表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
受付嬢は諦めない。~クールなイケメン冒険者にどれだけ塩対応されても毎日好きって言い続けます!  作者: 伊賀海栗


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/13

ギルドの美人受付は恋をしている⑩


「わっ! とっ……ととっと」


 魔力的な衝撃が広がって土埃があがり、私の体も後方に飛ばされそうになりました。わぁ、あんまり静かに飛ばないんだーって思ったのもつかの間、少し離れたところから狼たちが騒ぎ出す気配。

 えへへ、まぁそうなりますよねぇ。あとさっきはあえて口にしなかったんですけど、たぶん狼以外の存在いますよね、これ。


 だってウルフ種がふたりを放っておくわけないじゃないですか、いくら高いとこに逃げたからって。たぶん、他にも何かいるんです。狼と敵対してるのか、それとも狼を制御できてるのかわからないけど!


 だけどナイトさんもテイマーさんも生きててくれたから、ちょっと安心しました。いえ、すごく落ち着きました。元々、モンスターが怖いわけではないので……。


 ぐおーんと狼の遠吠え。あ、嘘ですやっぱりちょっと怖い。久しぶりのダンジョンでソロで集団戦は難易度がおかしいです、駄目です。

 震える手で胸元に下がる豚ちゃんを握ります。

 あの日、私が無事に帰れたのはこの豚ちゃんのおかげなんです。大丈夫、これがあれば来てくれます。


 誰が? って、それはわかんないけど! 大丈夫なの! 大丈夫って言ってた!


 洞穴の下にはぞくぞくとウルフが集まって来ました。ギャウギャウうるさい。さらにその向こう側からもっと大きなものの気配がします。足音とかすごい大きいし! ほら! やっぱなんかいる!


 ――ピィィイイイ


 豚が鳴きました。

 あらためて杖を握ります。深呼吸。大丈夫、私はBランク! ちょっと強いほうの冒険者です!

 

「我、炎神ヴァルクヌスと約し者なり 黒より黒き憤怒の焔よ 我が声に応え 焼き払え 焔の息吹(フレイムブレス)


 洞内から下に集まった狼たちに向かって範囲型の魔法をひとつ。

 すっ……ごい。すごい、魔法。ひさしぶり、魔法。え、気持ちいい。ギルドの訓練場でぶっぱするより開放感が全然違います。


 仲間を消し炭にされて怒り、興奮した狼たちがこちらへと跳躍してきます。うん、やっぱりずっとここにいることはできなさそう。

 飛んでくる狼を1匹ずつ炎弾(ファイアショット)で追い返しつつ、次の手を考えます。敵がどれくらいいるかわからないので、チマチマやっていたらさすがの私も魔力切れが心配。


「やっぱり正面突破!」


 脳筋火力職はこれしか考えられません。

 精度は低いけど念のために防御壁(プロテクション)を張り、もう一度豚を鳴らしてから、近づいて来た狼たちを範囲魔法で焼き払いました。そしてすかさず降りる。


 道がなければ自分で切り開けと言ったのは誰だったかしら!


「詠唱破棄! 焔の旋風(フレイムストーム)っ」


 強大な炎渦が狼たちを巻きあげながら私の周りをぐるっとまわります。誰も近寄れなくなっている間に詠唱し前方をぶち抜く、そして走る。詠唱破棄は魔力を余分に消費しますから、あまり使いたくないんですけどね……。


 最初にスロープ状の隠し通路から降り立った場所へ戻って来ました。経験則では来た道を戻っても壁の向こう側へはたどり着きません。狭いスロープを登るのは自殺行為でもあります。ですから進むべきは出口に繋がる正解の道。

 いくつかある通路の中から、正解を引く運、または洞察力も冒険者には必要なんだろうなぁ。私は持ってませんけど!


 私が選んだのは右から二番目の通路です。そこだけ、狼が出て来なかったので。出尽くしたのか、それとも他のがいるのか……。


「他のだったー」


 はい。

 そこにいたのは武装したオーガです。いや反則でしょそれは。オーガってただでさえ単純攻撃力が強くて、一発くらうとヤバいんです。それに思いのほか小賢しいというか、ちょっと狡猾な手段も使ってきます。例えば狼投げるとか。


「我、雷帝ユピトールの子孫なり 天地に楔――きゃあああっ!」


 このオーガ、詠唱待たない! 当たり前ですけど! わかってたけどー!

 突然降ってきた特大の拳をスレスレで転がりながら避けます。すかさず狼たちが一斉に躍りかかって来て。


「詠唱破棄! 焔の旋風!」


 それらを蹴散らしたところでオーガ様の鉄拳が待ち構えているわけで、はい、わかってた。


「ラビ! 助けてラビ! 無理! 死ぬ!」


 叫びました。

 ラビって私たちパーティーでいちばん強い、頼れる剣士なんですよ。


「ばっか、おまえ。落ち着けよ、この程度ので死んだら恥ずか死ぬぞ」


「は? 死んだらもう死んでるじゃん!」


 オーガは腰からふたつに分裂してました。その血の海の上に、ラビが立っています。いつもはわしゃわしゃの髪の毛も、今は後頭部でひとつにまとめて。はぁんすごいカッコイイ!

 そうです、ラビ・キール・ブレアーズ、28歳。ロヒア地区北33番在住、剣士で冒険者ランクはS。そして私の恋人。


 狼たちはラビに圧倒されて攻撃を仕掛けてはきません。ただ頭を下げて様子を窺っています。


「よく頑張ったな」


「信じてたぁ……ラビぃ……うわーん」


「やっと思い出したか。ばかが」


「ばかにばかって言わないでよ」


 ラビが抱き上げてくれました。

 そうです、あの日もラビが助けに来てくれたんです。でも私、もうなんにもわかんなくなってて。ぜんぜん覚えてなくて。


「ここの探索は改めてやろう。たぶんお前の見立てどおり、ハザンと繋がってるはずだ」


「ねぇまた冒険者やっていい?」


「当たり前だろ、そのために俺はSになったんだから。さぁその話は後だ。帰るぞ」


 ラビがスクロールを差し出しました。ずっと前に私が書いた転移スクロールです。行き先は冒険者ギルド、定員は使用者含め3名。スクロールに手をかけたところでその手を止めます。


「ラビさん、好きです」


「じゃないだろ」


「愛してる、ラビ」


「ああ、俺もだ」


 私たちは3年ぶりに唇を重ねました。スクロールを破ると手元でピリっと音がして、次に目を開けたときにはギルドにいたのです。

 マスターが何か言ってるけど、知ったことじゃありません。やっとラビとまた恋人になれたんだから!


「え、馬? ……あ」


 マスターが取りに行ってくれるそうです。めでたしめでたし!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ