31.夫婦の時間(1)
「なっ……、わかる、のか?」
「あ、はい。その、旦那さまからは四つの禍々しい力を感じます。そして、恐らくそのうちの一つが進行性の呪い。あと半年ほどで、その進行性の呪いが旦那様の命を奪います」
まさかの死の宣告。あと半年の命。いや、それよりも。
「レーニス。お前が俺の呪いに気付いたのは、いつからだ?」
「いつから? 今です。その、旦那様に触れられた時に」
「触れたのは今だけではないだろう。以前にも触れ合っていたはずだが」
「あ、はい。そう言われると、そうですね。ですが、そのときにはわかりませんでしたが、今ははっきりとわかります」
どういうことだ、とデーセオは口の中で呟いた。一月以上も前には気付かず、今は気付いた。何が起こったというのか。
誰に何を確認したらいいのか悩むところだが、このようなことはあのティメルに相談するしかない。彼女とティメルを会わせるべきかと思ったが、このような薄着の彼女をティメルに会わせたくはない。
「旦那様、どうか、されましたか? おやすみにならないのですか?」
「あ、ああ。そうだな」
「その、呪いにつきましてはもう少し詳しくお話しを聞かないとわからないところもありますので。その、もし、旦那様のお仕事の方の手が空くようであれば、私の方で視てもよろしいでしょうか」
「是非、頼みたい。俺も、お前には伝えたいことがたくさんある」
「私もです。お手紙では伝えられないことがたくさんあります。今日は旦那様にお会いできてよかった」
「ああ。今日はもう遅い。だから休め」
「ですが。旦那様は朝もお早いのですよね。お話をするのであれば、今しか」
そこでデーセオは、もう片方の手で優しく彼女の頬を包んだ。
「安心しろ。明日はゆっくりできる」
「ずっとお仕事でしたからね。お休みがもらえたのですね」
どうやらレーニスはそう解釈したらしい。そう思ってもらえるのであれば好都合。デーセオはそうだ、と呟いた。
「着替えてくるから、手を離してもらってもいいか?」
「はい」
レーニスのその声は少し恥ずかしそうに、どこか嬉しそうに聞こえた。
デーセオは急いで寝間着に着替えると、レーニスの隣へと潜り込む。まだ起きていたレーニスはそれに気付いて、デーセオの方に手を伸ばす。彼女の手が、デーセオの手に触れた。
恐らく今日は、いい夢を見ることができるだろう。
そう思ってデーセオは目を閉じた。
デーセオは突き刺さるような視線を感じた。はっと目を開けると、目の前にはレーニスの顔がある。
「おはようございます、旦那様」
「ああ、おはよう」
挨拶を返すと、すっとレーニスの手が伸びてきて、デーセオの頬に触れる。
「やっと、旦那様のお顔を見ることができました」
その言葉で今、彼女にその顔を晒してしまっていることに気付く。それでもレーニスは愛おしくその頬を優しく撫でている。
「お前は、俺が怖くないのか?」
その言葉に、キョトンという表現が相応しいような表情をするレーニス。それからゆっくりと口元を綻ばせて。
「はい、怖くありません。旦那様がお優しいこと、存じ上げておりますので。それに、とても可愛らしい寝顔でしたよ」
目の前のこの妻は女神の化身ではないのか、とデーセオは思った。いや、彼女は聖女候補であったことを理解しているつもりだが、デーセオにとってはそれ以上の存在だ。
「そうか。怖くないなら、顔を隠す必要は無いな」
「もしかして、私が怖がると思っていつも顔を隠されていたのですか?」
レーニスはその手でデーセオの髪の毛をかき上げた。顔がくっきりと見えるように。
「とてもお優しい顔立ちをしておりますよ」
そこでレーニスはデーセオの額に口づけた。呪いの模様がくっきりと表れているその額に。
すると、そこがぱっと熱を帯びたように感じた。いや、デーセオ自身はこのように彼女に触れられて、全身が熱を帯びている状態ではあるのだが、特にその額が他のどの部位よりも高熱になった感じ。
それから、一瞬、眩しい閃光が走る。それはデーセオから見えるものではなかった。だからデーセオ自身は気付かない。それよりも気になっていることが一つ。
「レーニス。すまないが、少し離れてもらっても良いだろうか? その、俺も男だから、それ以上密着されると、少し困ったことになる」
その言葉にもキョトンというような表情を見せるレーニス。それから名残惜しそうに、デーセオに伸ばしていた手を引いた。




