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受付嬢は諦めない。~クールなイケメン冒険者にどれだけ塩対応されても毎日好きって言い続けます!  作者: 伊賀海栗


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ギルドの美人受付は恋をしている⑥


 ギルドに飛び込むと、マスターが書類と睨めっこをしていました。目が合うなり立ち上がって、鋭く一言、「どうした」と。


「あの! アネアムの、ナイトさんとテイマーさんは、スタンピードの対応て、あ、受注状況を照会したくて、それで」


「わかった、落ち着け。4秒かけて息吸え、いいか、4、3、2……そうだ」


「……はい、ありがとうございます。えと、未達成のリクエストについて懸念があって戻りました」


 マスターは私の説明を聞きながら未達成のファイルから件の書類を抜き出し、ナイトさんとテイマーさんの受注状況について確認してくれました。

 これでふたりが今回のスタンピード対応に出てくれていたら解決なんです。でも、そうではなかった。現段階で言えることは、このふたりは行方不明ということ。


「どっか旅行にでも行ってるかもしんねぇけどな……っておい、どうした」


 更衣室の扉を開けた私の背にマスターの声。


「様子見て来ます」


「でもお前……。誰か行かせるから無理すんな。あ、ほら、ラビを呼ぶよ」


 マスターはもう冒険者を引退して長く、指導はできても現場には出られません。足を引っ張る側だからです。そもそも、冒険者でなくなったマスターが現場に出たら規律違反となります。

 また、要救助者を抱えながらダンジョン内を動く必要があるので、気力体力、魔術士ならば魔力も……が、ある程度揃っていないと難しい。だからスタンピード対応に従事した冒険者には依頼できないのです。そうすると、他に動ける人はもうおっしゃる通りラビさんしかいませんね。でも。


「待ってる時間が惜しいので」


 こうなったら1分1秒さえ無駄にはできません。最長で4日、彼らは救助を待っているんです。


 更衣室へ入って、ずっと封印していた装備に袖を通していきます。さいごに羽織った魔力伝導率の高いローブの裾には黒くこびりついた血の痕。


 私、3年前にダンジョンで失敗したんです。あの日以前の記憶が曖昧で、正しく覚えてるのは自分が何者であるかってことくらい。あとは、あの日見た血だらけの光景の一部と、失敗したって思ったことだけ。

 いろんな人がパーティーに誘ってくれたんですけど、ダンジョンへ行こうとすると吐いてしまって無理でした。それで、受付の仕事をやらせてもらうようになったんです。


 治癒術士さんから報酬として受け取った魔法スクロールを広げ、内容を確認します。転移先は王都の正門前に指定、転移人数は使用者を含むふたりまで。

 くるくると丸めて、ラビさんと同じ型の空間拡張術式の付与された鞄にしまいました。


 更衣室から出ると、メッセンジャーボーイがギルドを出て行くところでした。ボーイって年齢じゃないけど。恐らく、ラビさんへ使いを出したのだと思います。


「……他に動けそうな奴がいないか探すから、無理はすんなよ」


「はい、まずは状況確認だけ。どっちみち、2名の救助をひとりで行うのはちょっと大変だし」


「だな。それに――」


 マスターは最後まで言いませんでしたが、言いたいことはわかります。

 最大で4日ですから。生きてるわけないっていうのが本音なんです。生きてるはずないからゆっくりでいい、というわけにもいきませんから急ぐけど。


「自分優先だ」


「はい。行ってきます」


 まだ何か言いたそうにするマスター。いつもなら茶化すんでしょうけど、今の私にそんな余裕はありません。あああもううう! 気づかなければよかった!


 持っていけとマスターから渡された回復薬やお水を鞄に放り込んで、出発です。移動にはギルドの馬を借りました。

 月も星も雲に隠れた静かな夜、馬の足音ばかりが響きます。


 城門を出て東へ東へ。ハザン宿舎旧館の近辺では、王都の兵士が警備にあたっているのが見えました。もちろん片付けもまだ終わっていないようで、壊れた武具がそこかしこに落ちています。


 胃がキリキリと痛むのに気づかない振りをして、さらに馬を走らせます。川を渡ったところで砦のようなものが見えてきました。

 速度を落として、周囲を注意深く観察しながら進みます。大丈夫、外に高レベルのモンスターはいないみたい。


 馬を木に繋いで魔物避けの効果がある火を焚いて。繰り返しやってきたことって、覚えてるものなんですね……。

 まずは砦の周囲を見回ろうかと鞄から(スタッフ)を取り出したとき、「チチチ」と小動物の鳴き声が聞こえてきました。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 記憶が曖昧? なるほど……そういうことか。 前回のチャームは……。 きっとラビと何か……。 >あああもううう! 気づかなければよかった! ……って思いながら救助に向かってしまうフィリー…
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