さすがにわたしとて、天候はどうにもできん。
シャンカラのお陰で、幾度となく窮地を脱している。
ナーガルージュナとばあやだけでは、絶対に防げなかったであろう事故なども、それ以前に備えがあれば、どうにかなる。行動や選択を変えることで、未来が変わる。変えられる。
しかし、こればかりは・・・
「渇水、か・・・」
「難しい、ですよね……」
思わず出た苦い声に俯くシャンカラ。
「まあな。さすがにわたしとて、天候はどうにもできん」
「すみません」
「お前が謝ることでもなかろう。まあ、天候は左右できぬが、渇水に備えることはできるさ。井戸を掘ったり、溜め池を整備したり、渇水対策の植物を植えたりな」
ただ、問題はわたしに進言をどれ程の者が聞き入れてくれるか……となるが。
人は、水が飲めなければ死ぬ。
兄王には、直接進言するだけ無駄。握り潰されるか、下手に意固地になって邪魔される方が被害が増える。
一応、暦博士達を動かして忠告はさせるが……それで備えてくれるといいのだが。
国としてではなく、王女個人的に動くならば、なにもしないよりは多少の死者を抑えられる、と言ったところか・・・わたしの領地や、祖父殿の土地、祖父殿と縁のある者の地、そしてその周辺へと渇水対策を施せば、ある程度の影響を拡大できるやもしれん。
「渇水に強い作物を取り寄せろ」
と、幾種類かの作物を育てさせることにした。
トマト、芋、大豆などなど。
そして、一番の本命としてサボテンとサジーを植えさせることにした。
サボテンは乾燥地帯の植物で、砂地でも育ち、水を溜め込む性質を持つ。棘だらけではあるが、その棘と厚い皮を剥けば生でも葉を食すことができる。多少味が微妙だとて、水の代わりとして水分補給になる上、栄養価も高いそうだ。
実を付ける種類のサボテンで、実の味も良ければ、産業にすることも可能。
サジーというのは、荒れ地や乾燥地帯にてオレンジ色や黄色い実を付ける植物。砂漠に近い地域でも育ち、寒暖差にも強い。実の味は酸味と渋味が強く、生食には向かんが、栄養は豊富。更には油も採れ、土壌を豊にしてくれるという。
渇きにより脆くなった地盤に植えると、土地を強くしてくれるという。
両方共、挿し木や接ぎ木で増え、渇いた砂地でも育つ。まさに、渇水にはうってつけの植物だと言えるだろう。
「あとは・・・そうだな。酒や酢の増産、保存食作りを急がせろ」
酒は保存状態が悪いと腐るが、逆を言えば保存状態に気を付けていれば腐らないということ。数百年前に製造された酒が飲まれる程だ。
船乗りが船に酒を積むのは、足の早い水代わりに、長期保存が利く安いラムを飲むからだ。他にも、金属の産出地で、飲めぬ水が湧く地域などでは、アルコール度数の低いエールやシードルを水代わりに飲んでいる。
領主権限でアルコール度数の低い酒と、度数の高い酒。そして、酢。ピクルスやチャツネ、ジャム、豆や穀類、ナッツなどの保存食、薬の増産に力を入れる。
こうして渇水に備えての対策と準備とを進め――――
酷い旱魃にまではならぬことを切に祈る。
✰⋆。:゜・*☽:゜・⋆。✰⋆。:゜・*☽:゜・⋆。✰
旱魃に備えてから――――
なにもないまま、一年が過ぎた。
この一年。あったことと言えば、凶手を数名捕縛したことだろうか。
まあ、あれだ。わたしの縁談が進んでいない!
と、少々不満気味だったのだが、そうも言ってられぬ事態が起きた。
今年は少雨傾向にあるという報告。
このまま雨が降らない状態が続くと、作物が育たない。シャンカラの見たという、渇水になる日が来るやもしれん。
少雨傾向と聞いた時点で、火事に気を付けるよう触れ書きを出した。
飲料水ですら危うくなるときに火事を出せば、大惨事になることは必至。
消火に水が足りず、燃え広がる炎。消火が遅れれば、それだけ被害が増す。どうにか鎮火したとて、怪我人の治療にも水が足りぬであろう。焼け出された人々の飲料水の確保にも事欠く。更には、なけなしの食料とて燃えるやもしれん。
渇水で水、食料の不足は多くの死を呼ぶ。
備えはしていた。我が個人領、祖父殿の土地、その縁者の土地の境界ギリギリまで井戸を掘らせたり、溜め池を増やしたりと、治水に努めて来た。旱魃に強い作物も、育てさせ、保存食の備蓄も進めて来た。
シャンカラの『見た』という未来程、酷い事態にはならぬ筈・・・
兎も角人が死なぬよう、尽力をした。
最初はわたしの備えを馬鹿にしていた者達も、少雨が続き、やがて小雨すらも降らなくなったときに慌て出した。
食料や水の不足で支配階級からの人災までもが起きぬよう、秩序と統制を徹底させる。
求める者には、乾燥に強い植物やサボテンの苗、サジーの枝を与え、育てさせた。
そうして、やはり犠牲は出たがどうにかこうにか長きに渡る渇水を、餓えと渇きを、国が乗り切った。
✰⋆。:゜・*☽:゜・⋆。✰⋆。:゜・*☽:゜・⋆。✰
読んでくださり、ありがとうございました。




