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48.陛下からの手紙(2)

 そして夕食の場。

 デーセオもこのようにレーニスと共に食事をするようになって、幾日かが過ぎている。彼女に顔を見られても恥ずかしいとは思わなくなったし、レーニス自身もデーセオを怖がっている様子はない。

 彼女から怖がられるかもしれない、というのは、デーセオの杞憂だったということなのだが、恐らくデーセオ本人はそれにすら気付いていないのだろう。

 食事中にも関わらず、デーセオはじっと彼女の顔を見つめていたのかもしれない。レーニスがデーセオに気付いて、笑顔を向けてきた。ニコリ、と。


 その笑顔は反則だとデーセオは思う。

 何しろ彼女はデーセオにとっては、妻でありながら、天使なのだから。いや、女神。

 食事中でなかったら、両手で顔を覆って彼女から顔を背けたかった。だが、残念ながら今は食事中であり、両手にはナイフとフォークが握られている。顔を隠す手段がない。そのため、恐らく、彼の顔は真っ赤に染め上げられているはずだ。そして、それはジョナサンにもサンドラにも気づかれていて、彼らはその鉄仮面の下で笑っているのだ。


「旦那様、どうかされましたか?」


 ナイフとフォークを握りしめたまま、突然動きを止めてしまったデーセオを、心配そうな表情でじっとレーニスが見つめてくる。その表情もたまらなく天使だった。


「どうもしない。ちょっと、あ、あれだ。喉に、食べ物がひっかかってしまっただけだ」


「まあ、お気を付けくださいね」


「あ、ああ。そうだな」


 喉に食べ物がひっかかったというのは嘘。だけど、本当に喉元に何かがひっかかってしまったような気がするのは何故だろうか。恐らく、それは目の前に天使がいるからで。

 誤魔化すかのように、デーセオはグラスの中身を煽った。

 夕食は最高であるような最悪なような気分になってしまった。それもこれもデーセオ自身が感情の制御ができないのが原因であるのだが、彼に言わせると妻が可愛すぎるのが悪い、ということになる。レーニスにとってはいい迷惑であるのだが、もちろんデーセオがそれをレーニスに伝えることはないため、結局彼女はデーセオのその気持ちに気付くはずもなく。


 そんな彼女は部屋で一人静かに本を読んでいた。この屋敷の書庫にあった、古いロマンス小説のようだ。もちろん、デーセオはそのような本があったことも知らなければ、読んだこともない。

 読書の時間を邪魔しては悪いなとは思いつつも、彼女の側にいたくて、黙ってその隣に座ってみる。

 もちろんレーニスはそれに気付いて、視線を彼に向ける。


「いや、その。読書の邪魔をするつもりはないんだ。ただ、その、隣に座ってもいいか?」


「もちろんです」


「ああ、すまない。その、お前は読書の続きをしてかまわないぞ」


「そうですか? 何か、お飲みになりますか?」


「いや、いい。俺のことは気にするな」


「ですが、その。やはり隣に旦那様がいらっしゃるのであれば、こちらの本よりも旦那様の方が気になるのですが。それに、実のところを申し上げます、この本、あまり面白くないのです」

 と言うレーニスは、いたずらをした子供のようにペロリと舌を出して笑った。

「ですが、やはり結末というものは気になっておりまして、それでなんとか読んでいたのです。旦那様はこれをお読みになったことはありますか?」


「いや、無いな。書庫の本はずいぶん昔からあるみたいだからな。仕事で必要な本は読むが、そういった本はあまり読まない。恐らくそれは、俺の母親が読んでいた本ではないか」


「旦那様のお母さまの御本ですか? そういえば、旦那様のご両親の、その先代のお話というのはあまりお聞きしたことが無いのですが、伺ってもよろしい話なのでしょうか」


「そうだな。結婚する前もした後も、バタバタとしていたからな。霊廟を案内せねばならないな」

 バタバタしていた原因も全てデーセオにあるのだが、それについて口にするような彼でもない。


「霊廟……」

 レーニスは口の中で呟いた。なんとなく足を踏み入れたことのない厳かな建物があったことに気付いたような気がする。だがそれが霊廟と呼ばれるそれであるのかどうか、彼女にはわからない。


「だが、王城へ行って、陛下に挨拶せねばならんな」

 霊廟はすぐそこ。だが実は、この呪いをかけられてから霊廟に入れなくなってしまった。霊廟はこのメランド城の城主とその家族のみが入れるように術が施してあるのだが。恐らく呪いのせいによって、霊廟から城主と認めてもらえなくなったのだろう。

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