ギルドの美人受付は恋をしている②
うー。昨夜はちょっとだけ飲み過ぎました。飲んだくれてやるって言って本当に飲んだくれる年頃の娘がいますか……いました……。
身体に残ったアルコールは汗にして飛ばしてしまおうと思います。というわけで、やってまいりました冒険者ギルド。施設内サービスは食事や医療など多岐にわたり、冒険者しか利用できない代わりにとってもお手頃価格なのです。
サービスのひとつである訓練場はいくつかのフロアに分かれていて、特にすごいのが魔術士用フロア。かなり高度な魔法障壁が組み込まれていて、ランクSおよび、ランクAの一部を除きすべての魔術士が好きなだけ魔法を撃てます。建物が壊れない。すごい。
訓練場のある地下に降り、ドアに登録証をかざしました。
――フィリーネ・ユピ・クィン。ランクB。
空中に浮かんだ文字は私の名前と冒険者ランクですね。Bです。Sが国内に5人しかいないことを考えれば、なかなかの腕前でしょう?
今でこそ受付嬢なんてやってますけど、3年前まではそこそこ名の知れた魔術士で……まぁそんなことはいいですね。
室内には何名かの冒険者がいました。
「おー、フィリーネさん珍しいスねー」
「えっ……フィリーネさんて冒険者だったの?」
若い世代では私が冒険者だということを知らない人も少なくありません。
3年もあれば、顔ぶれも結構変わるものなんです。命がけの仕事ですからね。死んでしまったり、引退せざるを得ないほどの重傷を負ったり。あとは、精神的なあれこれで続けられなくなったり、ね。
「昔はぶいぶい言わせてたんですけどね!」
そう言って鏡の前でストレッチ開始です。私のことを知らない人の前ではなんだか動きづらくて、ゆっくりゆっくりストレッチ。
うーん。ふわふわの金髪もまつ毛バッサーな杏色の目も桜色の小さい唇も、我ながら最高に可愛いと思うんですけど。ラビさんの好みじゃないのかなぁーもー。
扉が開いて、昔馴染みの治癒術士が顔を覗かせました。
「あーよかった、いたいたフィリーネちゃん。スクロール書いてくれないかなぁ。報酬はラビさんが使ったマグカ――」
「任せて!」
スクロールというのは、魔法を保持した巻物のことです。魔法職でなくとも魔法を使うことができる便利なアイテムなんですよ。ただし、スクロールを書けるほどの魔術士は普通、仲間以外に用意しませんから。入手するのは大変なんです。
治癒術士さんは魔法職ですけど、攻撃魔法はあまり使えません。なので敵に囲まれたときの切り札としてスクロールを用意しておくのが一般的ですね。
無地スクロールも専用のインクも彼女が持って来ているので、その場でちゃちゃっと書いてしまいましょう。
他の冒険者たちも集まって、私の作業を見守ります。
「えっ……フィリーネさんてスクロール書けるの?」
「ぼくもフィリーネさんのスクロール欲しいス……でもお金ないいい」
「フィリーネちゃんいつラビさん諦めんの」
「そんな日は永遠にきませんー」
どさくさに紛れてラビさんの話題を振るとは不届き者め。せっかく寂しいの誤魔化せてたのにぃ!
この場に女性が多かったせいか、恋バナが始まりました。ラビさんの素顔を知る人はやっぱりラビさん推しみたい! だめだめ、同担拒否ですーっ!
なんてキャーキャー言ってたら、また扉が開きました。しかもかなり乱暴に。
「フィリーネ、受付ヘルプ入ってくれ! あとそこで油売ってるやつ、緊急リクエスト頼む!」
ギルドマスターでした。