51.それぞれのやるべきこと(1)
デーセオが王都に行っている間、レーニスはフルヘルト領で留守番となった。レーニス自身も王都に行くには、実のところまだ不安があったからだ。王都にはあの神殿がある。今回、向かう場所が王城であったとしても、その途中で知り合いに会う可能性がゼロではない。レーニス自身、その知り合いに対して何もやましい気持ちは無いのだが、なんとなく会いたくないというか、とにかく会いたくなかった。
恐らくデーセオもその気持ちをなんとなく汲み取ってくれたのだろう。それに元々レーニスを連れて行きたくないと思っていた彼だから、レーニスが共に行かないことの言い訳を必死で考えているようだった。言い訳を考えるのは得意なようであるから、それは彼に任せようと思っているレーニス。
さて、そのレーニスが留守番をしている間に試みようとしていることが、デーセオの呪いの解呪方法を調べることであった。このメランド城は歴史が深い建物のようで、レーニスたちが暮らしている住居の部分は建て増しをした建物であるため屋敷と呼ばれているが、書庫は古くからある建物の一部にあった。あのメランド城を一目見た時に、趣深いと感じた建物の方。
そして、国境という場所柄のおかげか、書庫にある書物は自国のクレイデル王国が発行したものだけでなく、隣国のサライトのものもあった。
そもそもデーセオの呪いは隣国の魔術師にかけられたもの。それが進行性の呪いということは、呪いの種類がある程度限られてくる。このメランド城に代々住んでいた者は勉強熱心だったのだろう。
何よりも飛竜の繁殖に力を入れている場所だ。飛竜の繁殖には魔力が必要であり、そのためには竜騎士だけでなく魔術師の力も必要であると、ティメルからも聞いていた。だから彼は魔術師でありながらも、デーセオの部下としてここに留まっているのだ。
レーニスはその薄暗い書庫へ来ていた。この城内にいる限り、レーニスの命を狙うような者はいないのだが、それでも書庫の出入り口にはサンドラと、それから心配性のデーセオによって竜騎士部隊から既婚者の竜騎士を護衛としてつけられている。
不思議な力に導かれるようにして、レーニスはとある本棚の前に立っていた。そこは隣国クレイデル王国の書物が並んでいる棚なのだが。さらに、そのうちの一冊がきらきらと光り輝いているようにも見えた。本が「私を読んで」と言っているようにも思えた。レーニスはその本を手にする。
パラパラとページをめくると、古い紙の匂いがした。
恐らく、この本であっている。
それから、いつもは執事のジョナサンが「先代の奥様が好まれて読んでおりましたので」と適当に持って来てくれたロマンス小説であるが、その書庫から面白そうなロマンス小説を何冊か見定めると、それを手にした。
書庫のある建物から、屋敷の方へと戻り、さらに私室へと戻る。そこでサンドラにお茶を淹れてもらったら、あとは一人静かに読書の時間を堪能する。
さて、こちらは久しぶりに王都へとやってきたデーセオ。もちろん、優秀な彼の部下であるティメルも一緒である。なんとなく、あの神殿に立ち寄ろうと思って近くまでくると、民衆でごった返していた。
「何かあったのか?」
デーセオが一番近くにいた男の一人に声をかけると、その男は息急き切った様にまくしたてる。
「神官たちが俺たちのことを追い出しやがったんだ。せっかく聖女様に会いに来たって言うのによ。ここにはそうやって追い出された人間たちが集まってんだよ。何が、等しくあれだ。結局、金持ちの貴族様しか祈りを捧げないってことだろうが」
「このようなことは昔からか?」
「いんや。ここ数か月の話だな。いつもは追い出されるようなことはなかった。祈りは捧げてもらえなくても、話は聞いてもらえた。それがさ、突然、俺たちみたいな貧乏人を追い出すようになったんだ。だから、俺たちのような人間は、時間さえあればこうやって神殿に抗議にやって来てんだ」
「そうか。状況はわかった」
「なんだい。あんちゃんは、聖女様の祈りを捧げてもらいに来た奴ではないのかい?」
「俺はただの通りすがりだ。人が集まっているから、何事かと思って聞いてみただけだな」
「そうか。旅の人か。悪いことは言わないが、あまりここに長居しないほうがいい。用事が済んだら、さっさと自分のとこに帰りな」
「ああ、そうさせてもらおう」
デーセオは男が口にした数か月前というのが気になっていた。もしかしてそれは、レーニスが聖女候補としてあの神殿を追い出された日と一致しているのではないか、と。
「デーセオ様……?」
恐らくティメルも今の会話から気付いたのだろう。
「この件は、陛下にも伝えるべき案件だと思うのだが」
「そうですね。ですが、陛下もこれに気付いていないとは思えないのですが」
「意図的に隠ぺいされている可能性もあるよな。陛下に謁見できるような人物は限られている」
その言葉にティメルは頷いた。




