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61.妻の決意(1)

 隣国のサライトの船が動いたという連絡がデーセオの元に入ったのは、それから十日後のことだった。思っていたよりも早いな、というのがデーセオの思い。


「ティメル。サライトにいるお前たちの部下は、今すぐこちらに戻らせろ。下手すると関所を超えられなくなるからな」


「承知いたしました」


「それから、竜騎士部隊は明日、馬で王都に向かわせる」


「馬で、ですか? 飛竜ではなく?」


「ああ。馬で、だ」


 竜騎士部隊が馬で王都に向かう、ということ。それは竜騎士たちが王都に向かったことを相手に悟らせないための策。

 サライトの騎士達は恐らく港から王都に侵入してくる。それを食い止めるために竜騎士部隊を使おうと考えていた。それ以外の騎士達は、念のため王都の各地に配置し、民たちを逃がしてもらう手筈になっているはず。だが、それも保険だ。何しろサライトの騎士達はクレイデルの港には近づくことができないはず、なのだから。

 はず、としか言えない策だから、何重にも策を重ねておくしかない。


「ティメル。すぐさま陛下にも連絡を。そして、神殿を動かしてもらえ」


「そちらは終えております。今頃、陛下が神殿に乗り込んでいるかもしれませんね」

 と言うのは冗談ではあるが、ティメルは楽しそうに笑っていた。

 王都に魔術師たちは何十人もいる。だから魔術を使って彼らと連絡を取り合うこともティメルにとっては造作もないこと。


 そもそもティメルだって王立魔術師団に所属していれば、団長やらそれに次ぐ地位にいてもおかしくないような力を持つ男なのだ。それでもこの不器用な竜騎士の部下で居続けるのは「こっちの方が楽しそうだから」という理由による。そんな理由で自分の駒となるような魔術師たちまで引き連れて、この国境の辺境にまでやってきてしまった。そして竜騎士部隊魔術師小隊という隊まで作り上げてしまう。

 それもこれも全てティメルの「楽しそうだから」という理由によるもの。


 さらにその楽しいことがすぐ側までやってきているのだ。


 あの神殿がどう動くか。サライトの騎士が船で海から攻めてくる姿を目にしたら、どうするのかが見物だ。聖女に力を使わせるのか、それとも神官たちは彼女たちを置いて逃げるか。いや、聖女たちを囮につかって逃げる、という最も腐ったような方法をとるかもしれない。


「それから。マーサ殿に紹介された元聖女候補たちも、すでに王都に集まっております」

 聖女候補を解かれた女性たちは、昔からの馴染の元へ嫁いだ者もいたし、金持ち親父の元に嫁いだ者もいたし、すでに夫は寿命を迎え気ままな未亡人よと明るく笑っている者もいた。ただ、彼女たちの共通点は「聖女候補を解かれたときは絶望したけれど、今は幸せ」ということ。

 その話を聞いたティメルは、つい、レーニスのことを考えてしまった。彼女がデーセオの元に嫁いできたことは、運が良かったのかもしれない。もう少しあの情報を耳にすることが遅かったのであれば、今頃彼女は禿エロ親父の餌食になっていただろうし、クレイデル王国はサライトの侵略について気付かなかっただろう。

 何しろレーニスがここにこなければ、デーセオが北の砦にまで逃げるという発想にまではいたらなかったのだから。

 全てはデーセオがレーニスと出会ったために、良い方向に転がっている。偶然か必然かはわからない。だが今、目の前にある結果が全て。


「レーニス。明日、王都へ向かう。お前も一緒に、だ」


 デーセオが妻に声をかければ、彼女は「承知しました」と答える。いつからだろう。彼女がこのように強い光を瞳に宿すようになったのは。

 民たちを守りたいというその思いが、その光から溢れてくるような感じがした。

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