なんともセコいですわねぇ。
誤字直しました。ありがとうございました。
そして、出立となったのだが・・・
「なあ、あれは・・・本気なのか?」
わたしを乗せて運ぶという、兄王に用意された輿を、呆れ顔で見やる。
「まあ・・・本気、なのでしょうね」
同じく、呆れ顔のばあや。
「・・・ふむ」
「あれでしたら、別にお嬢様が乗らなくても宜しいのでは?」
渋い顔で輿を見やるナーガルージュナと、真面目な顔で進言するマニーシャ。
「・・・お嬢様って、ほんとーにいいとこのお嬢様だったんだ・・・」
と、王妹カルラを乗せるという輿を乗せた象を見て、ぽかんとした顔で見上げるカリーナ。
そう、驚きなことに象に乗っての行列だそうだ。
そして、マニーシャとカリーナ、シャンカラは、未だわたしの身分を知らない。というか、新参の使用人達にはわたしが現国王の異母妹であることを教えていない。
わたしの離宮は王宮正殿とは距離が離れている上、少し立派な邸という佇まい。離宮にしては、質素と言える。
それに王宮の一角に住んではいても、わざわざ王宮の正門から出入りはしない。離宮から正殿へ行くには重厚な門と厳重な警備体制が敷いてあるが、端っこの端っこである我が離宮は、そこそこ笊……どころかガバガバな警備体制。まさしく、敷居が低いのだ。
故に、凶手がよく侵入して来るのだが。
なのでカリーナは、未だにわたしが王妹のカルラで、自分達が今まで暮らしていた場所が王宮の一角であったことを知らない。
「まあ、大方の事情は想像できるが・・・」
「ふむ。どういうことでしょうか? 姫」
象を見上げるナーガルージュナの質問。
「そうだな。大規模な飢饉手前まで行った旱が落ち着いた後に派手なパレードなんぞしたら、餓えた市民はどう思う?」
自分達は食料制限をされて、下層階級の者達が幾人も死んだというのに、王宮ではこんな大きなペットを飼っていた。自分達より象が大事なのか? 更には、そのペットの背に乗り、暢気にパレードを……と。普通に反感を買うに決まっている。
元から飼っていたのか、最近購入した象なのかは知らぬが。兄王のペットだろうが、その象に乗ってパレードするのは王妹であるカルラ。
目の前に居もしない国王より、目の前でパレードで移動する者。矛先を誰に向けるかなど、判り切っている。
「成る程。これはまた、印象操作の一環でしたか。なんともセコいですわねぇ」
やれやれという呆れ顔のばあや。
確かにセコい。が、そうまでして、わたしの好感度を下げたいらしい。
兄王のセコさに、わたしも溜め息が出る。
だが、これも仕方なかろう。
「道中、民から襲われぬよう、ばら撒く用の食料を用意しておけ」
食料を撒けば、好意的でない民衆のいる地域も、ある程度無事に通り抜けられるだろう。餓えは、容易く人を理性無き獣に堕とす。
「了解しました」
ナーガルージュナが嫌そうな顔で返事をする。実際、食料が減るのが嫌なのだろう。
「お嬢様、なに撒くの? ですか?」
ばあやに睨まれ、言い直すカリーナ。
「ん? 適当に・・・ナッツ類や煎り大豆を小袋にでも分けて詰めておけ」
「いいなぁ……あたしも食べたい」
「先の旱で餓えている者達への施しです。カリーナは今、餓えていますか?」
「!」
ふるふると首を振り、
「えっと、あたしもお手伝いして来ます!」
パッと駆けだすカリーナ。
「とりあえず、食料を撒くときには厳重に警戒せよ。わたしの護衛に、な」
好意的でない地域を通るのは、既に組み込まれているルート。
「なにか、が起こることも已む無し……とはさせぬように」
「わかっております。姫様」
「うむ」
と、不穏さを孕みながらの出立となった。
ちなみに、象の上の輿にはカリーナではなく、着飾らせた人形を乗せておいた。一人で乗るのは難しいと、ナーガルージュナに抱き上げてもらって運ばせた人形だ。
休憩時には、同じく一人では降りられぬとナーガルージュナに抱えられて下ろされる。ついでに、輿の上で揺られて酔ったと体調不良を装い、世話役と面会人は限定。
「存外バレぬものだな」
「そうですね。あとは、蜂や虻などに気を付けていれば大丈夫かと」
「うむ。象は、蟻や鼠にも弱いからな」
と、隣を歩くシャンカラに頷く。
最初は姫様が徒歩などとんでもないと言われたが、徒歩の方が一番危険が少ないとシャンカラが言ったので、わたしは王妹カルラの護衛兵士に紛れて行列の中程から後尾の間をのんびりと歩いている。
無論、わたしの周囲はナーガルージュナの手下の者達で固めてあるが。
兄王の付けてくれた護衛は、わたしからナーガルージュナの手下を引き離したと思いながら、先頭で象の背中の輿に揺られている身代わり人形を守っている、というワケだ。
長時間歩いていると多少のつらさはあるが、本気で歩けなくなれば荷馬車に乗せてもらえるので、疲労困憊になることもない。
腹が減れば、適当に手持ちの食料を摘んだり、近くの者がなにかしらをくれる。
事情を知らぬ者も水やら果物やらをくれたりするので、わたしは年若い少年兵と思われているのだろう。
時折騎乗したナーガルージュナが見回りで来るが、チラリと視線を寄越すだけで戻って行く。睨みを利かせている、という演技だ。
ばあやとマニーシャ、カリーナの姉妹はカルラ姫の世話で先頭付近で馬車に揺られているそうだ。
まあ、ばあやもナーガルージュナも年だからな。歩きはキツいだろう。
王都近郊内では細々とした事件が……兄王の用意した象使いの突然の体調不良での交代や、姫の飲料水や食事への異物や毒物の混入事件などがあったそうだが――――
さすがに、王都近郊で王妹を直接害しはせんだろう。
まあ、姫(人形)の泊まる宿へ護衛と称して無理矢理押し入ろうとした兵士数名は、ナーガルージュナがキッチリと話を付けて丁重に王宮へ帰るよう促したらしいが。
それ以降、日暮れ前に配られる水には特別にハーブの風味が付くようになった。
兄王側の兵士達に配られるこれは、疲労回復のハーブだと説明されているが……確かに疲労回復のハーブも入っている。が、これは男に効く性欲減退のハーブが混ぜられているな。
にこやかに用意するばあやが目に浮かぶ。
あまり摂取し過ぎると不能になるのだが・・・まあ、我が使用人達や道すがらの女達の貞操が守られるなれば、それもよかろう。
一応、王妹一行とのことで目立って下衆なことをする者はあまりいないが、目の届かないところもあるだろう。その問題が未然に防げるなら、野蛮な輩の不能も已む無し。
本番は、ここから。人里を離れて以降が、暗殺の恰好の機会となる。
読んでくださり、ありがとうございました。




