕事

「――――と啖呵たんかを切ったものの、どうしよう……」


 現在抱えている顧客の注文は、この大陸の宗教行事で一月七日に行われる【降誕祭エピファニー】に向けてのモノが多い。

 贈り物を渡すと言う習慣は、ニッコロと言う海運商人が行った善行が元だと言われており、神殿では太陽の復活を祝う祭りが開催されソレに参加する男女から、宝飾品や服の注文が入っているのだ。


「はぁ」


 自分の仕事量タスクを思い出して気が滅入りそうになるが、今が稼ぎ時だと思って、白無垢の鞘から刀身を抜き放つ。

 息を直接吹きかけない様に、清潔なハンカチを唇で咥える。


 先ず目に飛び込んできたのは見事な刃文はもんだった。

 『乱刃らんば』と言われる。我々が良く目にする波打ったような刃文で、『重花丁子じゅうかちょうじ』と言う、丁子クローブの実の模様が重なって、まるで花弁の様に見える紋様が美しい。

 『ふつ』や『におい』と称される。焼き入れを行なうことによって、より硬くなり粒を吹いた部分も品を感じさせる。


「どんだけ気合入れて作刀してるのよ……」


 アーノルドが作刀した刀剣のほとんど全ては、私が装飾し販売している。アーノルドの剣を見て来た私には分かる。この剣は最上級の出来栄えだと………

 特に作刀本数の少ない両刃直剣……その中でも濶剣ブロードソードとしては異例の作風で、東西の技術の融合まさに文明融合ヘレニズムと言っていい出来栄えだった。


「手になじむような重さね……」

 

 刀身は90㎝と平均的なのだが、濶剣ブロードソードとして見てみると刃の部分は刀の様に薄く、まるで薄氷のような薄さなのだが、手に持つとシッカリとしてた重さを腕に感じ、造りの頑丈さを感じる。


 魔石を使い濶剣ブロードソードに魔力を流して振ってみると、普段剣を振っていないような私でも十分に振り回す事が出来る。


 良く使いこまれた木槌を取り出して、柄のストッパーである目釘を外した。


 正直に言えば悔しい思いだった。


 双頭の白鷲(アルバス・アルバ)も大空を羽ばたく鷲が目撃する。雲海の如き、『湯走り』と言う刃縁から地中に向かって流れ込むような沸や匂が絶妙に連なり合い、雫や白い霧のような斑点模様になっているが魅力的な刀だ。 

 しかし私の双頭の白鷲(アルバス・アルバ)と比べると、明らかに分かるレベルの差。


 否。この剣が異常なのだ。

 神官の中には神霊の言葉を聞ける者がいると言うが、この剣はまさにアーノルドの実力以上に会心の出来と表現しても余り余る作品だ。


 普段手を抜いているつもりはないが、これから数日の間は他の仕事を投げ出してでもこの剣に捧げたい! 捧げる事が出来れば、自分ももう一歩上のステージに上る事が出来るそんな気さえする。


 乙女の心よりも私は、職人マイスターとしてのプライドが上回った。今まで一番最高の装飾を施す! それだけを掲げ三日三晩私はこの恋敵になるかもしれない女の剣に全てを捧げた。


 人間としての尊厳は捨てたが、今までで一番良い出来のモノを作る事が出来た。


「やってやったわ!」


 私は額に浮いた汗を拭う。

 気心の知れた依頼人クライアントとは言え、身だしなみは気を遣わなければならない。一間ず汗を流そうか……とは言っても冬の寒さも本格的になった12月の今。桶に張った水で汗を流す事も考えたが、風邪を引きかねないので、時間はかかるが公衆浴場テルマエ行こうか。


 この町で職人登録さえしていれば格安で入れると聞いている。

 番頭に代金を払うと、更衣室で服を脱ぎ係員に金を渡す。こうしないと、服を盗まれかねないのだ。サンダルを履き浴場へ向かう。先ずは蒸し風呂(サウナ)で汗を流す。

 垢擦り師に金を渡し、香油で肌を擦らせる。肌に良い香りのするオイルを塗り込ませ、角を丸めた木製の肌かきで肌を何度も掻かせる。少し肌が赤らむが汚れが落ち、肌に潤いが宿る気がする……


 ※ 博学の諸兄達は石鹸なって、古代ローマの知識人である大プリニウスの博物誌にも書かれてるぞ! と言われかねないが、待ってほしい18世紀の産業革命まで石鹸は高級品であったのだ。


 そして脱毛もしてもらい。

 お湯も熱い、冷たい、温い、熱いとローテーションする。最後に香油で髪をき整えてから、タオルで水分をしっかりふき取り服を着る。

 時刻は火も暮れかけた頃になっていた。

 

「時間も時間だし、軽く何か食べて行こうかしら……」


 家に帰れば、硬く焼いたバゲットと保存目的のドライフルーツがある。

 

「まぁ、アーノルドの家でご馳走になればいいか……」


 私は一度家に帰り、一張羅の黒いドレスを身に纏い。腰に双頭の白鷲(アルバス・アルバ)佩刀はいとうし、家を出てアーノルドの屋敷へ向かって歩みを進める。




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