姫はどのような男を望んでいるのでしょうか?
子を産もう、と考えてより――――早数ヶ月。
兄王に近しい貴族、異母兄弟姉妹に近しい者も論外。彼らに近くなくとも、長男や後継ぎは除外。
中立派か、祖父殿の派閥の次男以下で……と思っていたのだが、なかなかいい男がいない。
できれば、毒にも薬にもならない感じに、波風を立てぬような男が好ましいのだが・・・
「うむ。軒並み、相手がいる連中ばかりだな!」
困ったことに、あれこれ除外していたら、いい条件の男がサッパリいない。いても、年回りが違ったり、既婚者だったりする。
さすがに、年齢一桁の子供は論外だろう。わたしは、今すぐにでも子がほしい。
既婚者も……一応、この国では身分のある者が複数の妻を持つことが許されているとは言え、身分の高い方が正妻になる。例えその女が、後から来ても。然程身分に大きな差がない場合は、大半の者が最初の妻を正妻とするという風な暗黙の了解があるようだが。
わたしが婚姻する場合は、問答無用で王女が正妻となることが決定だ。
それも、カルラは父王の宣言により嫁入りはできぬので、婿を取る予定。となれば、王女の夫が既婚者。且つ、既にいる妻を連れての婚姻など認められはしないだろう。わたしが了承しても、周囲が煩い。下手をすれば先にいる妻が排除されてしまう。
既にいる妻と離縁して、わたしと結婚しろとはさすがに言えん。生憎と、既婚者を引き裂く趣味は無い。第一、その条件をあっさりと了承して婿入りするような打算的で薄情な男など、わたしの方が願い下げだ。
打算で動く者は、打算であっさりと裏切る。裏切る者と判っている者は、最初から要らん。
そういうワケで、婿探しは全く進んでいない。
妊娠から出産までの期間を考えると、最低でも一年は平穏に過ごせる時間が欲しいというのに。
「いい男がいない」
「まあ、姫様。そんなはしたないことを仰ってはいけませんよ」
「……そう焦って婿を探さずともよいのではありませんか? 姫様」
わたしの思惑と懸念を知らぬ二人に、諭すように窘められる。
兄王へ、領地へ引っ込み隠居する許可を求めてはいるが、それも思うように行っていない。これで焦るなというのも難しい。
そうやって、まんじりとした日々を送り――――
もう、いっそのこと婿など取らずに子だけを産むか? と、考えていたときだった。
「……その、少々聞き辛かったのですが、姫はどのような男を望んでいるのでしょうか?」
ナーガルージュナが、難しい顔で聞いた。
「ふむ・・・兄王や、異母兄弟姉妹とは繋がっていない者。間違っても、わたしを王位へ担ぎ出そうとは考えぬ者。権力欲の無い者。それであれば、もう身分は問わぬ」
男尊女卑の強いこの国で女が王になるなど、夢のまた夢。成れずに暗殺されることだろう。
もしくは、奇跡的に女王に成れたとしても、今以上に暗殺に怯える日々が続く。更には、わたしを傀儡に据えての王配の座、摂政の座を巡っての争いが起きることは必至。兄弟姉妹、その母や親族達で玉座を巡り相争い、遠からず内乱が勃発と言ったところか。
いずれにしろ、兄が王に就いている今よりも碌なことにならんのは、目に見えている。
折角、我が母や祖父殿が父王を誘導して国や民の生活を向上させたというのに、全て水の泡と成り果てる。
わたしは、そんなことは望まない。
「まあ! なんてことでしょう……嘆かわしい」
「ん? どうした? ばあや」
なぜかばあやが、怒り出す。
「姫様。それは婚姻相手の条件であって、姫の好みの男というワケではないと思うのですが?」
ナーガルージュナも低く言う。
「そうですよ! そんな、政略結婚のような無味乾燥したような条件は条件なんかじゃありません! |折角、姫様御自らが殿方を選ぶのですから、もっと好みの殿方を仰ってくださいませ!」
「好み? 男の?」
「あるでしょう? 逞しい殿方だとか、見目涼やかな美男子、優しい心持ちの殿方、芸術に秀でた殿方、お金持ちだとか、熱烈に求婚されたいだとか、そんな理想が!」
「ふむ・・・そんなこと、全く考えたこと無かったな」
そう言えば……ふと思い出したが、ばあやの両親はなにげに恋愛結婚だったな。
「なんて嘆かわしい!」
「……とりあえずだが、なよなよした者に姫は任せられん」
「まあ、あなたの言いようも一理ありますね。わたくし達の大切な姫様を守れるような殿方でないと、姫様との婚姻は認められません。ナーガルージュナを軽々薙ぎ倒せるような、それでいて暑苦しい筋肉達磨などでなくて、見目麗しくて目元涼やかで、なにがあっても姫様を一番に好いていて、最優先してくれる素敵な殿方はどこかにいませんかね?」
「ふん、わしがぽっと出の男になど負けるものか」
う~む……なにやら、婿予定の相手のハードルが上がってはしないだろうか?
ナーガルージュナを軽々倒せるのに、細身且つ美形、更にはわたしを一番に最優先など・・・そんな男、いるワケがないと思うのだが?
しかし、ばあやの言にも一理はある。
自分で自分の身を守れぬような者は、呆気無く死ぬ。
特に、わたしのように厄介な身上の者の近くにいれば・・・
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