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35.解呪の方法(1)

 ティメルがレーニスの手に自分のそれを重ねた。じんわりと触れる手が熱を帯びてくる。

 ピクリとティメルの口の端が動く。


「どうかしたのか?」

 ティメルの微妙な反応にデーセオは気付いた。ティメルもデーセオの微妙な反応に気付いた。だから、もう少し試したいことがある。


「レーニス様。手を握ってもよろしいですか?」


「はい」

「ダメだ」


 とレーニスとデーセオが答えたのは同時だった。レーニスは困ったように首を傾げてデーセオを見上げる。もしかしたら、これがデーセオに言うことを聞かせるためには最も効果的な方法なのかもしれない。


「レーニスが、いいと言うのであれば、認めて、やっても、いい」

 渋々という言葉が似合うような言い方だ。


「ティメル。お願いします」


「それでは、レーニス様。失礼します」

 ティメルは指を折り、重ねただけであった彼女の手をぎゅっと握った。デーセオの顔もぎゅっと歪む。


 やはり、とティメルは思った。本来、ティメル程の魔術師であれば、相手がどれだけの術師なのか、とか、聖女としてどれだけの力量をもっているのか、とかは、同じ空間にいただけでわかる。

 だが、レーニスのそれはわからなかった。こうして触れて、ぎゅっと握りしめるまでは。まだ彼女の力が不安定なのだろう。


「レーニス様から、聖なる力を感じます。こうやって触れなければわからないので、以前のような力ではないかもしれませんが」


 ティメルが言い終わるか終わらないかのうちに、デーセオの手が伸びてきた。そしてティメルの手首を掴むと、レーニスの手から無理矢理引き離す。


「わかったなら、もう触れる必要は無いよな」


「はいはい」

 ティメルは苦笑するしかない。

 それよりも、レーニスはちょっとだけ心臓がパクパクと言っていた。聖なる力を感じるとティメルが言っていたからだ。


「あの、ティメル。もしかして、その私の力は、戻ってきた、ということでしょうか」


「戻ってきた、というよりは戻ってきているという表現の方が正しいかもしれません」


「戻ってきている……」


「泉の底から水が湧き出て、その水が溜まっている途中、と言いますか。つまり、泉を作っている最中と言いますか」


 レーニスはティメルが言いたいことをなんとなくイメージできた。そして、なんとなく理解できた。

「そうですか……」

 ふぅ、とレーニスが小さく息を吐くのと同時に、その二つの赤い目からはぽろぽろと涙が流れ始める。

 するとわたわたと慌て始めたのがデーセオ。


「ど、どうした。レーニス。ティメルにいじめられたのか?」


 ティメルはため息をついた。今までの流れで、自分がこの可愛らしい女性をいじめる過程があったとでも言うのか。

 レーニスもふるふると首を振る。


「違います、旦那様。その、安心したと言いますか。その、なんと言いますか。よくわかりませんが、その、この力で旦那様の呪いを解呪できるかもしれないと、そう思ったら……」


 デーセオは隣に座るレーニスを勢いよく抱き締めた。


「だ、旦那様?」


 レーニスは驚いて腕の中で彼を見上げると、デーセオは耳元で「俺以外にその顔を見せるな」と、向かい側にいるティメルに聞こえないように呟く。それに驚いたのか、彼女の涙はぴたりと止まる。


「あの、取り乱しましてしまってすいません」


「落ち着いたならいい」

 デーセオはゆるりとその腕を解くと、どこからかコホンというわざとらしい咳払いが聞こえた。

「デーセオ様は、私の存在を忘れておりませんかね?」


「忘れてはいない。だから、邪魔なんだ」


「邪魔って。そもそも私を呼び出したのはデーセオ様ではないですか」


「あの……」

 その場を取り繕うかのようにレーニスが声をあげる。

「解呪を行ってみてもよろしいでしょうか。その、旦那様に。できればティメルにも立ち会っていただきたいのですが」


「もちろんです。とても興味深い」


「おい、ティメル。レーニスに興味を持つな」


「私が、興味があると言っているのは解呪の儀式ですよ」


「レーニスには興味が無いと言ってるのか」


「あると言ったら、持つなというし。無いと言っても難癖つけられるし。だったら私にどうしろと?」


 困り果てたティメルが肩をすくめると、レーニスはくすくすと笑っていた。

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