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37.視察の予定(1)

 そっとレーニスが離れた。

「終わりました。気分は、どうですか?」


「悪くはない」

 残念ながらティメルからはレーニスの背が邪魔で、デーセオの表情が見えない。あのえろ親父のことだから、顔をだらしなくデレっとさせているのは目に見えているのだが。


「ああ、よかったです。四つの呪いのうちの一つが解呪ができたと思います。本当は進行性の呪いを最初に解呪したかったのですが、どうやら今の私の力では無理なようで。それを抑えたうえで、他の呪いの一つを解呪しました。他の呪いも少し複雑ですので、もう少し旦那さまからお話を聞いてからの解呪になるかと思います」


 レーニスがすっとデーセオから離れ、ティメルからもその顔が見えるように立った。


「なんと。はぁ……さすがです……」


 ティメルから漏れた言葉はそれ。それしか言いようがない。

 デーセオの顔を覆っていた刺青のような模様が、先ほどよりも薄くなり、複雑な模様を形成していたうちの一つが無くなっているように見える。


「レーニス様。レーニス様の力を確認してもよろしいでしょうか。その、解呪によってどれだけ力を使ったのかを確認したいのですが」

 ティメルが口にするとデーセオがジロリと優秀な部下を睨む。その顔は、またかと言っているのだが、レーニスがそっと手を差し出したため我慢しているようだ。


「では、失礼します。……。先ほどより弱く感じますが、それでも力が無くなったという感じはしません」


 その言葉にレーニスはほっと胸を撫でおろす。


「なぜだ?」

 デーセオが尋ねた。

「なぜ、急にレーニスの力が戻ったのだ?」

 それを望んでいたにも関わらず、それが不思議に思えて仕方ない。


「恐らく、まあ、私の推測ですが。レーニス様は聖なる力を使いすぎていたのではないでしょうか。他の聖女や聖女候補たちよりも、誰よりも多く祈りを捧げていたとお聞きしていますので。需要と供給の関係のバランスが崩れ、それで聖なる力が枯渇してしまったのではないでしょうか。こちらにきてから、祈りを捧げることなく暮らしていたので、それで徐々に回復したのか、と」


 足を組んで腕を組んでいたデーセオはなるほど、と頷く。と同時に、隣で難しい顔をしているレーニスに気付く。


「どうかしたのか?」

 デーセオに声をかけられたレーニスは、はっと顔をあげる。


「あ、いえ。その。力は失われていなかったんだな、と。そう思ったら、少し」


「そうか」

 そこでデーセオも考えるところはある。もしかしたら彼女は、あの神殿に戻りたいのではないか、と。彼女に力が戻ったことは喜ばしいことではあるが。


「レーニス」


「はい」


「もしかして、神殿に戻りたいのか?」


 レーニスは驚いてデーセオの顔を見上げた。これは完全に二人きりの世界である。恐らくティメルのことを忘れているのだろう、とティメルは思わずにはいられない。


「あ、いえ。そういうわけではありません。それに、一度聖女候補を解かれた身。そんな簡単にあそこへ戻れるとは思っておりませんし」


「そうか」


 彼女の言葉にデーセオもなぜか安堵する。彼女のことだから、民たちのためにあの神殿に戻りたいと言い出すのではないかと思っていたからだ。仮にそうなったとしたら自分は彼女をあきらめきれるのだろうか、と。


「ですが。困っている人がいるのであれば、力になりたいとは思います」

 それが彼女の本音なのだろう。間違いなく。

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