『赫煙の舞姫』
「さて、では行くとしよう」
それから、凶手の子供から聞いた情報を基にして、ナーガルージュナと少数精鋭の手勢を連れて凶手のアジトを襲撃。
長年の間、一方的に命を狙われ続けるという状況下で、溜まりに溜まった鬱憤を、向かって来る凶手を斬り伏せることで発散させる。
まあ、こやつらが直接わたしの命を狙ったワケではないであろうが、凶手をしているのだ。それなりの覚悟はあろう。
一応、逃げる者や躊躇いを見せる者、明確に幼い者は峯打ちで意識を刈るだけで済ませている。今のところは、だが。ナーガルージュナの手下が、若干わたしへ引いた様子を見せつつも、慣れた手付きでそれらの者を拘束して行く。
なぜ引かれるのだろうか? わたしは十分に慈悲を示しているというのに・・・あれか? 凶手のような黒尽くめの格好だから多少判り難いが、返り血塗れだからか?
「さすが、赫煙の舞姫ですね……」
と、遠い目をされた。
わたしの剣は、男よりも軽い。これはもう、筋肉や身長、体重が違うのだから仕方ない。よって、わたしは速度を磨いた。
緩急を付けた速度と舞の足捌きを組み合わせ、相手と剣を交えることなく、素早く剣を滑らせる先手必勝の剣。その際、斬った相手の噴き出た血が赫い煙のように見えることから、いつの間にか『赫煙の舞姫』という二つ名で呼ばれるようになった。
それに関しては、なにげに羞恥を感じるのだが。王女のカルラ自身が凶手の真似事をしているとバレるワケにもいかず……わたしは、王女カルラの影の者だと思われているそうだ。
なんとも言えん。
「舞姫よ、あまりはしゃぎ過ぎるな」
と、ナーガルージュナの忠告。
「大丈夫でしょう。彼は、なにも言っていなかった。故に、ここは然程危険ではない筈です」
そう返す。ちなみに、この姿のわたしはナーガルージュナの部下という扱いになっている。
彼の話す『予見』は、誰ぞのなってほしくない未来……『不幸』を垣間見るもののようだ。わたしの所見ではあるが。
そして、ここを襲撃するに当たり、あの場にいた者の『不幸』は見えてはいないようであった。
なれば逆説的に、この場でわたしやナーガルージュナが致命的な傷を負うことはないのではないだろうか? と、そう思っている。
無論、だからと言って油断は禁物だ。現に、彼は今日のこの日、わたしが幼い凶手に襲撃されるという未来を見てはいないようだった。
わたしやナーガルージュナ、ばあや、そして彼が致命的な傷を負うことはなかった。彼はわたしを庇い、軽傷を負って・・・そして、幼い凶手が見舞われる『不幸』を見てしまったようだが。
あれの身体は・・・ばあやの、柔らかさはあるものの少し骨張った身体や、ナーガルージュナのガッシリした身体、父王のぷよぷよした身体とは感触や体温がまるで違ったな。
まあ、それは兎も角。
わたしは幼い凶手を誑かし、こうしてアジトを襲撃しているワケだ。凶手のアジトなど、潰せるときに潰しておいた方が有益だからな。
なにも、あの子供に同情しただけではない。
わたしは、自分の子を産むと決めたのだ。
妊娠出産という、動けなくなる時期が来る前に、少しでも安全を確保しておきたい。そういう、わたしなりの打算もあっての行動。
まあ、ナーガルージュナとばあやには、非常に渋い顔をされたが。
後で説教くらいは甘んじて受けようと思う。
それから数名の凶手を斬り捨て、十名程を拘束し、アジトの中で怯える子らを保護。あの子の姉も無事に見付けることができた。
わたしより二つ三つ年下に見える、薄汚れて窶れた娘。
「姉ちゃん!」
薄い茣蓙を敷いただけの床に横たわる、顔色の悪い娘をざっと見る。
痩せ具合からして、栄養失調は確実。あとは、なんの薬……否、毒を盛られていたか、なのだが。まあ、ばあやに診せればいいだろう。
ばあやの母君は元々、女だてらに国を転々とし、荒事を生業としている者だった。
裕福だった祖父殿の父……わたしからすると曾祖父に当たるが、その曾祖父殿が暗殺に怯え、自国の者は信用ならんと、侍女の体で雇い入れた護衛。何度も暗殺から救ってくれたその女性を愛するようになり……という、ロマンスが起きたのだとか。
情熱的に愛を囁く曾祖父殿に、ばあやの母君も絆され、第二夫人になったのだとか。
ちなみに、祖父殿の母君である第一夫人は、ばあやの母君を雇い入れる前に暗殺されていたとか……そういうワケで、ばあやは暗殺を防ぐ手段を母君に仕込まれて育ったのだそうだ。なにげに、下手な薬師より余程優秀だ。
わたしの読みでは、他国の諜報関係の者だと睨んでいるのだが……既に故人である為、確かめようが無い。
なんだろうか? わたしの家系は、父方も母方も凶手に狙われる縁でもあるのか・・・まあ、それはおいておくとして。
今はこの娘だ。
気休めとして、多くの種類の毒に効くが、代わりに効果の弱い……毒を特定する為の時間稼ぎに使われる毒消しを飲ませる。
「効果は弱いが、薬だ。飲め」
水に溶いた解毒薬を差し出すと、
「……ぁ、りがと……ござ……す」
か細い声が礼を言う。
「娘。お前、名は」
「姉ちゃんは……」
「お前には聞いていない。答えろ、娘」
「……マニー、シャ……」
「では、これの名はわかるか?」
と、姉の側を離れない子供を指す。
「カ、リーナ……」
「ふむ。受け答えができるようで、なによりだ」
自分の名、そして名前からするとおそらくは妹の名を言えるならば、まだ大丈夫だろう。
姉妹と、拘束した生き残りを連れて凶手のアジトを後にした。
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