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07.売られる元聖女候補(1)

 シニスからの祈りを終えたデーセオは、深くフードをかぶりながらも眩しい空の色に目を細めた。


「デーセオ様」


 恐らく、彼の態度から彼の不機嫌さを悟ったのだろう。デーセオの部下は優秀だ。


「ティメル。悪いが、聖女候補であったレーニス殿について調べて欲しい」


「レーニス様が何か?」

 レーニスという女性が、筆頭聖女候補であったことをこのティメルも知っている。


「レーニス殿は、聖なる力を失い、この神殿から追い出されたらしい。その後、どうしているのかということを調べて欲しいのだ」


「調べて、どうなさるおつもりですか?」

 ティメルの疑問は正しい。調べた後、この主が何をしでかすのか、ということを心配している。


「どうするつもりも、何するつもりもない。ただ、俺の呪いの解呪を頼みたいだけだ」


「左様ですか」

 と言うティメルの目は「本当にそれだけですか」とも言っているように見えた。


 デーセオは辺境の竜騎士と言われるだけあって、国境の辺境に領地がある。この王都からその領地までは馬車で三日かかるため、デーセオはこの王都で二泊する予定だった。竜騎士だから飛竜を使えばいいのだが、私用での飛竜を使うことは避けたい。この王都の上空に、何でも無い日に飛竜が飛ぶとなると、非常に目立つからだ。なので、地味に馬車移動。

 デーセオは今日の宿に向かいながら、レーニスという元聖女候補のことを考えていた。解呪を得意とする彼女はどのような人物なのか。他の聖女さえ引き受けなかったそれを快く引き受けてくれた彼女。


☆☆


 そして一方。デーセオに探られているレーニスは、いまだにフォッセ家の屋敷の屋根裏部屋にいた。この部屋で彼女が何をしているのかというと、本を読んでいた。屋敷の書庫にある本を適当に見繕って、この部屋を持ち込み、この部屋に陽が届いているうちは読み漁る。暗くなれば下の談話室で、作り笑いを浮かべながら伯母のロイスと話をする。


「ねえ、レーニス。あなた、ジェンテ・パエーズ卿はご存知かしら?」

 優雅に首を傾けながらロイスがレーニスに尋ねた。


「パエーズ卿ですか?」

 手にしていたカップをゆっくりとテーブルに戻しながらレーニスは尋ねた。


「そうよ、パエーズ卿。向こうはあなたのことをご存知だったみたい。いつも神殿で祈りを捧げてもらっていたとおっしゃっていたわ」

 ロイスがニコニコとした仮面をかぶっていることから察するに、彼女は今、非常に機嫌がいいということ。


「伯母様、すいません。思い出せないのですが、どのような方でしたでしょうか」


「あら、まあ。そうよね。神殿には一日に何人もの人が訪れるものね。それにあなたは一日に十人以上に祈りを捧げていたとも聞いていたし」


 それは、他の聖女や聖女候補が引き受けてくれないからだ。わざわざ神殿にまで出向いた民たちを「今日は忙しいからできない」と言って追い返すことことに気が引けたから。実際、他の聖女や聖女候補たちはそうやって金にならない民たちを追い返していたようだが。

 そんな彼らにレーニスがそっと声をかけて、祈りを捧げていた。例え、お金にならなくても、民たちの心を救うために。


 ロイスはパエーズ卿の特徴を口にした。だがレーニスにはそのような人物の記憶がない。


「でも、パエーズ卿はあなたといつもお話していたとおっしゃっていたわ」


 その言葉でレーニスの脳内をかすめた人物がいる。三日に一度やってくる、年は五十を過ぎた男。けして紳士と言えないようなその男は、祈りが終わるとレーニスの身体をやたらめったら触れてきた。

 もしかして、あの男かと思うと、なぜか胸の中に嫌悪感が込み上げてきた。


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