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56.部下の悪巧み(2)

『私が神殿を追い出されたときに、侍女頭のマーサが、私のように力を失って神殿を去った元聖女候補たちが幸せに生きているという話をしてくださって、背中を押されたのです。本当にマーサの言う通りになったと、今ではそう思っています』

 つまり、レーニスのように力を失って神殿を去った聖女候補たちが他にもいるということで。幸せに、ということは力が戻ったことを神殿に知られることなく、ひっそりと生きている、という意味かもしれない。幸せな場所で、幸せに暮らしなさい、と。


 そんな幸せに暮らしている彼女たちを巻き込むことにも気が引けるが、力を失うくらい力を使っていた聖女候補たちであれば、恐らくレーニス同様、協力を頼んだら引き受けてくれるだろう、とも思う。

 瞬きせずにじっと一点を見据えているように見えたティメルを不安に思ったのか、デーセオが怪訝そうに眉間に皺を寄せた。


「おい、ティメル。どうか、したのか?」


「いえ。その心当たりについて、を考えていました。レーニス様がおっしゃるには、レーニス様のように力を失って神殿を追い出された元聖女候補たちが他にもいたようだ、と。何人くらいでいつ追い出されたのかはわかりませんが、もしかしたら、その方たちなら協力をしてくださるのではないか、と、そう考えていたわけです」


「結局。真面目に祈りを捧げていた聖女や聖女候補たちが一時的に力を失って神殿を追い出され、金のために祈りを捧げている聖女や聖女候補たちが神殿に残っている、ということか」


「そう表現するのは、一番わかりやすいですね」

 そう、わかりやすいのだ。真面目に祈りを捧げていた聖女や聖女候補たちは、聖なる力の需要と供給のバランスが崩れ、一時的に聖なる力の枯渇を起こしてしまう。だが、金のためにそれを使っている者たちは、需要に対して供給が圧倒的に少ないのだから枯渇することも無い。


「では、ティメル。悪いが、その神殿を追い出された聖女や聖女候補たちに連絡を取ってもらえるか?」


「承知いたしました」

 命じられるまでもない。こんな面白い事実を調べないわけにはいかないだろう。神殿はいつから腐っていたのか。いつから聖女候補たちを商品にしていたのか。

 恐らくフォッセ家はそれらに関わっている人物から言い寄られたのだろう。神殿から追い出された聖女候補は、その力が偽物だと言われているため、まともなところに嫁げないぞ、と。だったら、いくつか紹介するからそちらに嫁がせたらどうか、と。

 もちろん、それに対応する権力と金を持っていれば、そんな甘い囁きにのることもなかっただろう。だが、今のフォッセ家は――。

 これは面白くなってきたぞ、とティメルは思った。デーセオの解呪のためにレーニスという元聖女候補を調べたときもそうだったが、他人の悪事を公にして、そいつの地位をどん底に突き落とすことが楽しいのだ。


「おい、ティメル。どうか、したのか?」


 ニタニタと笑みをこぼしているティメルが珍しかったのだろう。デーセオは不審者を見るような視線を投げつけてきた。


「いいえ、どうもしません。私は少しこちらに残って、いろいろと調べてからあちらに戻ります。デーセオ様はさっさと愛する奥様のところにお帰り下さいませ」


 相変わらずの減らず口だった。

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