ギルドの美人受付を愛している③
記憶を取り戻したフィリーネとギルドに戻り後始末を終えると、俺は日を置かずウビム地区に引っ越した。その際にクラーケンのノッカーももちろん持って行ったが、フィリーネにはちょっと嫌な顔をされた。自分の家にこれが付くのはイヤらしい。知らんわ。
アダラードとあの日のことは、3年かけて無意識のうちに消化していたらしい。アダラードの名前を出しても悲しそうな顔をするだけで動揺したりはしなかった。
一緒にダンジョンにも出かけるようになったが、俺から離れるのを極度に嫌がるようになったのはまぁ……俺としては歓迎できるんだが、そうだな、それは徐々に慣らしていこう。
日常を取り戻した俺たちは、アダラードの墓にやって来た。
フィリーネはずいぶん長いこと墓の前で目を閉じて何か言ってる。
「よくもまぁそんなに報告することあるな」
「え、だって。アダラードが大事にしてた犬のマグカップ割っちゃってさ。謝っとかないと、夜とかうなされそうじゃん」
「さすがのアイツもそれじゃ出てこねぇよ」
相変わらずちょっとバ……可愛いかったわ。
まだ謝り足りないのか、再び目を閉じて手を合わせて何か言ってる。俺はその横顔を見つめながら、ポケットから箱を取り出した。
あの日、俺がどうしても欲しくて単独行動した報酬だ。
「フィリーネ、これ」
「ん、なに、これ。え、呪いの指輪じゃないの? 禍々しいんだけど!」
「『とこしえのゆびわ』だ」
「あー、なるほど。なるほどなるほど」
「なんだよ」
とこしえのゆびわは他の呪いのアイテムと同様、強力な効果があるものの一度装備したら神殿でしか外せない。で、肝心の効果というのが……。
フィリーネが呆れたように笑いながら左手を差し出した。
「ラビはほんとに心配性だなーって思って。浮気なんてしないよ?」
「ばか、そっちじゃねぇよ」
「わかってる。……ありがとね」
揃いの指輪をした相手のそばへ転移できる、というのが追加効果だ。代わりに素早さが僅かに下がるのだが。
きっと俺は、この指輪を先に手に入れていたらという後悔とともに生きていくんだろう。だがフィリーネは、これがある限り怖くないと思ってくれるはずだ。
「フィリーネ、俺と結婚してくれ」
「するからこうやって手ぇ出してんでしょ」
「ムードってもんを覚えろ」
「照れてることくらい察しろつってんの」
フィリーネの細い指に呪いの指輪を嵌める。淡く光って彼女の指にしっかりとフィットした。
次にフィリーネが俺の指に。
アダラードの墓に置いた酒瓶が倒れて、俺の足に酒がかかる。きっかり俺だけだ。しかも前回置いて帰った古い酒じゃなくて、今日持ってきたほう! もったいねぇな!
まじでコイツぶっ飛ばしてぇ。
「アダラードてめぇ!」
「祝ってくれてんじゃん、アダラードにもお酒かけてあげよう!」
フィリーネが酒瓶を拾って、墓の上で逆さまにした。ドバドバと琥珀色の液体が流れて行く。
そういうことか? そういうことなんだろうな! でもやっぱりもったいねぇだろうよ!
わずかに残った酒を口に含んだフィリーネが俺を見上げた。
「次はどんなリクエスト受けようか」
「結婚式よりそっちの話が先なのな」
額にキスすると、くすぐったそうに顔を俯けた。バカめ、それで逃げられると思うなよ。つむじまで可愛いことをわかってないんだコイツは。
「早くAに戻りたいし。それでね、ラビとふたりでいろんなことして、アダラードに自慢しに来るの」
「もう受付はやらねぇの? 看板娘だったのに」
「みんなのアイドルはやめるの。ねぇ、ちょっと。くすぐったいんだけど」
頭のてっぺんを押さえて抗議するように顔を上げたフィリーネに、不意打ちでキスをする。
隙だらけだバカめ。
お読みいただきありがとうございました。
長編を書く傍らで、気分転換に書いた短編でした。
ノリを重視したので書いてて楽しかったです。
今後の予定としては、長編の公開より前に
またこうして気分転換で書いたものを
ひとつふたつ公開するんじゃないかと思っています。
予定は未定ですが。
それではまた次回もお読みいただけたら嬉しいです。
ありがとうございましたー!




