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41.北の視察(1)

 竜騎士部隊の中でもレーニスの評判はいい。彼女の人柄だけでなく、その祈りの効果も。そのような女性を妻として娶ることができたデーセオも機嫌がいい。だけど、なぜあのような女性が部隊長と結婚したんだろう、という部下たちの囁き声、いや囁きになっていないから、彼の耳にはもちろん届いている。

「なぜ」ってそれは彼女を金で買ったからだ。それ以外の理由は無い。

 だからってそれを堂々と胸を張って口にしたら、外道とか鬼畜とか人でなしとか、そう言った言葉を部下からかけられるのがわかりきっているし、自分でも彼女を金で手に入れたことをどこか恥じている部分もある。どうせなら、もっと別な出会い方をしたかった、という気持ちが今になって沸き起こっていた。


「レーニス。今日は北の集落へ視察に行く。ここは、地形のせいか、この領地の中でも作物の育ちが著しく悪い土地なのだ」

 それは、レーニスが飛竜舎へ足を運んでから三日後のことだった。

 あれ以降、デーセオは毎日のように屋敷に戻ってくるようになった。何しろ、妻に顔を隠す必要が無くなったのだから、彼女と会わない理由は無くなったということで。むしろ、飛竜舎に行きたくないとか、もっとこちらで書類仕事を一緒にこなしたいとか、そういった邪な気持ちも沸き起こってくるわけで。もちろん、ティメルにはその気持ちが知られており、優秀な部下は分単位並みでスケジュールを入れてくる。いいことなのか悪いことなのか。


「はい、旦那様」

 レーニスの可愛らしい声で、ふと我に返るデーセオ。

 レーニスも執事のジョナサンから、この領地にある各集落についてはざっくりと薀蓄を聞いていたわけではあるが、話を聞いたのと実際に目にするのとでは違うところもあるだろう。


「そういうわけで、飛竜で行く」


「はい?」


 そこからのそういうわけの繋がりがわからなかったが、馬での移動よりも飛竜での移動のほうが明らかに速いのは確かだ。


「あの、旦那様。今回は私も共に視察に向かうのですよね」


「そうだ」


「ということは、私も飛竜に、でしょうか」


「そうだ。何も問題ない。飛竜も、いいと言っている」


「え、飛竜さんが」


「そうだ。むしろ、飛竜の方が楽しみにしている」

 くそったれが、とデーセオは心の中で悪態をついた。レーニスは自分の妻であって飛竜の妻ではないというのに。と、飛竜にまで嫉妬しているデーセオである。


「視察へ行ってくる」と、執事のジョナサンに告げ、帰りのおおよその時間も連絡する。それから馬で飛竜舎へ向かい、ティメルと今日の視察内容の確認をする。


「デーセオ様」


「なんだ」

 これからレーニスとのデート、ではなく視察で楽しみにしているところを、なぜか水を差すような声色で主の名を呼ぶティメル。


「例の隣国の件ですが、何やら新しい船を作り上げているという話も聞こえてきます。バクスタから船と船の技術を集めているようですね」


「そうか」

 そこから考えられることは、その船を使って海路からこのクレイデルへ攻め入るという方法か。だが、ただ船を集め、そして新しい船を作っているという状況だけでは、デーセオとしては何も動くことができない。国に伝えるとしたら国境の敵の守りが薄くなった、ということだけだろう。

「悪いが、引き続き情報収集を頼む」


「承知しました。これからデーセオ様のデートに水を差すようなことを申し上げてしまい、大変申し訳ございませんでした」


「な。で、デートでは、ないぞ。し、視察、だろうが」

 なぜこのティメルという優秀な部下は、すぐに人の心を読んでくるのか。


「そうでした、視察でしたね。失礼しました」


 こいつはわかっていてそのようなことを口にしている。ということにさすがのデーセオも気付き、何かしら反論をしたいと思ったのだが、先ほどからレーニスを待たせていることに気付いてやめた。


「では、お気を付けて」

 と言うティメルの声が少し震えていることにデーセオは気付いた。この男は、と心の中でだけで毒づいておくことにする。


「レーニス」


「ティメルとのお話は終わったのですか?」


「ああ、待たせてしまってすまなかった」


「いいえ。今も飛竜さんとお話をしていたので、大丈夫ですよ」

 そのレーニスの言葉に、デーセオは飛竜をじろりと睨む。飛竜は怯えたようにしてレーニスに首を伸ばすものだから質が悪い。なぜこのような態度をとる者たちしかデーセオの周囲にはいないのか。


「では、行くぞ。飛竜の背に乗るからな」

 もちろん、レーニスにとっては飛竜に乗るということは初めてのこと。服装もいつものドレス姿ではなくズボン姿。以前、馬に乗った時と同じような格好だ。

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